成人式のスーツとagnes b.の思い出 結城永人 - 2017年1月9日 (月) 実際に参加してみると成人式では、皆誰しもちゃんとした服装だったので、びっくりした。気に入ったスーツや着物を着て来ていたのではないか。 当たり前かも知れないけど、ところが前以て「着せられて行くんでしょ?」(妖精的な人)と聞かされていて何だろうと不思議な気持ちにさせられてしまっていたせいだ。 僕は自分で好きなファッションブランドだったagnes b.(アニエス・ベー)のスーツを買い込んで――スーツとシャツとネクタイとベルトで十万円以上もかかって非常に高価だった――準備万端に整えていたし、成人式の服装は自分で着て行くつもりだった。 妖精的な人の言葉には深いものがあって聞きながらリアクションにも躓かされたようだった。女性で着物だから本人が自分では着れなかった記憶とか世の中の仕来たりに合わせる生活がそう呼ばれていたなんて感じだけれどももう一つ気になったのは二十歳までの思いが集約されているのではないか。 今から振り返ると非常に詩的だったし、重視されるべき成人式のイメージを明らかに示してくれていた。二十歳まで自分一人で生きて来たわけではないので、周りから差し伸べられた全ての手に対する感謝の思いこそまるで服装のように着せられていたんだと心から味わわれて止まなかったし、聞き捨てならないフレーズとして人生に残されている。 因みに妖精的な人は自作詩のブンビミで歌われた「気さくな女性」のモデルだった。ファッションについて少し取り上げたけれどもagnes b.も着ていた。一目で分かるような前にボタンが幾つも目立って縦に並んでいるデザインの定番のガーディガンだったから直ぐに気付いた。黒だったけれどもそんなふうに服装の好みが似ていたので、生活スタイルに取り分け共感を抱かざるを得なかったんだ。 僕は男性向けのagnes b.で、agnes b. homme(アニエ・ベー・オム)で成人式のスーツを買い揃えたいと店に出かけた、勇んで。 洋服をスーツ一式で選ぶというのは初めてで、本当に良く分からないまま、何が良いかと店の中でふらふらしていたかも知れない。 すると店員に声をかけられた。成人式のためにスーツが欲しいと事情を口にすると呆気ないほどに素早く持って着てくれたから捗るばかりの買い物だった。 記憶では自分で選んだ感じが殆どしない。店員がスーツ一式の組み合わせからどれが良いかと幾つか見せるわけだけど、最初のままで納得してしまった思い出がある。 振り返るといつも素晴らしい店員に巡り会えたのではないかと成人式にかぎってこその有り難みに胸打たれもする。 ただし購入したagnes b.のスーツが本当に良いかどうかは謎だった。洋服で本当に良いかどうかがはっきりしないままに選ぶなんて珍妙ながら否定できない。 後から知ったのはテレビで小泉首相のファッションがかつて話題になって服飾の専門家が灰色のスーツと水色のシャツと緑色のネクタイの組み合わせが女性に好まれ易いと指摘していてそれと僕の成人式のスーツの彩りが全く同じだったためなんだ。 agnes b. hommeでスーツ一式を持ってくれた店員も女性だったから自分の着て欲しい組み合わせこそ真っ先に示されたのかも知れなかった。 考えてみれば素敵だし、成人式に灰色の落ち着きと水色や緑色の爽やかさが得られたのは喜ぶべきだったと好運を覚える、やはり。 僕としては彩りにイメージが湧かなかったせいで、本当に良いかどうかがはっきりしないままだったんだろう、スーツの。スーツというと全体的に捉えてどうするべきかと悩んでしまっていたのではないか。店員が示したようにスーツはスーツだけではなくてシャツとネクタイとの組み合わせによってイメージも全体的に沸いて来るわけなんだ。洋服も一つだけ選んで手持ちの他の何かとどう合わせるかみたいな買い方では気持ちが追い付かないと思い知らされてしまった。 家族や親戚は成人式という晴れの舞台に灰色のスーツでは地味過ぎると嘆き捲るし、成人式に参加した他の皆も明るい彩りのスーツや着物が多かったので、注目されるほどに違和感も可成と受け取られた。 自分が着たいものを着ているだけでは人々の典礼の際には必ずしも合わないにせよ、好きなスーツを着ることのできた成人式だったのは嬉しくないわけがなかったし、望み通りに迎えられた一生に一度の思い出として胸に正しく刻まれている。 コメント 新しい投稿 前の投稿
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