謎に満ちた心の優しい愛:谷川俊太郎の詩にMISIAが曲を付けたKISS AND HUG 結城永人 - 2018年10月22日 (月) 気に入りの歌手のMISIAが面白い詩人の谷川俊太郎の詩に曲を付けて歌っていたと知って興味や関心が涌き上がらずにいなかった。 2007年にJ-WAVEのKISS AND HUG(ラジオ)のBenesse HUG HUG CHUという「未来に世界へ羽ばたいていく子供たちのために!」のコーナーで谷川俊太郎の詩集を紹介していて本人が反対にBenesse HUG HUG CHUを聞いている子供たちのために書いた詩にMISIAもやって来て曲を付けてテーマソングになったらしい。 曲名はラジオ番組と同様にKISS AND HUGという MISIAのRoyal Chocolate Flush / BMG Japan MISIAのシングルのRoyal Chocolate Flushの四曲目に収録されている。タイトルの英語を訳すと接吻と抱擁で、欧米人ならば挨拶で日常的にやっているような人間の親しい触れ合いの一つだろう。大体は赤ちゃんへの接し方に含まれている。そして恋人同士などの世界共通の感覚とも考えられる。イメージを纏めると好きな気持ちそのものの優しい愛を象徴的に示している。 元々のラジオ番組のKISS AND HUGが「UNIVERSAL LOVE(人や地球にやさしい眼差しを持ち続けよう)」をテーマにしていたけれどもテーマソングのKISS AND HUGを聴いてみると作詩した谷川俊太郎も作曲したMISIAも良く分かっていて素晴らしいと好感を抱いた。 誰かが 誰かを愛してる それが世界の始まりだ KISS AND HUG 本当の笑顔で KISS AND HUG 嬉しいときは KISS AND HUG ララララララ うその笑顔はいらないよ 涙と涙が溶け合って 泉のように透き通る KISS AND HUG ほんとのきもちで KISS AND HUG 悲しいときは KISS AND HUG ララララララ うその気持ちはいらないよ 命が命を養って 今日が明日を作ってく KISS AND HUG ふるさとちきゅうに KISS AND HUG こころのなかで KISS AND HUG ララララララ うちゅうにうかぶあおいほし MISIAのKISS AND HUG 優しい愛というと世界を満遍なく埋め尽くした花畑みたいな平和を味わわせるけど、ただしそれ自体は滅多に経験されるイメージではないからもしも創作するならば注意しなくてはならないだろう。 何よりも心が謎に満ちているせいで、例えば夏目漱石の小説のこゝろでは大事な友達のKが失恋して自殺したり、または「見えぬけれどもあるんだよ」(星とたんぽぽ)と受け取った詩人の金子みすゞも子供を失って実際に自殺したりするように生活上の表現力/人間性の強度が物凄く問われる。 命懸けでしか口にできない真実を伴っていて死を通過しないと正しい認識が保てない感じがする Embrace by Christiana Rivers / Unsplash KISS AND HUGの詩、谷川俊太郎の言葉は死を巡って優しい愛を本格的に捉えているのが流石に日本を代表する詩人だと脱帽させる。 三連目の「命が命を養って」が一つの極限的な緊迫感をあからさまに伝えている。愛するほどに謎に満ちた心を追い求める中に優しさが現れて来るのをどれだけ捕まえられるかみたいな詩人の眼差しが込められている。面白いし、受け手と送り手の谷川俊太郎自身も試される、命懸けで守られる正しい認識を手放したら「世界」や「透き通る」(煌めきの彼方)や「明日」は終わりだろうと。そして優しい愛とは何かを自己証明に代えて提示するのが誠実な生き方を教えもする。分からないままにしては死を乗り越えられないし、何もかも意味がなくなるわけなので、今此処から生きるかぎりは想像力を駆使して人それぞれが見出ださなくてならない、自殺するよりも。谷川俊太郎は「あおいほし」と宇宙船から良く知られる地球の寂しくも美しい姿に優しい愛を根拠付けたようだ。 素敵な言葉だと思うし、人間として有耶無耶にするべきではないテーマ――心の闇に呑み込まれて自殺したり、どうにも乗り越えられない死のために存在を失った悲しみを放り出すような真似はするな――を掲げてちゃんと締め括っているのは芸術的に気持ち良いし、優しい愛に頷きながらちょっと安心する。 MISIAは谷川俊太郎のKISS AND HUGの詩の言葉から優しい愛へ詩人としての誠実な生き方を感じ取って深く信頼しながら作曲できたのではないか。 二連目の「うその笑顔はいらないよ」とか三連目の「うその気持ちはいらないよ」なんてフレーズは代表曲のEverythingのMISIAが作詞した「やさしい嘘ならいらない」に通じ合う響きを持っていて驚く。 ラブソングで恋人の誠実さが表現されているからモチーフは重なるけれども谷川俊太郎も人間の誠実さとして表現するところで感性が似ていたわけだろう。 結構、意外だ、ところで。例えば「私は詩人ではない」(鳥羽/旅)と訳の分からない言葉遣い(もしも只の人ならば詩を書くのを止めないのはなぜだろう)こそ谷川俊太郎のキャラクターだから真実を単刀直入に追及するのは珍しいようだ。内面の宇宙から捉えようとすると物事の真偽はぼやけてしまうだけの《魂の叫び》をいつも大事にしながら作詩したいのかも知れない。KISS AND HUGの詩はただし優しい愛を巡って自身の態度を真実に決めて誠実に歌わずにいられなかったとすると特別な気持ちを知ると共にとても感心する。 MISIAが付けた曲は明るく楽しく力強い。本当に良い人と出会えた喜びから全てが純粋に表現されているようだ。優しい愛が溶け込んだKISS AND HUGは人生の鋭気が心から養われる微笑ましい音楽だ。 参考サイトJ-WAVE HUG CHU CHU presents KISS+HUG PARTYMISIA、ひな祭りに親子限定ライブ コメント 新しい投稿 前の投稿
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