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些細な日常

実体は本性上その変状に先立つ|スピノザのエチカの第一部定理一

スピノザエチカの第一部:神についての定理一を心からの敬愛を込めて理解する。

定理一 実体は本性上その変状に先立つ。

証明 定義三および五から明白である。

バルーフ・スピノザのエチカ(畠中尚志訳)

第一部定義三と定義五はそれぞれに実体と様態/実体の変状の概念を示している。

三 実体とは、それ自身のうちに在りかつそれ自身によって考えられるもの、言いかえればその概念を形成するのに他のものの概念を必要としないもの、と解する。

バルーフ・スピノザのエチカ(畠中尚志訳)

端的にいうと単独性を持つ対象が実体で、存在と認識において独立性を持つ可能性によってスピノザは定義している。独立性がないと単独性は個別性と区別できない。従って実体は複数かも知れない場合が出て来る。スピノザは可能性でも実体に独立性を与えることによって個別性と複数という特徴を切り捨てている。実体はもしも数えるならば唯一でしかないような単独性を持つ対象でなくてはならない。

五 様態とは、実体の変状、すなわち他のもののうちに在りかつ他のものによって考えられるもの、と解する。

バルーフ・スピノザのエチカ(畠中尚志訳)

端的にいうと個別性を持つ対象が様態で、存在と認識において相互性を持つ可能性によってスピノザは定義している。相互性において個別性は複数としてしか捉えられない事柄だと分かる。すると単独性とは相容れない状態なのも明らかで、かりに数えても唯一の可能性のない特徴を示すのが個別性と断定される。

スピノザのエチカの第一部定理一では実体の様態に対する先行性が認識される

実体の変状という様態ではなく、実体がそれ自身のみで成り立てば妥当だけど、ただし「本性上」なので、反対に実体なしに様態が成り立つという逆向きの先行性もないように理解しなくては誤っている。

第一部定義五は様態が実体なしに成り立たない(何等かの原因で変状した実体の結果でしかない)後発性を表現しているから実体に対する先行性は持たないと分かる。

第一部定義三は実体が単独性を持つ、すなわちそれ自身でしか成り立たないと示しているから他の全てに影響を受けないわけだ。

すると実体にはそれ自身の内側にしか先行性も後発性もなくて何れもそれ自身に関係する対象にしか当て嵌まらないとも分かる。

実体しかなければ全ては同時に捉えられるはずだから先行性も後発性も想定されるのは様態に対してだけだ。いうまでもなく、それは実体の内側での実体との結び付きとして概念されなければならない。さもないと他のものから実体が捉えられて実体の定義に反してしまう。

様態から捉えると様態の定義の実体の変状として実体なしに成り立たないから様態の後発性と実体の先行性の本質的に対置される概念上の差異は「明白」だけれども注意しておきたいのは様態の実体への依存性だろう。

様態の後発性はその本性の一つの側面だから先行性を持つ実体と根源的に区別されて実質的に把握されるかぎり、もはや独立性を持たない代わりに依存性を持つという性質も明らかにされている。

スピノザは言葉も特に添えないないけれども第一部定理一の実体の先行性の認識は証明において様態の後発性だけではなくて依存性の認識も伴って非対称なのが面白い。

実体の独立性は定義通りに様態なしにそれ自身で捉えるけど、様態の依存性は他のものを実体として捉えるので、そうした点では存在も認識も対等ではない世界を受け取らせる。

先行性と後発性は対等で、実体と様態の関係として対称的なのと独立性と依存性の概念は原理的に入れ替わっている。

様態の依存性は定義通りではなく、他のものが実体として捉えられるかぎりでしかない。すなわちこれは相互性ではない前提条件を示していて実体への後発性を踏まえると内容的に上回る含意なんだ。最低限、実体という他のものが確実になくては様態という実体の変状はあり得ないし、考えられない。言葉遣いが同語反復だから笑ってしまうけれどもそれ自身で独立性を持たないかどうか、結局、実体の変状が実体と一致しても成り立つという不条理を防ぐために必要なのが様態の依存性なんだ。

スピノザはエチカの第一部定理一の実体の先行性の証明によって実体と様態との根源的な区別も手に入れている。変状する前と後では実体は本質的に異なるから総じて同一視されてはならないけれども物事の個性を形作る性質の面からも確実に知られるようになる。

実体と様態は先行性と後発性で順序的に相容れないのと変わらず、独立性と依存性で個性的に相容れない。

もしも順序的な認識だけだと本性上の相違とはいえ、実体が様態なしに成り立つ特異性が曖昧になってしまう。先行性は様態と共に成り立つ実体しかないように感じられもする言葉遣いだ。だから実体のそれ自身で成り立つ真実を明確化するために定義通りの独立性に加えて変状した場合には様態としての依存性から完全に切り放して捉えるのが良いと思う。

スピノザの実体の先行性は「本性上」の概念だから様態に対しては特異性を含む。実体と様態の定義から「明白」だけれども独立性を捨て去って順序的に捉えるだけでは本当は理解できない。様態なしに成り立つ実体の特異性を踏まえると反対に様態の依存性から内容上は非対称的でも対置されて実体の独立性が保持されるように認識するのが正しい。

エチカで何の説明もないし、本質的に先行すると思考した時点で実体と様態の独立性と依存性の個性の違い、すなわちそれぞれの特異点が含意されるので、取り上げなくても理論的に大丈夫なのは確かだけど、ただし概念上は全く誤解されないと安心するわけにも行かないから敢えて追求しておくのは決して無駄ではない。

実体が先行して様態が後発する互いに相容れない順序的な捉え方から改めて後者なしに成り立たない前者を本質的に思考する(それぞれの定義からは不条理でしかない)失敗を犯さないためには後発する様態は依存して先行する実体は独立するという性質上の違いを弁えながら覚えるのが役立つ。

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