英語の小説、エドガー・アラン・ポーの黒猫の日本語訳で気になった英文法に接続詞のifが省略された倒置の仮定法があった。
倒置の仮定文/接続詞のifがない
Had I been able to meet with it, at the moment, there could have been no doubt of its fate;
会うことができたらその瞬間に悲運が訪れたのは疑い得なかっただろう;
通常の仮定文/接続詞のifがある
If I had been able to meet with it, at the moment, there could have been no doubt of its fate;
通常の仮定法のif接続詞は省略してその節の主語を主語の直後の動詞か助動詞と入れ換えて倒置の仮定法として表現することができる。
ただし倒置の仮定法に適用される動詞か助動詞は定型的に決まっていて何でも主語と入れ換えて構わないわけでもないらしい。
なので接続詞のifがない文、倒置された条件節は一般的な強調のための倒置文と全く同じ扱いにはならないし、意味付けも強調するためのものではない。
昔、新聞などで記事の限られた文字数を節約するために始まったとされる。従って文字数が増えるような倒置文にはならず、例えば動詞の強調で主語の前にdoやdidを付け足すような表現は基本的に取らない。
書き言葉/文語を中心に使われて話し言葉/口語で使われることは滅多にない。英語の文章としては古風で格調が高いとも捉えられるようだ。
倒置の仮定法に適用される主な動詞と助動詞
- were_仮定法過去のbe動詞
- should_仮定法過去の助動詞
- would_仮定法過去の助動詞
- could_仮定法過去の助動詞
- might_仮定法過去の助動詞
- had_仮定法過去完了の助動詞
否定の場合、notは文頭のbe動詞や助動詞に続けて置かれず、主語の後ろに残る。
Were I not a poor, I would also buy a house.
または
If l were not a poor, I would also buy a house.
貧乏人でなければ家を買いもするのだ。
倒置のif構文は強調する意図がないせいか、否定が主語の前に出て目立つこともない。
If I was you, I wouldn't do that.
私が君ならばそんなことはしないだろう。
仮定法のif節に単数形の主語で「was」が使われる場合――通常の「were」よりも可能性が高い物事の表現――文頭に置かれず、倒置されることは殆どないらしい。というのは「was」の用法は話し言葉/口語が主体なので、書き言葉/文語が主体の倒置のif構文には馴染まないせいなんだ。
今時の英語では接続詞のifを省略した倒置の仮定法の表現が取られること自体が古めかしくて非常に少ないようだ。
コメント