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エドナ・ファーバーの帰って来た男の日本語訳

十九世紀から二十世紀のアメリカの作家、小説家で劇作家のエドナ・ファーバーの小説の帰って来た男(1912)の日本語訳を行った。一つの文学作品として人間の洞察力に富んだ優れた内容を持つだけではなく、表現も意義深いから外国語の英語の聞き取りと読み取りの教材としても最適だと感じる。

エドナ・ファーバーの帰って来た男の原文と朗読

流し目のエドナ・ファーバー
Edna Ferber by Unknown / Public domain
The Man Who Came Back by Edna Ferber/エドナ・ファーバーの帰って来た男
原文:Wikisouce作品集
朗読:LibriVoxフィル・シェネヴァート

両方ともパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。

エドナ・ファーバーの帰って来た男の日本語の訳文

結婚式で口付けを交わす黒いタキシードの男と白いドレスの女に白いベールがかかっている

「不名誉」と戦う二つの方法がある。帳消しにするか逃げ去って隠れるか。最初のものは心を傷めるが、確実だ。二番目は最後の只一つの町から逃れたと思ったときに正しく「不名誉」が踵を返して現れる不愉快な方法だから信用できない。

テッド・テリルは最初のすべを選ばなかった。自分に無理に押し付けた。満期を務めた後、テッドは母親の墓を訪れようと家に帰って来、次の列車には乗るつもりでいた。本で読まれる獄中の蒼白さは見られなかった、なぜなら彼は刑務所の選り選りの野球チームの遊撃手だったし、苛烈なゴロを拾い上げる俊敏さで有名だったからだった。語り種の密集行進や刈り揃える髪の様子も免れていた。テッドの監獄の所長は改革種の人だった。

テッドは決して犯罪者に選び取られないだろう。あの興味深い骨相学の隆起や沈下、すなわちベルティヨンの写真に大層と露な特長が示されるものはなかった。テッドはシティズンズ国立銀行の出納副主任だった。気がどうかした刹那に手先の早業をやってみてしまったのだが、あるシティズンズ国立の資金がある光り輝く株式に移されて再び戻されるのが余りに速くて検査官が目で追えないくらいだったのだ。しかしテッドはそれらの見えるかな・良いかい・さぁ消えたぞの芸当に慣れなくて手が滑った。その企ては物凄くガラガラ鳴って床へ落ちた。

テッドは愛らしい少年で、身長6フィート、金髪、飾り屋として大変に評判だった。私たちの町で黄色いプラッシュ帽を初めて被った。金色の頭に光の輪みたいに載っていた。女たちはテッドが皆好きだった。ダンクワース夫人、派手な未亡人(なぜ未亡人が派手さに固執するのだろうか?)は彼が私たちの町で男性用礼服の着方が分かる只一人の男だといった。男たちは絶えず、彼の背中をピシャリと打ってちょっとした頼み事をした。テッドの持ち併せる外見の美しさや巧みな話術や正しく引き付けるアイルランド流は自らが社交界の名士たちから取り上げられる要因となった。現今、もしも小さな町の住民でなかったとしたら社交界の名士を自慢する考えはもっと面白がられるだろう。無知を証明するのは誰かしら。小さな町の社交界の名士はその洒脱について大真面目だ。一足の靴を合わせてカルーソーを聴くために六時間を費やして町を抜けて行くのを好む。服装は仕立て良く、醜聞は明快で、歩調は慌ただしく、ゴルフクラブは鈍だが、地方出の服装、醜聞、歩調、ゴルフクラブと同じなのだ。

テッドは慌ただしい歩調に消耗させられた。私たちの町を作った父親を持つ若人の集まりに足並みを揃えようとした。もはやいつでも手帳は「どうどう!」と叫んでいた。若者の多くが緋色の内張りの乗用車やカントリークラブの行事やホームパーティーへ小都市の若い世代にありがちなように傾倒した。テッドが高校に通った頃は彼の小さな徒党を組んだ少年たちの半分が放課後を光り輝く車のハンドルの前に背中をずり落として座り、袖を捲り上げ、髪を好戦的なポンパドールに梳りながら大通りへ突進して回って過ごした。彼らの誰か一人はいつもテッドを連れて行った。そうした類の趣向を持つようになるのはとても容易い。彼が成長するに連れてその趣向は根付いて習慣になった。

テッドは満期を務めた後に出て来た、物語作家が逆にに教えたかも知れない一切にも拘わらず、美男子のまま。しかし私たちは古い口伝へはこんな譲歩を行おう。違いがあった。彼の目映いブロンドは何か触れられないくらい、捉えどころがなさそうに霞んでいた。バーディ・キャラハン、テッドの母親の台所で何年も働いていたが、その女主人の死後にへイリーハウスでの古い仕事に復帰した者が悲しんで云った、このように:

「彼はいつも美男子の悪魔だった。あたしは彼のためにその上等なシャツを皺を伸ばす喜びのアイロンの日を待ち望んだものだった。お洒落な金髪の人が大好きという。しかしあたしは知らなくて彼は変わってしまった。刑務所暮らしで髪と顔は萎えてしまった。色は変わらず、気にかかるか、ただ鈍くなったけど、金の指輪かそんなものみたく、それは雲ってしまった」

テッドは喫煙車の座席に着いていた、肩に木片で、心に知る人と出会すことの吐き気を催すような恐れを抱くまま、へイリーハウスのジョー・へイリーが、帰省の途、ウエストポートで乗ったとき。ジョー・へイリーは私たちの町で最も結婚相手に相応しい独身男性で、しかも最もあやふやな人だった。へイリーハウスを逸品にし、そのゆえに旅人は六つの町を飛ばして、日曜日、そこへ行くのだ。もしも彼が私たちの町の少女の誰かに「これを跳び越えろ!」というとすれば彼女は跳ぶだろう。

ジョー・へイリーは客室の通路をテッドの方へゆっくり漫ろ歩いた。テッドは彼が来るのを見るや本当にじっと座り、待っていた。

「こんにちは、テッド! テッドは元気かい?」といったジョー・へイリー、気楽に。するともはや騒ぎ立てずに隣の席へと腰かけた。

テッドは唇を微かに濡らして何かをいおうとした。彼は軽口者だった。ところが言葉は出て来ないのだ。ジョー・へイリーは矢継ぎ早の会話で、その状況を隠そうとはしなかった。彼は隠すべき状況になっていると少しも認識しているようではなかった。葉巻の端をぐちゃぐちゃ噛むと一本をテッドへ手渡した。

「さて、唇を舐めたな、坊や。これからどうするつもりだい?」

浅はかさにテッドはたじろいだ。「おぅ、分かりません」、彼は口籠った。「シカゴに凡そ契約した仕事があります」 。

「何するの?」

テッドは短くも醜く笑った。「醸造所のトラックの運転です」。

ジョー・へイリーは口の反対側へ葉巻きをほいと器用に投げるとその膨らみに沿って思案げに目を細めた。

「最近六年間に俺の帳簿を付けていたあのウェンツェルの娘を覚えてる? 婦人用クロークとスーツを売りに出るニューヨークの奴と結婚するために数ヵ月で離れることになる。消えた後、俺に婦人の帳簿係はいない。といってミニーが良くなくて真っ直ぐではなくて信頼できないわけではない、しかし片目で数字の列を、もう片方で茶色のスーツと赤いネクタイの外交員を見ながら帳簿を付けられる女子はいない、藪睨みでないかぎり、きっとミニーじゃないね。その仕事はお前のものさ、もしも欲するならば。手始めに食事付きで月80ドル」

「僕には――できません、ジョーさん。とにかくありがとう。もう一度、やり直すつもりでいます、他のどこか、誰にも知られないところで」

「おぅ、そうだな」といったジョー。「俺はそうやった仲間を知っていた。出て来た後、髭を伸ばして眼鏡をかけて名前を変えた。早口で明快な話し方だったにせよ、ゆっくりとしたのを養って西部へ行き、事業を興した。思うに不動産だ。ともかく、二ヵ月目、彼はそこで昔から知っていた愚か者と行き交わした、そして喚かれる:『おや、ビルじゃん! こんにちは、ビル! まだ刑務所暮らしだと思ったよ』。それで十分だった。テッド、お前は顔を黒くして髪を染めることができる、そして目を細めるとある晴れた日、遅かれ早かれ、誰かがやって来て全ての事を漏らすのさ。なあ、おい、そうなったときには古くなるほどに酷い。お前が育ったこの辺りで待ってみな、テッド」

テッドは手を落ち着かずに握り締めては開いた。「なぜ貴方が僕がどう仕上げるを気にかけるのかが分かりません」。

「理由はない」と答えたジョー。「全く何でもないことさ。俺はかつてお前のお母に恋してなかった、舞台上の奴みたいに;しかもお前のお父に1セントも借りることはなかった。だからそれは自責の念じゃない。只の純粋な強情張り、または新投資へ入る銀行家だろう。お前がどうなるだろうかと知りたくなるね。お前は新聞が「優等市民」と呼ぶものの成功を収めたんだ、たとえかつて転げ落ちこそしてさえも。もしも俺がいつか結婚するときになったならば、決してないんだろうが、ピッツバーグの鉄鋼の有力者のハーレム全体よりも心配と出資の多い最高級ホテルを、誰かが俺の坊やのために同じようにして欲しかったんだ。下らないものだが、真っ直ぐだ」。

「どう感謝するのかも分かりそうにないです」と始めたテッド、声は少し掠れて。

「明日の朝に軽く寄りな」と遮ったジョー、快活に「ミニー・ウェンツェルがお前にコツを教えるだろう。数ヵ月、一緒に働ける。それから後、彼女は下着を作るために空けることにもなる。今頃はもうその一梱を持っていると思うよ。最近六ヵ月は俺が見てないと思えば机の陰でシュミーズ類やランチクロスを縫い取っていたから」。

テッドは翌朝の午前八時に歯を食い縛ってた度胸と肩の上に平衡をまだひょいと保っていた木片で立ち現れた。五分後、ミニー・ウェンツェルがそれを叩き落とした。ジョー・へイリーがおどけて二人を紹介したとき、彼らが元より第一読書室で会っていたと知っていたけど、ウェンツェル嬢はその紹介に左の眉毛を微かに上げながら口角を下げて冷淡に受け答えた。尊大な空気は勝利だった、黒い綿繻子の腕貫きによって自分が不利だと考えていたので。

どうやればウェンツェル嬢を最も良く描き出すことができるだろう? あらゆる小都市に彼女のような人はいる。考えさせて頂戴(額に手の仕草)。なるほど、彼女はいつも8ドルをコルセットに支払っていた、同じ立場の大抵の女性労働者が地下室で59セントで手に入れるとき。要求に優しくされたのだった。ミニーの女学生の日々に濁った茶色だった髪、それは魔法の赤金の杖で仕上げられたのだった。バーディ・キャラハンはいつもミニーが前の服を着古すためだけに働いているといった。

紹介の後、ウェンツェル嬢はジョー・へイリーに付いて広間へ行った。苦もなく、声を下げた。

「さて、いわなくてはなりません。ヘイリー氏、物凄く厚かましいですね! もしも私の紳士の友人が前科者と働く私のことを聞いたら彼が婚約を破棄したとしても私は驚かないでしょう。貴方は保つべき名を持つ、シュワルツ氏みたいなお洒落な相手と婚約した女の気持を少しは尊重するべきなんです」

「全く、聞きな、お嬢ちゃん」と返したジョー・へイリー。「法律は企ての全てに及ばない 。しかしもしも注文の詰め込みが違法行為だったならばお前のお洒落な外交員は終身刑に服していたことだろう」。

テッドはその日に覚悟の歯を食い縛って翌朝には顎を痛めるほどに働いた。ミニー・ウェンツェルは必要があってそれから金銭上の観点からのみ彼に声をかけた。夕食の時間が来たとき、彼女は自身の黒い綿繻子の腕貫を外してパトリシア・オブライエン〈を真似て〉肩から身をくねらせ下ろしてセーム皮を取り出して洗面所の方へ姿を消した。テッドは食堂に殆ど誰もいなくなるまで待った。それから一人で夕食を取りに行った。エプロンにある可笑しい小さなポケットハンカチーフを着けた白衣の者が彼を大きな部屋の隅っこの席へ案内した。テッドは目をそのエプロンの雪の広場よりも高く上げなかった。エプロンは椅子を引いて彼の膝下にエプロンなりの仕方で押し込むと献立表を突き付けた。

「ローストビーフ、ミディアム」といったテッド、見上げることなく。

「有り難う、あんたは少しも変わらない。あたしはウェルダン過ぎればどんなに罵られたかを覚えているよ」といったエプロン、愛情を込めて。

テッドの頭がぐいっと上がった。

「だからあんたは古い友人と絶縁するんだよね?」とニヤリと笑ったバーディ・キャラハン。「もしもこれが公共の食堂じゃなかったらたぶんあんたは貧しくも誇らしい働く女子と握手したんだろう。相変わらずの悪魔の格好良さ。テッド氏」。

テッドの手が突き出て彼女の手を掴んだ。「バーディ! 君のエプロンに泣ける! 人生で誰かと会ってこんな嬉しいことは今までになかった。君を見ていると正しく故郷が恋しくなる。一体、ここで何をしているのか?」。

「給仕。あんたの母ちゃんが亡くなった後、他の一家では専属に働きたくないみたいに思われたので、だから古い仕事のここに帰って来た。あたしは捕らわれの最も家庭的なウェイトレス長だよ」

テッドの緊張した指がテーブルクロスに襞を付けていた。声は囁きへ沈んだ。「バーディ! 絶対的な真理を教えて。あの三年が彼女の死を引き起こしたのか?」。

「まさか!」と嘘を吐いたバーディ。「あたしは最後まで彼女と一緒にいた。それは咳の出る風邪で始まった。ビーフにフライドポテトをちょっと付けな、テディ氏。本日の付け合わせ」。

バーディは厨房へ滑るように消えた。著者は「滑る」の言葉を好む。ただし今回は字義通りに取られ得る。バーディは大失敗みたいに思われる顔だったものの黒豹みたいに歩いた、つまりそれらは滑空機のような最近の流行り物なのだといえる。彼女は顎を上げて腰を固めて歩いた。それはトレイの巧みな操り方から来ている。スープから鼻を遠ざけるというふうに歩かなくてはならない。暫く後、そんな歩きが習慣になる。年季の入った食堂女子は誰でも東部のフィニッシングスクールのデルサルトの先生に歩き方を教えることができる。

バーディ・キャラハンはテッドにローストビーフのミディアムと素敵なフライドポテトを出した日から彼の食事と服装と道徳のお目付け役を自任した。私は彼の苦い孤独を描き出すべき言葉を見付けられるようにしたい。彼は人との交わりを求めてなかった。男たちはあからさまに彼を避けなかったけれども偶然に「近くに」いるときはいつでもどういうわけか急ぎの用事があるようだった。女たちは無視した。ダンクワース夫人は未だ派手で未だ未亡人だったが、ある日、テッドを通り過ぎながら彼の頭上1インチの一点をじっと見詰めていた。私たちがいるみたい町の中で、へイリーハウスは大きくて過ごし易いクラブハウスみたいだ。男たちは朝一番と夜最後にそこに立ち寄って世間話を聞き、葉巻きを買い、葉巻きのカウンターの女子を煽てる。彼らがテッドと喋ったら彼は彼らと喋る。口の周りにある厳めしい線が現れ始めた。ジョー・へイリーは遠くから彼を見守り、長く見守るほどに目の様子は優しくて思わしげになった。そしてゆっくりと確実に私たちの町民の心の中にある新たな敬意と称賛が自らの戦いを続けるこの少年へと育まれた。

テッドは遅い食事を取る習慣を身に付けた、そのゆえにバーディ・キャラハンは彼と話す時間を取ることができた。

「バーディ」、彼は、ある日、いった、彼女がスープを持って来たとき「君は自分が僕と話す唯一のちゃんとした女だと分かるかい? 君は僕が、丁度、母親の膝枕で、彼女に髪をくしゃくしゃにさせて毒吐かせれられたら残りの人生を捧げるというときに何を意味するかが分かるかい?」。

バーディ・キャラハンは咳払いをすると唐突にいった:「あたしはあんたの灰色のズボンにアイロンがけが酷く必要だと、昨日、気付いてた。明日の朝に持って来な、洗濯場で素敵な折り目を付けてあげるよ」

そうして最初の数週間が過ぎ、ウェンツェル嬢の滞在する二ヵ月が終わりを迎えた。テッドは神に感謝しながら彼女は自分が頭を殴り付けるほどの男だと望まないように懸命に努めた。

離脱の約束された時間の前日、彼女はジョー・へイリーと、とても長い間、密談を交わした。最終的に出て来たとき、ベルボーイが伝言でテッドまでぶらぶら歩いた。

「ウェンツェルさんが御大が貴方と会いたいのだと仰います。事務所におります。あのう、テリル氏、彼らは、今日、遊ぶと思いますか? 可成の雨降りです」。

ジョー・へイリーは大きな革の椅子に深く沈んでいた。テッドが入ったときに見上げなかった。「座りな」、彼はいった。テッドは座って待った、当惑して。

「数字の名人として」とついに思わしげにいったジョー・へイリー、独り言のように静かに「俺は霜柱だ。紙の数字の列には頭がくらくらさせられる。しかし頭の中でそれら数字の大群を処理することができるよ。酒場の主人がブラックコーヒーを飲むのはどんなときだろうと知っている。俺はこうしたものを見守り続けていたんだ、最近二週間、お前が止めて現れて俺に話すのを期待しながら」。彼は突然と向きを変えるとテッドに面した。「テッド、兄ちゃん」、彼は悲しげにいった、「何だって又やったのか?」。

「何の冗談ですか?」と訊いたテッド。

「もう、テッド」と忠告したジョー・へイリー、「そんな口振りでは状況は何一つ良くならないぞ。いったように俺は数字で腐っている。しかしお前は今までに駄目だと判明した最初の投資なんだ、もはや強力な悪臭を放つものを幾らか扱ってしまったといわせてくれよ。おい、坊や、もしも正しくこっそり来て100ドルほどのわけで借金を頼んでくれたならば、おい――」。

「何の冗談ですか、ジョーさん?」と再びいったテッド、ゆっくりと。

「これは冗談なんてものじゃない」と来た明快な答え。「300ドルが不足している」。

テッド・テリルの昔の光輝の最後の名残りが閃きながら消え、灰色に老いた自分が残されるのだった。

「不足?」と繰り返したテッド。次いで「馬鹿な!」、妙に精彩を欠いた声で――「馬鹿な!」、彼は自分の指をよそよそしく見下ろした、まるで他人のものであるように。次いで彼の手はジョーの腕を不安により、ぐいっと握った。「ジョーさん! ジョーさん! それは朝と夜と付き纏われたことです、神経がひり付くまで。又やるという不安。笑わないでくれますか? 以前は夜に起きて銀行のそんな厄介な仕事を調べていました――何度も何度も――全身に冷や汗が噴き出すまで。以前はそれを全て計算し直していました、着実に、ついに――ジョーさん、人は盗んでそれを知らないのですか? そんなことを考えて人は頭がおかしくなるのですか? なぜならもしもそうなったら――もしもそうなったら――そのときは――――」。

「分からない」といったジョー・へイリー、「しかし酷く怪しいな」。彼はテッドの震える肩に手を置くとその蒼白に強張った顔を覗き込んでいた。「俺は素晴らしい計画をお前のために持っていた、テッド。しかしミニー・ウェンツェルが全て紙切れに書き留めたんだ。もう一度、彼女を呼んだ方が良いな、そして非難の的をすっかり決着しよう」。

ミニー・ウェンツェルが現れた。彼女の手には紙切れとその数字の帳簿があり、テッドは覗くとそこに自分の手で書れたはずがないものを見た。もはや恥ずべき顔を二つの手で覆い隠しながら母親が死んでいたのを感謝した。

ドンドンと叩く音が事務所の扉に、三回、鋭く来た。中の緊張した面々がびっくりして跳んだ。

「入るな!」と告げたジョー・へイリー、「誰であれ」。そうすると扉が開き、バーディ・キャラハンがさっと入った。

「出て行け、バーディ・キャラハン」と怒鳴ったジョー。「席を間違えてるぞ」。

バーディは背後の扉を落ち着いて閉めると部屋のさらに奥に来た。「ピート菓子職人が、丁度、ミニー・ウェンツェルが通い番頭に教えたのが酒場の主に教えられたことが玄関番に教えられたことが料理長に教えられたことがピートに教えられたことで、ミニーがテッドが300ドル程度を盗んだのを見付けたんだと私に教える」。

テッドは素早く前に出た。「バーディ、お願いだからここに入らないで。何も良くならないよ。君は僕を信じてくれる、しかし――」。

「お金はどこなの?」と訊いたバーディ。

彼は彼女を、一瞬、見詰めた、馬鹿みたいに口を開けて。

「僕は――知ら――ない――わけ」、テッドははっきりと発音した、悲痛に。「そんなことは思いもしなかった」。

バーディは反抗的に鼻を鳴らした。「あたしはそう思ったよ。お分かりかな」、愛想良く、「あたしはマルケイ叔母さんと、昨晩、喋ってた」。

絹がミニー・ウェンツェルの方から素早くさらさらと音を立てた。

「あのな、ここを見てくれ――――」と始めたジョー、待ち切れず。

「黙って、ジョー・へイリー!」と急に遮ったバーディ。「いったように私はマルケイ叔母さんと喋ってた。彼女は洒落者への洗濯やアイロンを上等に行う。で、ミニー・ウェンツェルはお洒落で越える者はなく、彼女を結婚式用のリネン類を手入れするために雇う。手刺繍とアイルランド鉤針編みの汚れが同じようなものを見たことがないくらいで、マルケイさんにいわせると数多く見ていた。すると貧しい老生への特別な手当てとして、ウェンツェル嬢は幾つかの婚礼衣装を彼女に見せるわけ。そこには自分の婚礼品を捕まえ得る他の全女性に明かすのを抵抗し得る女性はまだ決していなかった。さて、マルケイ嬢、彼女はそんな大トルソーを見て勝るものは見たことがなかったといった。ドレス! さて、新婚旅行用のスーツだけで80ドルになる、というのもそれはモルコフスキー、小さなポーランドの仕立て屋に作られることになるためだ。で、ウェディングドレスは繻子で、気にかかるか! おぅ、私のマルケイ叔母さんには貴重な手当てだった」。

バーディはミニー・ウェンツェルが本当に蒼白で身動ぎせず、座ったところへ歩いて行き、そしてずんぐりと赤い指を彼女の顔に差した。「貴方が大監督です。ウェンツェル嬢、繻子と注文服を給料で得てるんです。女の企みを見抜くために必要なのは、ミニー・ウェンツェル、女です」。

「さて、聞き飽きたな!」といい放ったジョー・ヘイリー。

「当たり前でしょ!」といい返したバーディ・キャラハン。

ミニー・ウェンツェルは立ち上がった、唇を噛みながら。

「私は貴方からあり余る金を取ったことで、その刑務所暮らしだった情けない前科者の代わりに、ジョー・ヘイリーさん、敢えて責められるのだと認めるべきですか、?」

「もう良いよ、ミニー」といったジョー・ヘイリー、静かに。「もう十分だ」。

「証明して下さいよ」と続けたミニー、そしてもはやまるで自分はやらなかったと願っているように見えた。

「ビジネスカレッジの教育は大代物だ」と述べたバーディ。「ウェンツェル嬢は一つ卒業している。尾羽を持つ鳥を描くことから平明で上等な習字までの何もかもを教えられるんだ。事実上、偽造以外の書き仕事の何もかもを教えられるんだ、で、私にはそんな課程が取られなかったとはさほど定かではない」。

「構いません」としくしく泣いたミニー、突然、床の上にグニャリと頽れながら「やらなくてはなりませんでした。私はお洒落な相手と結婚することになりますし、もはや少女はバードセンターの裁縫師が作ったように見えない服を少しは持たなくては行けませんでした。彼には三人の姉妹がいます。彼女らの写真を見ました、すなわち結婚式に来ることになります。夕べにローネックドレスを着るような人たちで、髪や爪は都心部でやります。私には自らの見た目しかありません。田舎者みたいな装いでニューヨークへ行けますか? 正直に、ジョーさん、ここで、六年、働いて小銭も得ることはありませんでした。さてや事態は私から遠ざかりました。50ドルの頭金を払いないうちは仕立て屋は私のスーツを仕上げないのです。最初に50ドルをつい取りました、返すつもりでしたけど。本当に、ジョーさん、私がやりました」。

「止せよ!」といったジョー、「もはや起き上がれよ。俺はお前に結婚式のための小切手を渡すつもりだった、300ドルを見込んではなかったけど。貸し借りはなしにしよう。つまりお前には幸せになって欲しいんだ、しかし俺は賭けはしない。お前は結婚して一年も立たずに自分の夫のズボンのポケットを調べることになるだろう。帽子を取って姿を消すかも知れない。俺はどうやっていつかこのことをテッドとバーディに清算することになるかを知りたいんだぞ」。

「で、無駄話しながらこうして立っているあたし、一方では彼女たち、テーブルをちゃんと用意できない食堂の愚かな女子たち、もはや十分もかからずに夕食」と叫んだバーディ、急いで出て行きながら。テッドは理解できないことをぶつぶついいながら彼女に続いた。

「バーディ! 君と話がしたいんだ」

「ならばささっといって」といったバーディ、肩越しに。「扉が三分で開く」。

「どんなに有り難いかをいえないよ。これでは話しようがない。君の仕事が済んだ後に、今夜、一緒に帰って貰えるかい?」

「私は?」といったバーディ、振り向いて彼に面しながら「しないよ。お洒落な仲間が貴方にショックを与えてしまった、で、それは良いこと。貴方は競走車の一団と高速で走っていた、中速のためにしか組み上げられなくても。今や新たな出発のチャンスを得られたし、もはや私が貴方にそれを台なしにさせる人になるだろうと私みたいな食堂リジーと出歩き始めることで決して考えないで」。

「そんなふうにいうなよ、バーディ」、テッドは口を挟んだ。

「真実だ」と断言したバーディ。「といって私は完璧にきちんとした娘でないわけではない、だよね。良い鈍間、しかし皆は貴方に私と同じようなものしか一緒に行くべき人が誰もいないというチャンスに面白がるんだ。もしも私が、今夜、貴方と一緒に帰ることになればあんたは、来週、呼び求めるつもりかも知れない。半年以内、もしもあんたがすっかり寂しくなればあたしに自分と結婚することを求めるんだろう。もはや何と」、愛らしくない赤い手を見下ろしながら彼女は静かにいった、「そうするのは怖いばかりだ。仕事に戻って。テッド・テリル、そして頭を高く上げながら、今夜、祈りを捧げたとき、私がお転婆じゃない貴方の幸運な星に感謝して」。

関連:エドナ・ファーバーの帰って来た男の原文と注解

参考:Buttered Side Down

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