スキップしてメイン コンテンツに移動

惨たらしいリンチ~ビリー・ホリデイのStrange Fruitが伝えるアメリカの黒人差別の実像~

二十歳頃から黒人音楽が好きで、良く聴いていたけれども同時に黒人差別に多く悲しみもした。大昔からアフリカの黒人などが奴隷として世界中で死ぬほどに扱き使われていて現代の民主主義の人々が平等な国々でも黒人そのものが非人間的に蔑視される状況は後を絶たない。僕が良く聴く主にアメリカの黒人音楽も正しく差別に晒される最悪の生活の中から作り出されているんだ。

音楽の素晴らしさと共に人間として偉いと黒人たちを心から称えずにはいられない。

しかし知っているようで知らなかったのがアメリカの黒人差別の実像で、日本には黒人が普通にいないから僕も差別を日常的に経験してない、人権が理解されてもはや尊重されるはずの国なのに黒人差別に纏わる事件や暴動が起こるのは不可解だと少し感じるだけだった。

ジョージ・フロイドに纏わる黒人差別の抗議デモのアメリカのワシントンDCの群衆
2020.06.06 Protesting the Murder of George Floyd, Washington, DC by Ted Eytan / CC BY-SA

先日というか、現在も抗議のデモが続いているけれどもアメリカで黒人の市民が白人の警官に捕まったままに殺される事件:黒人男性、警官に膝で首を押さえ付けられ死亡 米ミネソタ州が起きて黒人差別が今も尚と続いているのが分かった。

考えると黒人の生活が他の白人などと比べてまだ十分に改善されないから落ち込んだまま、犯罪にも傾き易くて警察も自分たちの仕事にそれだけ追われたりするために必要以上に苛立って黒人の犯人こそ酷く痛め付けてしまうんだろうけど、しかしながらアメリカで社会の根本的な部分になぜ黒人差別が残っているかが本当に難しい気持ちにさせられる。

アメリカで人々が黒人を嫌って生活を貶めているのは抗議のデモやさらに激化した暴動からも確かにせよ、問題なのは歴史的にいって奴隷解放の南北戦争(1861~65)と権利回復の公民権運動(1950~60年代)を経ても終わらない状況、すなわち国内の黒人差別のどうしようもないまでの根深さにあると思う。

ビリー・ホリデイStrange Fruitで初めて腑に落ちた悲しみ

黒人音楽でジャズシンガーのビリー・ホリデイについて調べていたら代表曲の一つのStrange Fruit奇妙な果実を聴いてアメリカの黒人差別がかつて如何に酷いものだったかを知るに至った。

Strange Fruitの作詞作曲はルイス・アレン(本名はアベル・ミーアポル)というアメリカ共産党の党員のユダヤ系アメリカ人で、1930年にインディアナ州マリオン郡で起きたトマス・シップとエイブラム・スミスのリンチ殺人というアメリカの黒人差別に基づく事件を題材にしていた。ローレンス・ベイトラーという写真家による木に吊るされた二人の死体の写真を目にするや余りの惨たらしさに人間として耐え切れず、可哀想な被害者の哀悼と無慈悲な社会への抗議の声を上げた歌だった。

Strange Fruitの歌詞の冒頭部分

南方の木は奇妙な果実が実る
葉っぱには血で根っこには血で
南方の風に揺れる黒い身体が
ポプラに吊られる奇妙な果実が

原文

Southern trees bear a strange fruit
Blood on the leaves and blood at the root
Black bodies swinging in the southern breeze
Strange fruit hanging from the poplar trees

ビリー・ホリデイのStrange Fruit(訳出)

アメリカの「南方」で多発していた黒人差別を象徴的に取り上げて大勢の白人を中心とした市民のリンチで「木」に吊るされて殺された黒人の様子を「奇妙な果実」と呼んでいる。

1937年にBetter Fruit苦い果実として作詩されてアメリカ共産党に関連する教職員組合の組合誌のニューヨーク教職員に掲載された。曲を付けるために先ずは他の人に頼んでみたけれども断られて最終的に本人がStrange Fruitに書き換えて曲も付けることになった。妻だった黒人歌手のローラ・ダンカンが歌ったのが最初とされる。ニューヨークのマディソンスクウェアガーデンから人々に知られて周辺で一定の評判を呼んだ。

Strange Fruitがアメリカで全国的に大きく知られるようなったのはビリー・ホリデイが歌って売れたときだった。

1939年の最初のヴァージョンが百万枚の大ヒットを記録した。歌詞が短くて直ぐに終わるのを避けるために冒頭に七十秒程の導入部が設けられた。彼女の代表曲となり、さらにアレンジを変えて1944にも再発売されている。

  1. 1939年のヴァージョン(3:18)
  2. 1914年のヴァージョン(3:03)

最初のヴァージョンは劇的な印象が強くて歌に込められた死んだ黒人への気持ちや差別撤廃のメッセージが分かり易いと思う。次のヴァージョンは導入部が切り詰められて歌い方も味わい深さを増していて芸術的な完成度が増しているようだ。

1939年にニューヨーク州グリニッチヴレッジのカフェソサイエティーというクラブでアベル・ミーアポルとビリー・ホリデイが知り合になった。進歩的な雰囲気の店で、アメリカの黒人差別が最も激しい時代に白人と黒人の客同士が一緒に過ごせる国内で恐らく初めての貴重な場所だった。

どうしてStrange Fruitがビリー・ホリデイの持ち歌になったのかはカフェソサイエティーの創設者のバーニー・ジョセフソンか演目のプロデューサーのロバート・ゴードンがStrange Fruitを聴いて気に入って彼女に歌うことを勧めたのが切欠とされる。

当初、ビリー・ホリデイはかつて誰もやってないような黒人差別へ抗議する内容だから報復を恐れてStrange Fruitを歌うのは気乗りしなかったけれども自分の父親が重病なのに黒人差別で病院から見捨てられて死んだ日を思い出させるために差別社会を何とかしようと勇気付けられながらお決まりの持ち歌に変わったらしい。

カフェソサイエティーではStrange Fruitの歌の影響力を増すためにバーニー・ジョセフソンの発案で、ビリー・ホリデイの演目の締め括りに配して店の給仕を前以て止めて歌手の顔だけを照らして暗くするように演出された。客が通常よりも多く集中して聴けるような仕方で、ビリー・ホリデイは歌の導入部では暗闇の中のステージで、一人、佇みながら目を閉じて神に祈りを捧げるような様子だったらしく、歌の内容に即した神妙そのものの相当に引き付けるパフォーマンスだったと想像される。

アメリカに黒人への惨たらしいリンチを求める歴史があった

紫の夜の木に吊された黒い人影

私刑を意味するリンチという言葉自体がアメリカで生まれたとする説がある。アメリカの独立戦争(1775~1783)の折り、1780年に略式裁判で敵の捕虜たちに鞭打ちや財産の没収や忠誠の宣誓の強要や軍隊への徴兵という法外な判決を下していた革命家のチャールズ・リンチか同年にペンシルヴァニア州ピットシルヴェニア郡で法的な権限が独自のリンチ法の契約に隣人たちと署名していた部隊長のウィリアム・リンチに由来しているらしい。後者は記録が曖昧なので、前者の可能性が高いようだ、本当にあったかどうかの史実としては。独立戦争の後の西部開拓時代(1860頃~90)に私刑が横行したとき、民衆が法外な独自の判決を権威付けして正当化するために同じようなことをやっていた彼らを思い出してリンチと名付けたのかも知れない。

かくてリンチは民衆において犯罪者や主人に従わない奴隷や不届き者に対して自警として行われていたけれども南北戦争の後は専ら気に入らない黒人に対して差別として行われるように状況が変わって来たんだ。

Strange Fruitが取り上げるトマス・シップとエイブラム・スミスのリンチ殺人が象徴的で――口に出すのも憚られるほどに残酷なのは火炙りにまで処されたジェシー・ワシントンのリンチ殺人 で、人権を知らない中世以前の成敗並みに正しく生き地獄そのものを思わされる――黒人差別のリンチの全てを物語っているけれどもそこまで惨たらしいのは人殺しなどの重罪人が対象になっていることが多かったみたいで、行う人々にとっては正義の一環として捉えられていたと考えられるにしても〈暴走した理性〉の為せる業か、裁判所の判決だけでは済まされないという仕方で、黒人にかぎって留置場などから引き摺り出されてはどこかの木や町中に立てた専用の柱に吊るされながら見世物として惨殺されてしまうのが最も酷かった――殺人の加害者の白人などは警察も見て見ぬ振りをして逮捕されなかったり、一切、悪者として社会的に咎められることはなかったとされる――かも知れない。

米国の人種差別に基づく暴力の歴史に関する新たな調査で、米南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたことが明らかになった。73年間にわたり1週間に平均1人以上が殺されていた計算になる。

調査を行ったアラバマ(Alabama)州の人権団体「公正な裁きのイニシアチブ(Equal Justice Initiative)」は、現代の人種差別や刑事司法における問題は、米国の暴力の過去に根差すものだと指摘している。

同団体の創設者ブライアン・スティーブンソン(Bryan Stevenson)氏はAFPに対し「ドイツならばホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)の遺産に向き合うことを強いられるが、米国では逆だ。われわれは自分たちで真実と和解に取り組もうとせず、この遺産が引き起こしている結果に真剣に対処しようとしたことがない」と語った。

同団体が数年かけて行った調査の結果、1877~1950年に南部12州で私刑によって殺害された人数が、従来の調査結果よりも700人多い3959人であることが分かった。うち大半は1880~1940年の間に発生していた。

黒人リンチで4000人犠牲、米南部の「蛮行」 新調査で明らかに|AFPBB News

奇しくもその通りだと思うけど、すなわち「現代の人種差別や刑事司法における問題は、米国の暴力の過去に根差すものだと指摘している」(公正な裁きのイニシアティヴ)には心から頷かれる他はない。

アメリカの黒人差別が今では首吊りの余りに惨たらしいリンチは流石に聞かないけれどももっと弱められて人々に分かり難い仕方で、続いているのは明らかだといわざるを得ない。日常茶飯事に繰り返されるように定着しながら社会の隅々まで覆い尽くしているためではないか。止められない理由は「われわれは自分たちで真実と和解に取り組もうとせず、この遺産が引き起こしている結果に真剣に対処しようとしたことがない」の言葉に尽きるだろう。

一つには自己防衛の気持ちがあって必ずしも悪いといい切れないためかも知れない。良くいわれるようにアメリカは銃社会で、乱射事件の大量殺人などの悲惨な問題を抱えつつも規制し切れなかったりするのは自分で自分の身を守ることが自由として捉えられているせいだ。この文化の中に黒人差別が組み込まれている部分があるのは否定できないだろう。何かあれば成敗しないわけには行かないのが当たり前で、生活のあらゆる面で喜べない相手、好ましく理解されない黒人などが不利に持って行かれる可能性が多めに潜んでいる。

もう一つはそれこそアメリカの黒人差別の実像と僕は受け留めるけれども歴史的に惨たらしいリンチがあるために国内で黒人こそ蔑視される対象にならざるを得ない。ビリー・ホリデイのStrange Fruitが歌った二人の死体を齎したように木に吊るして惨殺するのが正義として捉えられてしまうためだ。さもなければ人権も相当に知られた二十一世紀においては何でもない過ぎ去った物語/昔話でしかないだろう。黒人への惨たらしいリンチが人々の正義をどこかしら示している、かりに血で血を洗う真の報復でしかないとしても一つの善行だから今も尚と完全に捨てるのは難しいと考える。

自由の自己防衛の文化と相俟って黒人を差別しないと社会が成り立たないような命題をアメリカは孕んでいるのではないか。

昨今は黒人差別の撤廃のために「Black lives matter」(黒人の命の問題)と聞くけれどもこれも本当にそうだと納得する。同盟の団体、Black Lives Matterがあって設立された2013年からいわれ始めたのか、アメリカの黒人差別の実像を踏まえた素晴らしい認識の言葉遣いだと感涙する。

アメリカの黒人差別の根深さは自由という世界で最も愛されるはずの人間の生き方と結び付いている。そこに正義があるかぎり、もはや社会という人々の内面から消し去るのは並大抵の努力では足りないに違いない。惨たらしいリンチと比べれば弱められて分かり難い仕方へ改善されているのは嬉しいにせよ、時として抗議のデモや暴動が起きるのは日々の被害が蓄積されているためだ。悲しみは少しでも減らすべきだし、大事になるまで続けないのはもちろん、一回でも攻めるのは控えて欲しいと願わずにいない。

黒人とは何か。日本人も国際化によって国内で昔よりも多く黒人を見かけないわけではないから注意するべきだ。良いときは構わないかも知れないせよ、何よりも下らないことをやっていて馬鹿にしたくなったり、延いては悲しみを与えられて打ちのめさなくては自分自身が保てないとか間違っているなんて感じたとき、本当に相手を理解しているかどうかに立ち止まらなくては何も変わらない。

生活上、直情的な攻め手を下ろす倫理こそ差別を終わらせ得る。黒人にかぎらず、差別は無知の表現に他ならない。昔のアメリカ人も本当は社会の常識だから黒人への惨たらしいリンチを望んだのでは決してなかった。首吊りなどをやらざるを得ない気持ちがあったのは彼、または彼女を人間として認めたくなかったためだ。肌の色は人間の条件ではないけれども例えば個人の特徴のような知識を持っているだけで終わるのが黒人差別ではないのはもう既に明らかな時代だろう。だから倫理を伴いながら気に入らない全てに対していつでもどこでも考えるようにしなくてはならない。

参考:Strange Fruit 奇妙な果実 Strange Fruit by Billie Holiday Strange Fruit: Anniversary Of A Lynching Strange Fruit: The most shocking song of all time? Strange Fruit: the first great protest song

コメント

些細な日常の人気の投稿

飽和脂肪酸の多いココナッツオイルの過剰摂取の危険性とその他の健康上の利点

イメージ

PlayストアでAndroidアプリのダウンロードが非常に遅い場合の打開策

イメージ