スキップしてメイン コンテンツに移動

アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事の日本語訳

十九から二十世紀のアメリカの作家、小説家でコラムニストのアンブローズ・ビアスの小説のアウルクリーク橋の出来事(1890)の日本語訳を行った。一つの文学作品として人間の洞察力に富んだ優れた内容を持つだけではなく、表現も意義深いから外国語の英語の聞き取りと読み取りの教材としても最適だと感じる。

アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事の原文と朗読

アンブローズ・ビアスが髑髏に左肘をかけて立っている
An Occurrence at Owl Creek Bridge by Ambrose Bierce/アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事
原文:Wikisource作品集
朗読:LibriVoxアラン・ディヴィス・ドレイク

両方ともパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。

アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事の日本語の訳文

アメリカの南北戦争の時代の大砲を発射して煙が大きく上がっている

人がアラバマ州北部の鉄道橋の上に立ち、20フィート下の迅速な水の流れを見下ろしていた。その人の手は背後にあり、手首を紐で縛られていた。綱が首を丸く囲んでいた。頑丈な横木へ頭の上で括り付けられて弛みが膝の高さへ下がっていた。鉄道の軌条を支える枕木の上に置かれた幾つかのガタガタの板が彼と死刑執行人たち――北軍の二人の兵卒、市民生活では副保安官だったかも知れない軍曹に指示されたのだが――に足場を与えていた。同様の一時的なプラットフォームに少し隔たって将校が自分の階級の制服を着ており、武装しているのだった。彼は大尉だった。橋の両端に哨兵が「支え」として知られる位置に、いい換えると左肩の前に垂直で、撃鉄は胸と真っ直ぐに交わした前腕に向けられる――真っ直ぐの姿勢を強いるから形式上の不自然な位置――銃を持って立っていた。これら二人に橋の中央で何が起きることになるかを知るべき義務があるとは思われなかった;彼らは単に渡された足の板張りの二つの端を封鎖するだけだった。

歩哨の一人以外に誰も見えなかった;鉄道は100ヤードを森へと真っ直ぐ走り去り、その後、曲がりながら視界から消えた。疑いなく、さらに遠くに前哨基地があるのだった。小川の向こう岸は空き地だった――緩い上り坂で、天辺は垂直の樹幹の防御柵で覆われ、輪が空けられるが、一つの銃眼から突き出た真鍮の大砲の銃口が橋を見渡していた。橋と砦の坂の中程に見物人たちがいた――一つの列を成した歩兵の単一中隊、「整列休め」で、銃の台尻は地面で、銃身を右肩に対して後ろに僅かに傾けつつ、手を銃床の上で組んでいた。副官が列の右に立ち、剣の先は地面に着け、左手を右手にかけているのだった。橋の中央の四人の集まりを除けば動く人はいなかった。中隊は橋に面して石のように凝視しながら止まっていた。歩哨は小川の岸に面しながら橋を装飾するべき彫像だったかも知れない。大尉は腕を組んで立ち、黙り、部下たちの作業を監視ししつつも身振りしなかった。死は最も親しい者でさえも告知されて来るとき、形式上の敬意の表明と共に受け取らなくてはならない貴人だ。軍事作法の規定で無言と不動は服従の形式だ。

絞首刑にかけられることになった人は見たところでは三十五歳くらいだった。もしも衣服から判断するならば農園主で、民間人だった。顔立ちは良好――真っ直ぐの鼻、締まった口元、幅広い額、そこから長くて黒い髪が後ろへ真っ直ぐ、耳の後ろから体形に良く合ったフロックコートの襟へ下げながら梳られていた。口髭と先の尖った顎髭を生やすが、頬髭はなかった;目は大きくて濃い灰色で、麻縄に首のある者だとは予想され難い優しげな表情を示していた。明らかにこれは俗悪な殺人者ではなかった。軍の規定は色んな種類の人たちの絞首刑の条項を惜しみなく備えており、紳士が除外されてない。

手筈が整えられたので、二人の兵卒は脇へ退いて各々に自らが立っていた板を引っ込めた。軍曹は大尉へ向き、敬礼するとその将校の背後に直ぐ様と移ったが、次いで、一歩、離されるのだった。これらの動きは死刑判決を受けた者と軍曹を同じ板張り、橋の三つの横繋ぎに跨がるものの上の二つの端に立っているままにした。民間人が立った端は殆どだが、もう少しで四つ目に達しそうだった。この板は大尉の重みで、適所に保たれていた;軍曹のものによって今や保たれた。前者からの合図で、後者は脇へ退き、板が傾くと死刑判決を受けた者が二つの繋ぎの間に降りて行くのだ。配置はそれ自体が彼の判断に簡潔に効果的に委ねられていた。顔は覆い隠されなくて目隠しの布も巻かれてなかったのだった。彼は一瞬に「ぐら付く足場」を見た、それから目線を足の下の狂ったような急ぐ小川の渦巻く水へ彷徨わせた。踊る流木の欠片が注意を引くと目は流れを追って行った。どんなにゆっくり動くと思われたことだろう! 何と緩やかな小川なのか!

彼彼は最後の思いを己の妻と子供たちへ留めようと目を閉じた。水、暁の太陽で金色に達するが、下流の幾らか離れた岸の下の不気味な霧、砦、兵士たち、漂流物の欠片――全てが彼の気持ちを取り乱させたのだった。そして今や彼は新たな動揺を意識するようになった。親愛な者たちへの思いを取り消すことは無視も理解もできない、ある鋭く、明瞭な、鍛冶屋のハンマーが鉄床に打つみたいな金属的な音響に聞こえた;それは同様に鳴り響く特徴があった。彼は何なのか、計り知れないほどに遠いか近い――両方のようだ――か否かと疑問を感じた。その循環は規則的だった、ただし弔鐘が鳴らされるのと同じくらいゆっくりだった。それぞれが打つのを性急に待ちながらなぜか――不安が分からなかった。沈黙の間隔は次第に長くなった;遅れは気を狂わされるようなものになった。それらの頻度が下がるに連れてその音は強さと鋭さを増した。彼の耳はナイフを突き立てるみたいに傷め付けられた;彼は金切り声を上げるのを恐れた。聞いたのは己の時計の針が刻む音だった。

彼は目を閉じずに自分の下の水を再び見た。「もしも手を自由にさせられたら」、考えた、「首吊り縄を振り解いて小川へと跳べるかも知れなかった。潜って銃弾を避けて精力的に泳げば岸に達して森へ姿を眩まして家に逃げ去ることができた。私の家は有り難いことに依然として彼らの戦線の外側だ。妻と小さい者たちはまだ侵略者の最も遠い進行は及ばない」。

これらの考え、ここに言葉で書き留められるべきものが運の尽きた人の脳の中へと自ずから展開されるよりもむしろ閃いたときに大尉は軍曹へ頷いた。軍曹は脇へ退いた。

ペイトン・ファークワーは裕福な農園主で、昔から高く尊敬されるアラバマ州の家系に属していた。奴隷所有者で、他の奴隷所有者みたいに元来の連邦脱退論者に自然になった政治家で、南部の大義へ熱烈に身を捧げた。緊急の種類の事情により、ここで話すのは無用にせよ、彼はコリンスの陥落で終わる惨憺たる戦闘を行った勇敢な軍で出征することが適わなくなってしまい、もはや己のエネルギーの放出、より大きな兵士の生活、殊勲の機会を切望しながら面目ない抑制に苛立っていた。そうした機会は、彼は感じた、来るだろう、全くの戦時下ということになれば。その間は自分にできることをやった。彼にとって南部を援助できないほどに詰まらない兵役はなく、かりに心から兵士で、誠意を持って少なくとも恋と戦は道を選ばずという率直に悪党の格言に同意する条件を大して有さない民間人の性格と一致するならば引き受けられないほどに危険な冒険はなかった。

ある夜、ファークワーと妻がその構内の玄関近くの丸太造りのベンチに座っている間に灰色の着衣の兵士が門に馬を乗り付けて一杯の水を頼んだ。ファークワー夫人は彼に己の白い手で給仕できてとても嬉しかった。水を取りに行っている間にその夫は埃塗れの乗馬者に近寄って最前線からの情報を熱心に尋ねた。

「北軍兵が鉄道を修復している」とその人はいった、「つまり更なる進行の準備をしている。彼らはアウルクリーク橋に達して整理して北岸に防御柵を建ててしまった。司令官が指令を発布し、全域に通達されたが、鉄道、その橋、トンネル、列車への妨害を捕まえられた民間人は誰でも即座に絞首刑にすることを布告している。私は指令書を見た」

「アウルクリーク橋はどのくらい遠いか?」、ファークワーは訊いた。

「約30マイル」

「此方の沢に部隊はないか?」

「半マイル向こう、鉄道上に少哨の持ち場だけ、つまり橋のこの端に独りの哨兵」

「人――民間人で絞首刑の学徒が少哨の持ち場から逃れてきっと哨兵よりも優勢になるはずならば」といったファークワー、笑いながら「何が成し遂げられるのか?」。

兵士は思案した。「私は一ヵ月前にそこにいた」、彼は返した。「昨冬の洪水で橋のこの端の木の橋脚に大量の流木が刺さってしまったのを目撃した。今乾いているし、麻屑みたいに燃えるだろう」。

淑女が水を今持って来、兵士が飲んだ。彼は彼女に仰々しく感謝してその夫に頭を下げると馬に乗って去った。一時間後、夕暮れの後、来たところから北向きの方角へ進みながら農園を再び通り過ぎた。彼は北の偵察兵だった。

ペイトン・ファークワーは橋を下方へ抜けて真っ直ぐに落ちながら意識を失って既に死んだ者のようだった。こんな状態から彼は目覚めた――何年も前、そう思われた――喉元を鋭く圧迫する痛みにより、窒息感が続いた。強烈な痛切な苦悶が首から胴体と四肢のあらゆる線維を下方へ撃ち抜くようだった。これらの苦痛は枝分かれするはっきりとした線に沿って閃きながら思いも寄らないほどの急速な周期性で打つらしかった。耐え難い温度へ加熱する火の脈動する流れみたいに思われるのだった。頭に関して彼は膨満感――鬱血しか意識しなかった。これらの感覚は思索を伴わなかった。彼の本性の知的な部分は既に消されていた;感じるだけの能力しかなく、しかも感じるのは激痛だった。彼は動きを意識していた。ある発光する雲の今は単に燃え立つような心で取り囲まれながら、肉体的な実体を持たないまま、広大な振り子みたいな考えられない振幅の弧を通して揺れていた。そうすると忽ち、酷く突然、彼の周りの光が上方へ大きなポチャンという雑音と共に打った;恐ろしい轟きが耳に入ると何もかもが冷たくて暗かった。思索の力が取り戻された;彼は綱が切れてしまっていて自分が小川へと落ちてしまったのだと分かった。追加の絞殺はなかった;首の周りの縄は既に彼を窒息させることになったし、水が肺に入らないようにしていた。川の底で絞首刑によって死ぬこと!――その案は彼にとって滑稽に思われた。暗闇に目を開けて自らの上に輝く光を見たが、如何にも遠く、如何にも到達し難かった! 彼は未だに沈んでいた、というのも光は単に微かなまでに弱くなるばかりのためだった。それから大きくなって明るみ始め、ついに彼は水面の方へ自分は上昇していると分かった――不本意ながら分かったが、というのも今の大変な心地良さのためだった。「絞首刑にかけられて溺死させられること」、彼は考えた、「それはさほど悪くない;ただし射殺されることは望まない。いいえ;私は射殺されまい;それは卑怯だ」。

彼は努力を意識しなかったが、手首の鋭い苦痛で自分は手を自由にしようとしていると知った。その注意力に苦心した、結果に興味を持たず、怠け者が曲芸師の芸当を観察するかも知れないように。何と天晴れな努力!――何と並外れた、何と超人的な力強さ! あぁ、それは優れた試みだった! お見事! 紐は外れ落ちた;分かれて上方へ浮いた腕、広がる光に両側でぼんやりと見えた手。彼はそれらを新たな興味を持って最初の片方とさらに首の縄に飛び付いたもう片方を見守った。それらはそれを引き剥がすや荒々しく押し放した、そのうねりは水蛇と似ていたので。「戻せよ、戻せよ!」。彼は己の手にそうした言葉を叫び出したと思った、というのも縄を解くことは今までに経験して来た最も悲惨な激痛によって成功されてしまうためだった。首は恐ろしく痛んだ;脳は燃えた;心臓は力なく動悸していたが、大きく跳び、それ自体が口から出されようとしていた。全身が我慢できない苦痛によって悩まされては悲しまされた! ところがいうことを聞かない手は例の命令を気に留めなかった。急いで水を精力的に打ち、水面へ仕向けながら下方へ掻いた。彼は頭が出て来るのを感じた;目は陽光で眩んだ;胸は発作的に膨らみ、もはや至高無上の苦悶から肺が空気の大きな一息を吸い込んだが、瞬時に金切り声を上げて吐き出されるのだった!

彼は今や身体感覚を十分に所有した。それらは、実際、不可思議に鋭敏機敏だった。有機的な組織の物凄い動揺の中の何かが高められて磨かれているために以前は決して知覚されなかったものが記録された。彼は顔に細波を感じながら打つほどに切り分ける音を聞いた。小川の岸の森を眺めながら個々の木、葉っぱ、各々の葉脈を見た――正しくその上の昆虫も見た;蝉、輝く体付きの蝿、小枝から小枝へ己の巣を張る灰色の蜘蛛。彼は百万の草葉の露滴のプリズムの色彩に気付いた。小川の渦の上に踊る蚋の唸り、蜻蛉の羽搏き、水蜘蛛の足掻き、船を運んだ櫂みたいだ――これらは総じて聞こえる音楽を奏でた。魚が己の目の下に滑り行くとその体が急いで水を分けるのが聞こえた。

彼は下流に面しながら水面に来ていた;一瞬、目に見える世界がゆっくり回転した、中心軸を自分自身に、さらに彼は橋、砦、橋の上の兵士たち、大尉、軍曹、二人の兵たち、己の死刑執行人たちを見た。彼らは青空に対して影法師だった。叫び出して頻りに身振りを行った、彼を指差しながら。大尉が拳銃を引き抜いていたが、撃たなかった;他の者たちは武装してなかった。彼らの動きは異様で恐ろしかった、その姿は巨大だった。

突然、鋭い銃声が聞こえて何かが水を頭の幾インチ内に強か打ち、顔に飛沫を浴びせていた。二発目の銃声が聞こえると銃を肩に担いだ哨兵の一人が見え、青い煙の薄い雲が銃口から上がっていた。水の中の人は銃の照準から自分自身を覗き込んでいる橋の上の人の目を見た。彼はそれが灰色の目だと認めるや灰色の目は非常に鋭敏だと、そして全ての第一級の狙撃兵が持つものだと読んだことを思い出した。とはいえ、この者は外したのだった。

逆の渦巻きがファークワーを捕らえ、半ば回してしまっていた;彼は再び砦の向かいの岸の森へと見遣った。はっきりした高い声音が一本調子の抑揚のなさで今や背後から鳴り出すと全ての他の音、耳を打つ細波でさえも劈いて抑える明瞭さで水を渡って来た。兵士ではなかったけれども彼は野営地へ多く通って十分にそんな意図的な間延びした有気音の掛け声の恐るべき意義を覚えたのだった;岸辺の副官は朝の任務に参加することになっていた。どんなに冷酷無情に――何ともなだらかで、穏やかな語調、予示しながら人々に落ち着きを強いて――何とも正確に計られた間隔で、それらの残酷な言葉が来したことか:

「気を付け、中隊!……担え銃!……構え!……狙え!……撃て!」

ファークワーは潜った――できるかぎり、深く潜った。水は耳にナイアガラ川の音みたいに唸った、けども彼は斉射の鈍い轟音を聞くと水面の方へ再び上昇しながら光る金属の破片、奇異に拉げた、下方へ緩やかに振動しているのと出会した。その幾つかが首と手の間に触れた、それから落ち去り、降下を続けるのだった。一つが襟と首の間に刺さった;不快に温かくて彼はさっと取り除いた。

水面に浮かび出たときに息を切らしながら自分は長い間を水に浸かっていたと気付いた;可成の遠い下流――略安全だった。兵士たちが銃弾の再装填を今にも終えそうだった;金属のかるかが陽光に一斉に閃いたのが銃身から引き出されて空中に向けられてそれらの穴へと突っ込まれるときだった。二人の哨兵が又撃った、単独に無駄に。

追われ人はこうした全てを己の肩越しに見た;今や勢いに精力的に乗っていた。脳は腕や脚と同じくらい活気に満ちていた;雷の速さで考えた。

「将校は」、彼は推論した、「あんな規律屋の誤りを二度目は犯すまい。斉射を躱すことは単射と同じくらい容易い。彼は恐らく既に意のままに撃つように命令しただろう。お助けを、全部なんて躱せない!」。

彼の2ヤード以内にバシャーンと鳴って大きく急激な音が砦へ空中を戻るように〈ディミヌエンド〉で続くや正しく川深くまで掻き混ぜる爆発に消えた! 上昇する一面の水が曲がり越え、落ちかかり、盲いさせ、彼を押さえ付けた! 大砲が勝負に一役を買ったのだった。彼は己の頭を強打された水の激動から自由に振ったときに逸れ弾が頭上を抜けてブーンと鳴るのを聞いた、すると一瞬で向こうの森の枝々が木っ端微塵にされていた。

「彼らはもうやるまい」、考えた;「次回は葡萄弾薬を使うだろう。私は火砲から目を離さずにおくべきだ;煙が知らせよう;砲声は届くのが遅過ぎる;弾よりも遅れるんだ。あれは良い火砲だ」

突然、彼は自分自身が何度もぐるぐる回るのを感じた――独楽みたいな回転。水、岸、森、今遠い橋、砦、人間――全てが混ぜ合されてぼんやりしていた。対象物は色彩のみで表現され。色彩の環状の水平層――それが彼の見た全てだった。渦の中に捕えられてしまっており、眩暈を起こして気分が悪くなる前進と旋回の速度で回り続けていた。少し経つと彼は小川の左岸の裾――南部の岸――敵から身を隠す突き出た地点の裏側の砂利に放り出された。動きの突然の静止、砂利の上の片方の手の擦り傷に回復すると嬉しくて涙を流した。指を砂に掘り、自分自身に両手一杯と投げかけ、聞こえるように祝福した。それはダイヤモンド、ルビー、エメラルドみたいに思えた;似通わない美しいものは考えられなかった。岸の木々は大柄な園芸植物だった;彼はそれらの配置にある明確な秩序を認めた、それらの花々の香が吸い込まれたとき。不思議な薔薇色の光が幹の隙間を通して輝くと風が枝に風鳴琴の音楽を奏でた。逃亡を完遂する望みは持たなかった――再び捕えられるまではそんな魅惑的な場所に留まることが満足だった。

葡萄弾がヒューンガタガタと頭の上高くの枝の中に鳴って夢から目覚めさせられた。まご付いた砲兵たちは手当たり次第のお別れを撃っていた。彼は跳ね起き、傾斜する岸を急いで上がり、森へと飛び込んだ。

その日中、彼は進んだ、己の行路を巡る太陽で取りながら。森は際限がないと思われた;どこにも途切れは見当たらず、樵夫の道さえもなかった。彼はそんな未開な領域で過ごすとは経験したことがなった。意外な新事実の中には不気味なものがあった。

夕暮れには草臥れて足を痛めて腹を空かせていた。妻と子供たちへの思いが彼を衝き動かすのだった。ついに正しい方向だと分かるように導いてくれる道が見付かった。町の通りと同じくらい広くて真っ直ぐだった、けども人は余り訪れないようだった。隣接する田畑はなく、住居はどこにもない。人間の居住を思わせる犬の吠え声すらもなかった。黒い樹体が直立する壁を両側に形成して一点に兆しが見えて終結していて遠近法の学課の図解みたいだった。頭上は樹木の切れ目を通して見上げるほどに大きな金色の星々が見慣れないように輝きながら不思議な星座に寄り集まっていた。彼はそれらが秘匿の悪意ある意義を備えた何かの秩序で配置されていると確信した。どちら側の樹木も奇異な雑音で一杯で、その中に――一度、二度、再度――知らない言葉による囁きが明瞭に聞こえた。

首が痛くて手を上げるとそれは恐ろしく膨らんでいると気付いた。綱で打ち身された黒い円があると分かった。目は充血して感じた;もはや閉じることはできなかった。舌は喉の渇きで膨らんでいた;その熱を冷気へと歯の間から舌を押し出すことで和らげた。どんなに柔らかく芝生が人の余り訪れない並木道の一面を覆っていたことか――もはや足の下に道路を感じることはできなかった!

間違いなく、苦しいにも拘わらず、彼は歩きながら眠りに落ちてしまっていた、というのも今や別の光景を見る――きっと単に譫妄から立ち直ったためだ。彼は自宅の門に立っている。全ては去ったときのままで、全ては朝の陽光の中に明るくて美しい。彼は夜通し進まなければならなかった。門を押し開けて広く白い道を上がり行くとき、女らしい衣服のはためきに気付いた;妻が生き生きと素敵に可愛らしく見えるが、彼を出迎えるためにヴェランダから踏み下ろす。その最下段に待ちながら立ち、いうにいえない喜びの笑顔、比べるもののない優美さと品良さの態度だ。あぁ、どんなに美しい彼女だろう! 彼は腕を伸ばして前方へぴょんと跳んだ。彼女を抱き締めようとすときに気絶させる一撃を首の後ろに感じる;盲いる白い光が彼の周り全てに大砲の衝撃みたいな音と共に煌めく――それから暗闇と沈黙ばかりだ!

ペイトン・ファークワーは死んだ;彼の遺体は首が折れてアウルクリーク橋の木材の下で左右に緩く揺れていた。

関連:アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事の原文と注解

参考:アンブローズ・ビアス 『アウル・クリーク橋でのできごと』

コメント