L・フランク・ボームの熊を所有した少女の日本語訳

自分の写真結城永人 -

アメリカの作家、小説家で戯曲家のL・フランク・ボームの童話集アメリカのお伽噺(1901)の収録作品の熊を所有した少女の日本語訳を行った。

L・フランク・ボームの熊を所有した少女の原文と朗読

The Girl Who Owned a Bear by L. Frank Baum/L・フランク・ボームの熊を所有した少女
原文:Project Gutenberg作品集
朗読:LibriVoxマシュー・リース

両方ともパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。

L・フランク・ボームの熊を所有した少女の日本語の訳文

野を横向きに歩く灰色熊

マンマは町の中心部に買い物に行ってしまったのだった。彼女はノラにジェーン・グラディスを世話するように頼んでノラはそうしようと彼女に約束した。しかしそれは銀食器を磨くための午後だった、なので彼女は食糧貯蔵室に留まってジェーン・グラディスを上の階の大きな居間に遊ばせておいた。

幼い少女は一人で構わなかった、というのも刺繍――パパの誕生日プレゼントのソファーのクッションの最初の部分に取り組んでいるためだった。なので彼女は大きな張り出し窓に這って行って広い敷居に丸まると同時に自分の仕事へ茶色の頭を傾けた。

忽ち扉が開くと静かに再び閉じた。ジェーン・グラディスはノラだと思った、なので勿忘草の二三針の縫い取りをやってしまうまでは顔を上げなかった。それから目を上げた、すると知らない人が部屋の真ん中で自分をじっと見詰めるのに気付いて驚いた。

彼は背が低くて太って階段を上ったために息遣いが荒れているようだった。片手に仕事のシルクハットを抱えてもう一方の肘の下には大判の本を挟んでいた。古くて相当に着古したと見える黒いスーツを着ており、さらに頭の天辺が剥げていた。

「済みません」、彼はいった、子供が重苦しく驚いて凝視した一方で「ジェーン・グラディスさんですか?」。

「そうです」、彼女は答えた。

「とても良い;とても良い、本当に!」、彼は怪しげに笑っていった、「貴方を見付けようと物凄く捜し求めましたが、ついに成し遂げました」。

「どうやって入って来たのですか?」と尋ねたジェーン・グラディス、訪問者へ不信を募らせながら。

「それは秘密です」、彼は謎めかしていった。

これは少女を警戒させるに十分だった。その人を見た少女と彼女を見たその人、もはや両者の視線は容易ならずに幾分か不安だった。

「何をお望みですか?」、彼女は姿勢を正して威厳ありそうに訊いた。

「あぅ!――本題へ入ることにしますね」といった人、快活に。「貴方には包み隠さずにいうつもりです。始めに私は貴方のお父さんから甚だ非紳士的な仕方で虐待されたのです」。

ジェーン・グラディスは窓枠から降りると小さな指を扉へ向けた。

「この部屋からとっとと立ち去れ!」、彼女は憤慨に震える声で叫んだ。「パパは世界で最高の人だ。誰も虐待することなんかない!」。

「どうか説明させて下さい」といった訪問者、彼女の退出への要求に何一つ注意を払わず。「貴方のお父さんは貴方には大変に優しいかも知れません、可愛い娘ですから。ですが自分の事務所で町の中心部にいるとき、相当に厳しくなりがちなんです、取り分け書籍販売業者に。私は彼を、先日、訪ねて『ピーター・スミス全集』の購入を求めましたよ。すると彼がどうしたと思いますか?」。

彼女は何もいわなかった。

「まぁ」と続けた人、興奮を募らせて「彼は私に事務所から命じると管理人に私をその建物から出させました! 貴方は『世界一のパパ』からのそんな扱いをどう思いますでしょう、えっ?」。

「全く正しいと思う」といったジェーン・グラディス。

「おぅ、そうとは? はて」といった人、「私は無礼に復讐するべきと決しました。そう、貴方のお父さんが大きくて強くて危ない人なので、私はその可愛い娘を復讐するべきと決めたのです」。

ジェーン・グラディスは戦いた。

「どうするつもりですか?」、彼女は訊いた。

「この本を贈るつもりです」、彼は腕の下からそれを取り出しながら答えた。それから椅子の端に腰を下ろして敷物に帽子を置くとヴェストのポケットから万年筆を引き出した。

「貴方の名前を書き入れます」といった彼、「グラディスとはどんな綴りですか?」。

「G−l−a−d−y−s」、彼女は返した。

「ありがとう、さぁ、これで」、彼は立ち上がるとお辞儀して本を彼女に手渡しながら続けた、「貴方のお父さんの扱いへの私の復讐になります。きっと彼は『ピーター・スミス全集』を買わなかったのを後悔するでしょう。さよなら、お嬢さん」。

彼は扉へ歩いて彼女へ、もう一度、お辞儀すると部屋を立ち去った、するとジェーン・グラディスには彼がまるで大変に面白がるように独りで笑っているのが見えた。

扉が怪しい小男の後ろで閉じられたとき、子供は再び窓に腰を下ろしながら本をちらりと見た。それは赤と黄の表紙があって「何だったっけ」の言葉が大きな文字で前面に渡っていた。

それから彼女はそれを開いた、物珍しく、すると自分の名前が最初の白い頁に黒い文字で書かれているのを見た。

「おかしな小男だったな」、彼女は考え込んで自分にいった。

次の頁を捲ると道化師の全身図を見た、緑と赤と黄の衣装で、真っ白な顔の両頬と目全体に三角の赤い斑点があるのだった。これを眺めたと同時に本は彼女の手の中で震えた、頁はパチパチキーキー鳴った、すると、突然、道化師がそこから跳んで瞬時に普通の道化師の一人と同じくらい大きくなりながら彼女のそばの床に立った。

彼は腕や脚を伸ばすと相当に不作法なふうに欠伸した後、戯けてくすくす笑いながらいった:

「この方が良いよ! どんなに窮屈でいるかは分からないよな、平らな紙の頁にそんなに長く立っていればさ」。

きっとどんなにびっくりさせられるジェーン・グラディスだったか、そして彼女が本から跳び出たばかりの道化師をどんなに見詰めたかは想像されよう。

「こんなようなことは予期しなかったよね?」、彼は道化師なりの横目遣いで彼女に訊いた。それから部屋を見てみようと振り向いた、すると驚嘆にも拘わらず、ジェーン・グラディスは笑った。

「何が面白い?」と強く訊ねた道化師。

「まぁ、貴方の背中は白一色だよ!」と叫んだ少女。「前だけが道化師なんだ」。

「さもありそう」、彼は苛立った口調で返した。「画家は前面図を描いた。背面を描こうとは思わなかったんだ、本の頁の反対側だったから」。

「しかしとてもおかしなように描いた!」といったジェーン・グラディス、目が涙で潤むまで笑いながら。

道化師は拗ねたようだった、そして彼女に自分の背中が見えないように椅子に腰を下ろした。

「私は本の中だけの者ではない」、彼は不機嫌にいった。

彼女はこれで本の別の頁を捲ろうと思い起こした、すると猿の絵が含まれるとはまさか気付かなかったのだった、動物が紙をくしゃくしゃにしながら本から弾んで自分の隣の窓腰掛けに着いたとき。

「ひ−ひ−ひ−ひ−ひ!」と鳴いた生き物、少女の肩へ、さらに中央のテーブルへ弾みながら。「これは物凄く面白いぞ! さぁ、僕は絵の代わりに現実の猿になれた」

「現実の猿は喋れない」といったジェーン・グラディス、咎めるように。

「どうして分かるのか? 君は今まで一匹の君自身になったことがあるのか?」と尋ねた動物;するとそして大声で笑った、さらにまるで意見を楽しむように道化師も笑った。

少女はこの時には正しく狼狽えた。うかうかと別の頁を捲った、すると考え直す間もないうちに灰色の驢馬が本から跳び出てドンガラガチャーンと窓腰掛けから床へ躓いた。

「全く鈍臭いな、間違いない!」といった子供、憤慨して、というのも獣に引っ繰り返されそうになったためだった。

「鈍臭い! 構いやしないさ?」と強く訊ねた驢馬、怒った声で。「愚かな画家に遠近法なしに描かれたら、私かされたように、誰だって鈍臭くなるだろうよ」。

「貴方が悪いんだ?」と訊いたジェーン・グラディス。

「私の左側の前と後ろの脚が6インチ近くも短かい。それが問題なんだ! あの画家は正確な描き方を知らなければどうして驢馬を少しでも描こうとしたのか?」

「知らない」と返した子供、予想される答えが分かったけど。

「殆ど立ち上がれない」と不満を漏らした驢馬;「もはや最小の些事にぐら付かされる」

「気にするなよ」といった猿、シャンデリアへ弾みを付けながら尻尾で揺らしてはジェーン・グラディスが電球全てを叩き落とされると心配するまでだった;「同じ画家は私の耳を道化師のと同じくらい大きく描いてしまったし、誰もが猿にいうほどの――況して描くほどの耳は全くないと知っている」

「彼は告訴されるべきだ」といった道化師、鬱々と。「私には背中が全くない」。

ジェーン・グラディスは可愛い顔に戸惑いの表情で一方から他方を眺めた、そして本の別の頁を捲った。

閃光のように敏速に彼女の肩へ弾んだのは黄褐色で、斑点のある豹だったが、大きな革の肘掛け椅子の後ろに着くと他のものたちへ獰猛な動きで向き直った。

猿はシャンデリアの天辺に登りながら怯えてキャッキャッと鳴いた。驢馬は走ろうとすると直ぐに左側に転倒した。道化師は益々と青褪めたが、椅子にじっと座りながら驚きの口笛を低く吹いた。

豹は椅子の後ろに屈み、己の尻尾を左右に振り、ジェーン・グラディスを含めて彼ら全てを順繰りに睨み付けた。

「君は私たちの誰を最初に攻撃するつもりか?」と訊いた驢馬、再び立ち上がろうと力を尽くしながら。

「私に君たちの誰も攻撃することはできない」と唸った豹。「画家は私の口を閉じて描いた、だから歯は全くない;しかも爪を描き忘れた。しかし恐ろしく見える生き物なんだ、とはいえ;じゃないか?」。

「おぅ、そうだ;」といった道化師、無関心に。「君は全く恐ろしく見えるだろう。しかし歯も爪もなければ私たちは全く君の見た目を気にしない」。

これに苛立った余りの豹は恐ろしく唸った、すると猿は笑った。

丁度、その時、本が少女の膝から滑り落ちた、なので彼女は掴み取ろうと動き出したけれども後ろに近い一頁が大きく開いた。彼女は頁から自分を眺める獰猛な灰色熊を垣間見ると素早く本を自分から投げた。部屋の真ん中にバサッと落ちた、しかし横に立ったのが大きな灰色熊で、本が閉じる前に頁から身を捻り出したのだった。

「さぁ」と自分の安全な場所から叫んだ豹、「君たちは注意した方が良いぞ! 俺にしたように笑うことはできない。熊には爪と歯の両方がある」。

「あるぞ、本当に」といった熊、低く深い唸り声で。「しかもそれらの使い方が分かる。その本を読めば私が恐ろしく、残忍で、情け容赦ない灰色熊であり、己 の人生の本分を幼い少女――靴、衣服、リボンでも何でも食べ切るだけとして特徴付けられたのを見出だすだろう! そしてさらに作者はいう、私は舌鼓を打ちながら心から己の悪どさを喜ぶと」。

「それは酷い!」といった驢馬、ぺたりと屈んで頭を悲しげに振りながら。「作者が君を少女へ飢えさせたのは何でだと思うか? 動物も食うのか?」。

「作者は私の食べ物を幼い少女としか触れなかった」と返した熊。

「とても良い」といった道化師、ホッと息を長く吐きながら。「望めば直ぐにジェーン・グラディスを食べ始められるぞ。私は背中がないせいで笑われたんだ」。

「すると私は脚が遠近法なしのせいで笑われた」と嘶いた驢馬。

「しかしお前らも食われるに値する」と革の椅子の後ろから大声を出した豹;「俺 は爪も歯もないせいで笑われて揶揄われたんだから! 少女を平らげた後に何とか道化師と驢馬と猿を食べることができると、灰色熊氏、思うか?」

「きっとそうだし、おまけに豹も」と唸った熊。「それは私がどれだけ空腹かによるだろう。しかし幼い少女から先ずは始めなくてはならない、なぜなら作者は私が少女を何よりも好むというのだから」。

ジェーン・グラディスはこの会話を聞いて大きく恐がった、もはや人が復讐するために自分に本を贈るといったときに意味したことを認めるのだった。確かにパパは『ピーター・スミス全集』を買わなかったと残念がるだろう、帰宅して可愛い娘が灰色熊に食べ切られたのを発見したとき――靴、衣服、リボンでも何でも!

熊は立ち上がると後ろ脚でバランスを取った。

「こんなふうに本では見られる」、彼はいった。「さぁ、私が幼い少女を食べるのを見守れ」。

熊はジェーン・グラディスの方へゆっくりと前進した、そして猿、豹、驢馬、道化師の全員が輪になって突っ立ちながら熊を興味深く見守った。

しかし灰色熊が到達する前に子供はある突然の考えを抱いて叫び出した:

「止めろ! 私を食べてはならない。君は間違っているんだ」

「どうして?」と訊いた熊、驚いて。

「どうしてかは君が所有されるせいだ。私の私有財産なんだよ」、彼女は答えた。

「どう見当が付くのかが分からない」といった熊、がっかりした口調で。

「まぁ、本は私に贈られた;私の名前が最初の頁にある。つまり君はその本に、権利上、帰せられる。だから自分の所有者を食べてみせてはならないんだ!」

灰色熊は躊躇した。

「君たちの誰かは読めるかい?」、彼は訊いた。

「読める」といった道化師。

「ならば彼女が真実を話すかどうかを確かめろ。名前は本に現実にあるか?」

道化師はそれを拾い上げると名前を調べてみた。

「それは」といった道化師。「『ジェーン・グラディス・ブラウン;』であり、しかも大きな文字で非常にはっきりと書かれている」。

熊は溜め息を吐いた。

「ならばもちろん食べることはできない」、彼は決めた。「あの作者には大抵の作者と同じくらいがっかりさせられる」。

「しかし画家ほどには悪くない」と声を上げた驢馬、真っ直ぐ立ち上がろうと未だ努めていた。

「責任は君たちにある」といったジェーン・グラディス、厳しく。「本の中にいれば良かったんだ、載せられたところに?」。

動物たちは馬鹿らしいように互いを見た、もはや道化師は白塗りの下で赤面した。

「現実に――」と始めた熊、するとそして暫し止まった。

扉のベルが大きく鳴った。

「マンマだ!」と叫んだジェーン・グラディス、弾み上がりながら。「ついに帰宅したんだ。さぁ、君たち、間抜けな生き物たちは――」。

しかし彼女は本に突進する彼ら全員に遮られた。頁がヒューブーンとカサカサと鳴った、すると直く後にジェーン・グラディスの変わった連中がすっかり消えてしまったと同時に本は床の上に置かれて他のどんな本とも同じように見えるのだった。

この物語はどんな場合でも素早く明確に考えることを私たちに教えるに違いない;というのもジェーン・グラディスが自分は熊を所有すると思い起こさなかったら恐らく呼び鈴が鳴る前に熊に食べられてしまっただろうためだ。

関連:L・フランク・ボームの熊を所有した少女の原文と注解

参考:アメリカお伽話05 『グリズリーは、だれのもの?』 L・フランク・ボーム

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