シェーマス・オケリーの才覚者の日本語訳 結城永人 - 2020年12月17日 (木) 十九から二十世紀のアイルランドの作家、小説家で詩人のシェーマス・オケリーの小説の才覚者(1919)の日本語訳を行った。一つの文学作品として人間の洞察力に富んだ優れた内容を持つだけではなく、表現も意義深いから外国語の英語の聞き取りと読み取りの教材としても最適だと感じる。 目次シェーマス・オケリーの才覚者の英語の出典シェーマス・オケリーとはどんな作家かシェーマス・オケリーの才覚者の日本語の訳文 シェーマス・オケリーの才覚者の英語の出典 Seumas O'Kelly by Unknown / Public domain シェーマス・オケリーとはどんな作家か シェーマス・オケリーは、およそ1880年にアイルランドのダブリンで生まれたジャーナリスト、編集者、劇作家です。1918年に同地で脳出血のため、およそ36歳の若さで亡くなりました。 オケリーは、ジャーナリストとして書き始めました。様々な新聞社を経て1903年に『サザンスター』の編集長になったときはアイルランドでおよそ23歳の最年少だったといわれます。それからシン・フェイン党の創設者のアーサー・グリフィスの機関誌に寄稿し、政治活動に加わり、彼の紹介で、ダブリンの文学サークルにも入りました。 次第に小説や戯曲などの創作に取り組むようにもなりました。主な作品に戯曲『シェイラーの子』(1909)、短編小説集『路上生活者』(1917)、長編小説『鹿公園の女』(1917)があり、死後に発表された短編小説『職工の墓 』(1920)が名作と見做されています。 オケリーは、1918年5月にアーサー・グリフィスや他の多くのシン・フェイン党の活動家が逮捕されるとダブリンで機関誌の編集に携わりましたが、11月の第一次世界大戦におけるドイツと連合国の休戦協定の後、シン・フェイン党の本部も兼ねていた新聞社が襲撃される騒乱の中で、脳出血で亡くなりました。 彼の葬儀は、大きな政治デモの場となり、国家独立への殉死者として遺作の数々が出版されました。 作成:Bard The Man with the Gift by Seumas O'Kelly/シェーマス・オケリーの才覚者 原文HathiTrust Digital Library(作品集)朗読LibriVox(M・カニンアム) 両方ともパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。 シェーマス・オケリーの才覚者の日本語の訳文 A barque sailing on a moonlit night by enriquelopezgarre / Pixabay 二十五年間、船長は客室の使い古しの踏み段を心配なしに昇降していた。彼の拳は綱の感触、樽の転げ回し、箱の吊しに〈金色帆船〉の積み降ろしで慣れていた。その肢の運びは甲板の儀式のようなものになっていた。彼はヤニの匂いを発散し、足は平らで、手は丸く、顔を前方へ投げ出しながら首は大きく曲がっていた。目は淡い黄色で、運河の水みたいだった。眼差しは景色を運河みたいに抉じ開けながら集中していた。気性は穏やかだった。感情はまるで見えない閘で調整されるように機械的に上下した。彼は家鴨のように従順だった。名前はマーティン・コグランで、北から来たのだとその演説から記憶みたいに生じる疎らな言葉によって知られた。 民主主義――団体――あの灯火は、ある日、存在の引き潮に達した。それはその不可解な簡易爆弾、誰にも況してマーティン・コグランによって見出だされた。そうするまで彼は世界の過ちに何の責任も感じず、己の日の問題に何の真意もじっと考えなかった。興味は一つの港に始まって別の港に終わった。甲板から見るものが世界を作り上げた。それらは良かったし、彼は満足した。 しかしそれから人々が訪れて委員会で選出されたことを彼に話した。彼はその発表に微笑みかけた、というのも自分が選ばれた人、敬意を表されている栄光の者だと漠然とだけれども掴んだためだった。彼は委員会議が開かれる小屋へと緩やかに蹌踉めき、集会の目的に関しては空白の気持ちで歩いた。尋ねることはなかった。他の人たちと腰を下ろして自分の周りを眺めていた。机の人が本から何かを読んだ、マーティン・コグランは笑った、そして他の人たちから見詰められていると感じた。 太い声が悲劇的でなければ訓戒の調子で「開会」を宣言した。マーティン・コグランはその場の可笑しさが判ることを示そうと隣の人の肋を小突いた。 そのとき、一人が机の上座から立ち上がった。彼は大きな口髭、慧眼、小屋に高く鋭く響く声を持つ痩せ男だった。 マーティン・コグランは話者を凝視した。珍しくて思いも寄らない何かが彼の人生に触れた。彼はこの痩せ男が全ての言葉をどこで得たのかと思った。それらは淀みない流れで現れた。何かを目的とするものだったが、それが何なのかはマーティン・コグランには分からず、実際、気にかけなかった。言葉が次々と現れることで十分だった。演説のそんな持続する洪水以前に彼はどんな人にも決して聞いたことがなかったのだった。マーティン・コグランは後ろに凭れた、歓びの顔付きで。 もう一人が立ち上がった。彼は尚更と巧みに喋った。精力的に身振りした。他の人たちは己の肢を己の手でピシャリと打ち始めた。マーティン・コグランは自らの栄光を感じながらその肢をピシャリと打った。生き始めていた。 がっしりした人が続いた、その声は場所全体に反響を起こした。目は顔を一つ又一つと探しながら煌めいた。突然、目はマーティン・コグランへ向けられた;その人はまるで知性に働きかけるように彼に話しかけた! 彼は彼と議論し、手真似し、その論理の全てを足元から積み上げた。 マーティン・コグランの血は沸き始めた。首の後ろの曲がりにうずうずと感じた。咳で緊張を緩和した。そのとき、話者の目線は他の人へ彷徨った。 講話は、数時間、続けられた。皆が興奮していた。数人が意義ある瞬間に一斉に喋った。マーティン・コグランは発汗し始めた。一度、叫び出した、「賛成」、なぜなら言葉に聞き覚えがあったからだった。 委員会議が解散したとき、彼は船に戻って行った、その頬を紅潮させて全ては自分自身で為したのだと感じながら。ハイクを道で追い越した。小柄な運転士は彼を敬意を持って見上げた。暗い顔の男が船尾の箱に座っていた。 「会議、終わり?」、彼は訊いた。 「あぁ」、マーティン・コグランはいった。 彼の声は掠れて聞こえた。喉の渇きが感じられた。彼は小樽へ下りて行くと一杯の水を飲んだ。 その後、マーティン・コグランは新鮮な空気の甲板へ歩んだ。心を奪われていた。一度、岸の茂みで身振りするのを人々から見られていた。彼は閘門管理人に新鮮な口調を取った。いつも咳払いしていた。 食事で何度か人々は彼が演説を行うつもりだと思った。しかし何かに圧倒される彼だった。人々が彼に委員会の進行に関して聞き訊ねたとき、彼の顔は微笑んだ。 「演説が行われたよ」、彼はいうのだ。 「何といったのか?」 マーティン・コグランは立ち上がった。コートの折り襟を掴んだ;格好を付けた。鼓舞された様子がその顔に現れた。しかし言葉は続かなかった。代わりに彼は手桶を取り上げると甲板に向かった。 「彼は委員会の大物だ」、人々はいった。「彼はその内幕を明かさないんだ」。 「やい、なぁ、しかしあの輩は知っている。小部屋の秘密を握ることができた」。 ある日、暗い顔の男は新聞を村で貸した 「演説は為されない」、彼はいった、「しかし正しく十分な名前――マーティン・コグランがある」。 マーティン・コグランは新聞を取った。自分の名前を一字一句と読んだときに目は泳いだ。その部を、夕べの残り中の長い間、読み耽った。皆が寝入ったとき、彼はいった:「君ら、しかし勇ましい小さな新聞だぞ」 彼は蝋燭を持つと構えて座り、広告を含めながら一字一句と全体を読むのだった。それから歓びの顔付き、何かを成し遂げたと知る人の目付きで起き上がった。「あのな」、彼はいった、「私は船を横梁と船尾の方、船頭を船尾へ分解検査したんだ」。 しかし答えたのは低い鼾の合唱だけだった。彼はぶつぶつ不平をいいつつ寝入った。 又別の委員会議が直ぐ後にあった。演説は彼の頭に天空からの露みたいに降りかかった。言語! さぁ、世界は今まで決してそのように聞かれたことはなかったのだった。その上、彼は他の皆が己の見地から自分に従っていると自覚していた。裁判官、小屋にかつて入った最も優れた聴き手のように厳粛にそこに座るのだった。話者たちは聴衆、理解する人をついに掴んだのだと感じた。時折、彼は賛成して頷くのだった。それは討論の場に匹敵した。彼がその頭を承認せずに振ったとき、話者たちは興奮した。喋りに喋った、戦い、議論し、自分たちの意見に賭けながら。しかしマーティン・コグランは驚くべき敵愾心で己の静かな見地を守った。甘言で釣られなかった。 「昨晩はどんなだったのか、マーティン?」、皆の一人が後から訊いた。 「それは」といったマーティン、止まった後に「秘密だよ」。 「彼は狭量過ぎる」、人々はいった。「総じて委員会のために黙る。コルクが抜かれれば聞けるものには違いない」。 暗い顔の男は新聞を好んだ。村で定期的に取った。「ここにあるぞ」、満足げに彼はいった、「今度は演説が為される。すると彼が自分のためにいわなくてはならないことは分かるだろう」。 しかしマーティン・コグランからの演説はなかった。誰もが何かをいっていた、〈金色帆船〉からの代表を除いて。 暗い顔の男は文句を付けた。 「新聞は気にするな」、マーティン・コグランはいった。「船は不調だ。私は浸水してしまったと初めから知っていた」。 しかし彼は皆が不満だと感じた。甲板で格好を付けるといった:「議長と紳士――敢えて考えます」、彼は止まった。「私の気持ちでは」、彼は付け加えた。もう一度、止まった。「つまり、今夜、ここに立ちますならば」、彼は景色を漠然と見渡した、「提案させて頂きたいのです」。そうすると彼は少し甲板を駆け遣った、己の手を歓びに擦りながら。 「彼は如才なさ過ぎる」、皆の一人がいった。「芝居で私たちを出し抜けると考えているな。それはなかろう」。 次の委員会議の進行が始まる前、マーティン・コグランは秘書を脇へ呼んだ。秘書は敏腕家だった。彼に俸給を与えるための動議が上がった。 「ジョン」といったマーティン・コグラン、気安く。「どうなったのかを教えて欲しい」。 「どうなったのかとは何ですか?」 「演説だよ;言語、言葉、彼らがした話」 ジョンは困惑した。それから光が彼に弾けた。 「まぁ」、彼はいった、「人は持ち合わせるに違いない」 「何を持ち持ち合わせるのか?」 ジョンは躊躇し、考え、いった。「才能です」。 マーティン・コグランは悄気返った。全くうっかり喋ってしまったものだと感じた。 「才能を得る見込みがどこにあるのか?」。彼はついに訊いた。 「分かりません」、相手が返した。「それは内側から来ます」。 「おぅ、そうか」、マーティン・コグランはいった、もっと元気に。それから打ち明けた、「ジョン、私は自分の本性の内側に持ち合わせる。言語、肝心な言語を。しかし取り出すことはできない」。 「勇気を持って」、もう一人がいった、「チャンスを掴んで。自分の脚で立ち上がって。向き合って。そうすれば言葉は流れ出すでしょう」 「そう思うのかい、ジョン?」 「間違いなく」。ジョンは説得力のある人、納得させて望みを鼓舞して――俸給を引き出す者だった。 「それではあの小さな新聞があるよ、ジョン。もしも私が言葉を公表すればそれらはそこにあるだろう。もちろん。人々は何をいったのかを探し求めながら新聞を読んでいるんだ」。「おぅ、それはそうです、ですよ、マーティンさん?」、ジョンは訊いた、それから相手の背中を軽く叩いた。「それは申し分ないでしょう、御大。私に任せて。俸給問題を直に採決して、すれば約束は新聞で貴方に果たされるでしょう」。 「どうも、ジョン;そうするよ」 討論の重大な局面で、マーティン・コグランは立ち上がった。机に赴き、注意を引くためにそれを拳でコツコツ叩き、自分の首の周りの襟をぐいっと上げた。海外で稽古していた格好を付けるのだった。それは偉大な雄弁家の記憶に直立する様々な彫像を偲ばせた。 彼は小屋を上下に眺めた。静けさが集会にやって来た。皆が後ろに凭れて黙った男を何かと聞いた。聴衆、人々の中の寡言な一人がこの重大局面に発言しなければならなかった。 「議長と紳士諸氏」、緊張でまごまごしながら彼は始めた。 笑いがあった。マーティン・コグランは唇を舌で湿らせた、というのも乾いてくっ付きそうなためだった。片膝がもう片方に打つかった。それから咳払いを相当にしなければならなかった。 「ジョン、私の秘書は」、彼はついにいった、「もしも自分に脚で立ち上がれば言葉は自分の本性の内側から流れ出すだろうと教えました」。 彼はおろおろと脳が崩壊する奇妙な感じで見回しながら躊躇した。苦笑いした。 「続けなさい」といった議長。 「彼はいいました」、マーティン・コグランは再開した、己の声が反響し始めたまま「もしも皆様と向き合えばそれらは自分から流れ出すだろうと。ですが――神かけて――そうではないでしょう」。彼は着席した。笑いと拍手がわっと起こった。 皆がマーティン・コグランを見詰めた。懐疑主義、愉悦、悪意ある歓びが落ちた神々にじっと向けられる彼らの一瞥の中に混ぜ合わされていた。露見、仮面を着けた空虚さの明示、退屈なだけの思慮分別への背信が面白がられるのだった。 マーティン・コグランは熱くなり過ぎ、混乱で一杯になり過ぎて彼らの粗野な軽薄さに気付かなかった。冷静になったときまで彼らによって落とされていたのだった。人々はもはや彼に従わなかった。彼はもはや知性としての魅力はなかった。物影へ直感的に引き下がると会議が解散するまでそこに座った。 彼が自分の船に着いたとき、皆は彼に敬意を持って挨拶した。彼は何か呟きながら客室へ下りて行った。夜の残りをそこで過ごした。 「委員会は」、彼は、次の日、暗い顔の男にいった、「堕落した委員会だ」。 「それは最初から考えていたよ」、相手は返した。「しかしいう気はしなかった、貴方が熱心なものだったので」。 「しかも無知な委員会だ」、マーティン・コグランは付け加えた。 「そんなものさ」 さてや週末まで新聞は入らなかった。暗い顔の男はそれを読んだ後にマーティン・コグランへ見上げた、そうすると向かって行った。 「ここを見て、船長」、手を差し出しながら彼はいった、「握手を」。 彼らは握手した、マーティン・コグランはびくびくと。 「見事な演説だったね」、暗い顔の男はいった。「貴方はこの船で時間を無駄にしている」。 マーティン・コグランは顔を赤らめた;その眼差しは不確かだった。相手から新聞を渡された。 彼は樽に座るとその部を開いた。自分の名前が再び載っていた! 一字一句とそれをゆっくりと読むのだった。「マーティン・コグラン氏は大きな拍手で迎えられていった――」。そして活字の言葉の言語の演説の段が続き渡った。彼はそれをドクンと打つ心臓で読み通した。そこには「賛成」、「拍手」、「歓呼」が点在した。終えたとき、彼は立ち上がると太い肢を広げ、扁平足を板に揺るぎなく、胸を張って甲板を歩いた。 「良い報告ではないか、船長?」、人々は訊いた。 「非常に公平だ、非常に公平、まあな」、寛大に彼はいった。 「なぁ、しかしそれが明かされるのを聞きたいな」 「正しく、だろうね」 「そのうち、貴方から聞くな」 「だろうね、じゃないか? 如何にも」 彼は指を髪に通して走らせた。空間を、漠然とした空間をその眼差しで慣れ親しんだ景色へと穿った。血は段々と高まり、遂には顔が紫色になるまで氾濫しながらまるで誰かが堰の水門を上げたように高まるのだった。 「神よ、その言語よ」、彼は、終日、何度となく、自分に繰り返した。 生まれて初めて湿原を渡って航海するときでも〈安息所〉へ向かわなかった。代わりに客室へ向かって一字一句と演説を何度となく読むのだった。 段々と気持ちはそれを別の何か、自分自身の人生の外側の何かとして考える悪習を直した。彼はもはや「神よ、その言語よ」といわなかった。代わりに「肝心な言語;素晴らしい話;ぴったりのもの。それがそうだ。それが私のいうことだ。それが私のいう言葉そのものだ。私はそれを自分のいった言葉と考えると宣する。それが私の頭をその時点で通り抜けていた。私はそんな言葉そのものをいったはずだ。さもなかったらそうするつもりだった。ただしいったことは忘れた。たぶん私はそういった。如何にも私はそういった。もちろん私はそういった。じゃないか? 言葉そのもの;否、ただ言葉そのもの。一言をいえば又一言をいったはずだ。私は一言に又一言と追い上げずにはいられなかった。何で止めてしまったのか? 何でもない。私はそんな仕方そのものを続けた。一言は又一言を借りた。他に何ができるか? 如何にも私はそういった。事実、それが逐一と私のいった全てだ」と呟いた。 他の人たちが〈安息所〉から帰って来るまで自分にいい聞かせ続けた。 彼は暗い顔の男に近寄った。 「それが何なのかを教えるよ、非常に公平な報告なんだ;非常に良い報告;飛びっ切りの報告。逐一とそれがある、白と黒で」。彼は片方の拳をもう片方へ打った。 「船長」、相手はいった、殆ど尊敬に近いものが長くて細い顔にあったけど「貴方は熱心なもの、有能なものだ。要するに態度を一変して貴方がいったみたいなことをいうためには人は才能がなくてはならないんだ」。 「如何にもなくてはならない」、マーティン・コグランは何歩か大きな油布で覆われた積み荷のそばを進みながら同意した。「私はそれを自分の本性の内側に持ち合わせるとジョン、秘書に話した。つまり私は自分の本性の内側に何を持ち合わせたのか、貴方に訊くよ、どうだ? 才能を!」。 「いやさ、良かった、私たちは、皆、直ぐに貴方から聞けるだろう」、暗い顔の男はいった。「公開の会議が来るんだ」。 マーティン・コグランは長く息を吐いた。 「そんな話はない?」 「あるよ。私たちはその報を〈安息所〉で受けた。演説が行われることになる、それは見事な演説が。私たちは貴方がその日に自分の中の素晴らしい才能を示すことを期待するよ」 「しなよ、如何にも」、マーティン・コグランはいうも感激しなかった。彼は指を髪に通して走らせた。それから他の人たちから歩き去った、彼の逞しい姿態が海に向かって揺るぎなく、船の舳先で立っていた。 「彼が熱心なものなのは無駄口のためだ」、気味悪そうな男が不遜にいった。「彼が地面から身を支えている二本の力強い肢を見ろ」。 その後、マーティン・コグランは来る会議の題目を避けながら非常に静かに黙った。皆は彼が大事な機会のために自分自身を封じ込めているといった。彼らは彼が依然として自分の演説を含んだ新聞を読み耽っていると気付いた。彼は夜に己の寝棚で仰向けになるのだった、蝋燭がそのそばに据えられ、徹して演説を反復練習しながら。一二度、皆は彼が課題に取り組む少年みたいに独りで呟くのを聞いた。近頃は彼の顔色に何やら出ていると気付かれた。物思いがその表情に確かに忍び込んでいた。 「船長」、皆の一人が彼に訊いた、「大変なのか?」。 「大変だよ」、マーティン・コグランは答えた、すると悲しげに歩き去った。 一度、皆は起きて彼が甲板を真夜中に歩むのを聞いた。暗い顔の男が梯子を上って行くと己の半身写真をひょいと船倉の上に動かした。暫く後に帰って来た。 「彼はシャツを着て甲板にいる」、彼はいった。「月が彼に輝いている、彼の脚は舵柄の下で二つの白い柱みたいだ。あの新聞を携えている。数語を発するのが聞こえた。彼はそれらを忘れていた、再度、捕まえようとしながら夢中に喋る人みたいにとちってはたじろいでいたよ。それから手を髪に通して走らせたんだ、すると風が白い柱の辺りのシャツを靡かせていた」 「力強くはあれ」といった気味悪そうな男、寝棚で転がりながら「夜に寒そうだ、自分には才能がなくて嬉しいな」。 会議の日が近付いてそれがもっともっと話題になるほどにマーティン・コグランの落ち込みは増した。何かに押し潰されるようだった。彼は暗い顔の男を脇へ呼んだ。 「この会議は委員会によって始められると知っている?」、彼はいった。 「知っている」 「すると私が大分前にその委員会について話したことを思い出せるね。私はそれが堕落した委員会だといった」 「いった。そのことは覚えている」 「さらに私はそれが無知な委員会だといった」 「全く以ていった」 「君は私に同意した。私たちはこの委員会に関して一致していた。結構、私はそんな委員会に満足の行く演説を行うつもりはないよ」 「では、哀しいことだ、貴方には才能があるので」 「だよな! それで私はやるんだ。才能ある者は如何に堕落した無知な委員会を代弁できるか?」 暗い顔の男にこれは難問だった。もしかするとその便宜上の切迫する瞬間にマーティン・コグランは自分が政略の相当な才を、結局、持つと示した。 彼は甲板を大股で歩き下りた。 「決してできない!」、己の腕を振りながら彼は決意して声を上げた。 会議はマーティン・コグランなしに行われた。彼は参加さえもしなかった。自分の名前を委員会から抹消することを「通告した」。 「そうしよう、本当」、皆の一人がいった。「全くそんな従順な家鴨は誰にとっても殆ど良くない」。 〈金色帆船〉からの皆はマーティン・コグランが集会でその雄弁を捲し立てないと気落ちした。人々は幾分か彼をどうやら不当な扱いを受けたと見做した。しかし彼はもっと元気になっていた。船を動き回りながら口笛を又吹き始めた。その扁平足は甲板の儀式のようなものに以前にも況してなった。その首の後ろの曲がりはその頭をもう少し投げ出した。その目はもっと淡い黄色になった。想像上の運河を景色に掘り続けた。彼は水の中の家鴨のように幸せだった。一度、暗い顔の男が訊いた:「船長、貴方の演説を伝えた新聞はどうなったか?」。 「おぅ、彼処の屑!」、マーティン・コグランは返答した。「石に丸めた、もはや何週間でも船底だ」。 参考サイトThe golden barque and The weaver's grave 英語の小説の日本語訳 コメント 新しい投稿 前の投稿
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