英語の小説、アガサ・クリスティの誘拐された総理大臣の日本語訳で気になった英文法にitから複数名詞が続く場合があった。
it①複数でも単数扱いの名詞を指す
“Monsieur Poirot, it was a bogus car and a bogus A.D.C. The real car was found in a side road, with the chauffeur and the A.D.C. neatly gagged and bound.”
「ポワロ氏、それは偽の車で偽の副官でした。本物の車は側道で見付かり、運転手と副官はきっちり猿轡を嵌められて縛られてました」
例文は「a bogus car and a bogus A.D.C.」が「偽の車と偽の副官」で複数なんだけれども単数の指示代名詞の「it」から続いている。
二つ以上の名詞が等位接続詞の「and」で繋がったものは基本的に複数で、そのまま、複数扱いになるけれどもそうではない場合もある。
複数の名詞でも一纏まりだと単数扱いに変わる
名詞が二つ以上で新しい意味が生まれたり、一つの言葉として捉えられる場合は単数扱いされるから代名詞に「it」が使われ得る。
Bread and butter is so delicious.
パンにバターはとても美味しい。
文法上、複数名詞を普通に複数扱いで表現しても間違いではないけれども敢えて一纏まりに単数扱いで表現すると独特のニュアンスを出せるので、例外的に行われるということだ。
同じ類のもの、「tea and coffee」(紅茶と珈琲)みたいなものは単数扱いにはなり難いとされておよそ並列的に捉えられる。他方、似てないもの、「bread and butter」(パンとバター)みたいなものはそれらの組み合わせから別の何かが一つ得られる感じで、単数扱いに変わることも珍しくない。
等位接続詞の「and」で繋がれず、語尾に「s / es」が付いた複数形の名詞でも同じだ。
There was four thousand dollars in my desk.
私に机に4000ドルがあった。
複数形の名詞の単数扱いは専ら一纏まりの印象を強めることになる。
単数扱いに変わるとたとえ複数名詞であっても代名詞にitが使われる場合が出て来る。
it②強調構文の予備の主語の用法
itから複数名詞が続く場合がもう一つあってit〜thatなどの強調構文では全く普通に見られる。
強調構文は主語と目的語と副詞句/節を対象にする三つのパターンがあるけれも何れのパターンでも複数名詞がitから続く可能性がある。
名詞が対象となる文章
It was a tangerin and an apple that I ate.
私が食べたのは蜜柑と林檎だった。
目的語が対象となる文章
It is us that helped them.
彼らを手伝ったのは私たちだ。
副詞句/節が対象となる文章
It is in Tokyo and Osaka that she went sightseeing.
彼女が観光したのは東京と大阪だ。
名詞と目的語が対象の強調構文では動詞の後に複数名詞が来るかも知れないけれども主語も動詞も複数形にはならない。予備の主語のitが不変で、動詞もその直後に続くかぎり、通常の単数形が取られる。強調される対象は単数でも複数でも構文そのものか構わることはない。
副詞句/節が対象の強調構文はitから複数名詞が続いても句/節として捉えられるし、予備の主語や動詞の活用に影響するような状態ではないから特に違和感はない。
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