難しい読書感想文用の小説集 結城永人 - 2022年8月25日 (木) 学校の課題などの読書感想文用に文字数が少なくて速く読める短編か中編小説から内容が難しくて主に高校生か大学生/一般人に向いた作品を紹介すると共にそれぞれのあらすじと読書感想文を書くときのヒントを纏めた。 Traditional interior with reading boy at the fireplace by Anna Nordgren / Public domain アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事チャールズ・ディケンズの信号手キャサリン・タイナン・ヒンクソンの一人者ヴァージニア・ウルフの社会アーネスト・ヘミングウェイの父さん どれも僕が和訳した英語の海外の小説集から選んでいて内容の読み取りが平易と思われる順番で並べている。 その他に中学生以下のための易しいのものと高校生以下のための中々のものも用意している。 アンブローズ・ビアスのアウルクリーク橋の出来事 作者 アンブローズ・ビアス(1842〜不明) 国籍 アメリカ 作品 アウルクリーク橋の出来事(1890) 分野 現代/戦争 長さ 短編(八千三百字程度) アウルクリーク橋の出来事のあらすじ アメリカの南北戦争で、北軍に捕まった南軍の人物がアラバマ州の鉄道橋の上で絞首刑による死刑執行を受けようとしていた。両手を背中側に縛られて首に引き結びの綱がかけられている。足場の板は緩く、鉄道の枕木の上に置かれるだけだった。死刑囚は元は農園主らしく、人相は悪くなかったが、軍の規定を免れることはできない。手筈が整えられると目の前にいた二人の兵卒が足場の板を持って下がり、大尉の一歩後ろへ入れ替わって軍曹が死刑囚と同じ板に立ち、向かい合うことになった。軍曹が離れると足場の板が傾いて死刑囚は落ちて絞首刑が果たされる仕掛けだ。死刑囚は目隠しをされず、足の下の余りにも緩く感じる水の流れを見た。そして妻や子供たちへ思いを馳せ、否激しく動揺しながらも「もしも手を自由にさせられたら」と考え、助かるに違いないと一縷の望みが閃いた瞬間に軍曹が離れて足場の板は傾き出した。死刑囚はペイトン・ファークワーという名前の裕福な農園主で、奴隷所有者だった。そして政治家ともなり、南部の大義(生き残りを賭けた北部との血みどろの戦い)へ全てを捧げるように尽力して来た。ある夜、兵士が来て北軍がアウルクリーク橋の北岸に防御柵を建てると同時に侵攻を妨害する民間人を捕まえたら全て絞首刑にする命令を味方に発したと伝えた。自宅から30マイル(48キロメートル)離れた場所にアウルクリーク橋はあり、そこまでの味方は歩哨が一人だけと聞かされるが、帰って行く兵士は実は北軍の偵察兵だった。今やペイトン・ファークワーは首を綱で絞めながら落ちて行くところで、鋭い痛みに果てしなく藻掻き苦しながら窒息感に陥る。僅かに残さた意識の中で、水に落ちたことを感じ、死へ「大変な心地良さ」さえも覚えながら逆に浮かんで行くが、さらに射殺されることは許し難いと考えながら無意識に手首の紐を解こうとしていた。奇跡的に上手く行って首の綱も剥がすとよもや心臓が口から飛び出すほどの苛烈な動悸と共に水面に上がって呼吸することができた。そこで細波や漂う草葉の露滴や虫や蜘蛛や魚などの小さな世界に気付きながら命拾いした。下流に移っていたが、見返すと影法師のような敵たちが銃を構えて自分を殺そうと狙うのが分かった。は渦巻く川の流れにぐるぐる回りながら浮かんでは沈み、攻撃を避けながら遠くへ泳いで又幸いにも辛うじて命懸けの難を逃れるペイトン・ファークワーだった。敵に見付からない岸に打ち上げられた際はまるで宝石に囲まれたような美しい気持ちがした。それから葡萄弾が飛んで来て粉々に打ち壊される木々を抜けて森へ逃げると深く深く歩き続けた。未開の地に不気味な印象を受けつつ、あるいは首や目や舌の辛苦を感じるまま、進んで行くとそれらは歩きながら落ちた眠りの中で見られた夢だった。今やペイトン・ファークワーは自宅の門に立っている。出たときと変わらない様子で朝日に輝いていた。妻が出迎えに来る。ペイトン・ファークワーは「あぁ、どんなに美しい彼女だろう!」と感激しながら抱き締めようとするが、首の後ろの一撃で意識を失う。鉄道橋では死刑が遂行されたばかりで死体が揺れ動くだけだった。 読書感想文を書くときのヒント 戦時中の死刑の無情な悲惨さ死にそうな状態の人間の思い人生で本当に大事なものとは何か命拾いを果たしたときの気持ち夢と現実の交錯する不思議さ 文学に触れるのは生と死の極限状態で見出される世界や意外な結末で明かされる人間心理の幻想などがある。 チャールズ・ディケンズの信号手 作者 チャールズ・ディケンズ(1812〜1870) 国籍 イギリス 作品 信号手(1902) 分野 現代/社会 長さ 短編(一万一千四百字程度) 信号手のあらすじ 私が大きな切通しの上から大声で呼ぶと信号手(鉄道で運転手に走行についての信号を線路から送る人)が番小屋から現れて気付くと降りて話せる道を教えて貰う。線路まで来て近くで見るとそこは暗くて周りがじめじめしており、孤独で陰気な場所だった。珍しい訪問者として私は多少とも歓迎されるだろうと信号手に話しかけてみるが、何か拒まれる感じがしてはぐらされてしまう。訝りながら話していると信号手はかつて私を見たことがある人だと思っていたと分かった。私が違うと伝えると信号手も理解を示した。彼は長らく信号手の仕事を就いていて列車の安全を司る重責を担うと共に電子ベルでしょっちゅう呼ばれる緊張を強いられていた。私は仕事から身の上まで色んな話をして「正確さと用心深さ」を感じながら彼を信号手として「最も無難な一人」と認めて帰ろうとするとまるで不意打ちのように個人的な悩みを仄めかされながら直ぐに話せないというわけで、後日、又会って聞かせて貰うことを約束する。帰るときや来るときに大声で呼ばないで欲しいと注意されて不可解な印象を受けるが、いわれた通り、次はそのように訪れると信号手は私を幽霊と見間違えたことを告白する。それは大声で呼んで左腕を目に当てて右腕を振りながら「お願いだから、道を開けてくれ!」と叫んでいた。信号手は線路へ出て確認しに行ったが、何もなかった。私は目の錯覚や電線の風音のせいだと伝える。ところが六時間も経たず、切通しで何人も死傷する大きな列車事故が起きてしまったのだと聞かされる。私はぞっとしつつつも偶然の一致なのは明らかだと伝える。ところがショックを受けて半年くらいかけて回復すると幽霊が又現れるのを見て今度は列車に停止の信号を送ったけれども間に合わずに事故が又起きたと聞かされる。私は言葉を失った。そして幽霊は一週間前から又出始めていて信号手を悩ませているとも聞かされた。私は想像に惑わされたせいだと伝えるが、自分が間違えるはずはないと受け入れられず、泣き出される。幽霊に取り憑かれてどうにもならない信号手の余りにも取り乱した様子から自分の職務を理解することが大切だと説き伏せ、今夜、付き添うことを申し出たが、断わられたために帰ることにした。私は信号手を医者に連れて行くべきではないかと考えて本人に申し出ようと、翌日、約束した夕方に切通しへ向かうと人が何人も線路に集まっているのが見えておかしいと気付いた。嫌な予感を受けながら急いで降りて行って聞くと信号手が列車に轢かれて死んでいた。運転手の話によれば信号手が線路に背を向けて立っていたので、左腕を目に当てて右腕を振りながら「お願いだから、道を開けてくれ!」と大声で叫んだけれども間に合わなかった。無念な思いを抱えながら私は偶然の一致とそれを引き起こした彼の言葉や身振りを思い起こすのみだった。 読書感想文を書くときのヒント 孤独で大変な労働事情幽霊と出会すという驚き職場での心理的な圧迫自信を失った不安や混乱人助けに失敗した後悔 文学に触れるのは幽霊というあり得ない現実そのものや適わない善意への慈悲深い眼差しなどがある。 キャサリン・タイナンヒンクソンの一人者 作者 キャサリン・タイナン・ヒンクソン(1858〜1931) 国籍 アイルランド 作品 一人者(1896) 分野 現代/人間 長さ 短編(八千二百字程度) 一人者のあらすじ ジェイムズ・ルーニーは二十歳下の弟のパトリックと住んでいた。パトリックが世間の人気者なのとは対照的に兄は「不評」だった。人生の失敗が顔に刻まれた冷笑的な人物として特に若い人たちから疎まれていた。ただし実際は一人を好むような生き方をしていて自分の部屋で本や大工道具や望遠鏡に幸せを感じるときは愉快な人物だった。両親とも無愛想で厳しく、子供たちは家庭生活に総じて嫌気が差していた。他の二人の兄弟はアメリカへ渡り、一人の妹は進んで修道院へ入った。ジェイムズ・ルーニーが家を出なかったのは忍耐強い性格か人生に抑え込まれたためらしく、苦難に打ち拉がれる日々だった。若い頃にはフェニアン主義(アイルランドのイギリス植民地からの独立を目指して武力闘争も辞さない友愛団体)に没頭した。一度、仲間たちと警察に逮捕されたことがあり、起訴されなかったが、警察に家宅捜索に来られた母親は激怒した。紳士階級に気に入られる妨げになる。その後、風邪を引くと拗らせて死んでしまう。父親も弱り、ジェイムズ・ルーニーが代わりに一家の仕事を中心的に担い始める。このとき、張り切ったのは何よりも恋のためだった。エレンという愛と人間味に溢れた家の娘で、彼にとって「家庭の光の情熱を有する人間」だった。彼女の一家は祖国に革命を強く望みながら果たされない悲嘆に暮れていたが、情熱を奮い立たせる歌を歌うのがエレンだった。そこにジェイムズ・ルーニーを連れて行ったのは彼が英雄視する知人のモーリス・オドンネルだった。誰にも喋らず、エレンへの恋心を募らせるジェイムズ・ルーニーだったが、誰もが彼女の歌に恍惚と聞き入っており、憧れのモーリス・オドンネルも同じだと分かったときにショックを受ける。さらにエレンは彼の良さが自分と同じように分かると考えて恋を塞ぐ。モーリス・オドンネルは彼に声をかけて本音を聞き出すと彼女がどちらを選ぶかを試すことになった。籤引きでモーリス・オドンネルが先に告白して振られたけど、しかし次にジェイムズ・ルーニーが上手く行くこともなかった。エレンは自分は大した女性ではないからどちらも選べないとして修道院へ入ることを伝えた。以来、ジェイムズ・ルーニーは他のどんな女性を愛することもなくなった。父親が亡くなると遺産を残した。ジェイムズ・ルーニーは弟を良い学校へ通わせるなどから実際以上に裕福と評判になり、縁談も良く持ちかけられたけど、悉く断って気難しい人と見做された。農場ではしかし使用人に寛大で、父親とは正反対の接し方を見せた。パトリックは成長すると陽気で精悍で周りから注目を集める。ある日、グラディの雑貨店を買って商売を始めたいと兄に相談する。ジェイムズ・ルーニーは一人では無理で自分も金を出すから雑貨店を買って住まいは独立するよりも農場で一緒に暮らして何れは全ての財産を受け取ることを勧めた。すると弟は承諾したが、結婚相手のジャニー・ハイランドを連れて来て、三人で、暮らすことになる。弟夫婦は家や庭や家具を好みに変えて喜ばしく過ごしたが、妻はジェイムズ・ルーニーを忌み嫌った。文句も増えて子供たちに一緒に遊ばないように避けさせたりまでした。周りの女性たちは流石に責めていたが、夫は、半分、妻のいい成りだった。ジェイムズ・ルーニーの稼ぎが少なくて農場が疲弊して来ると妻の不快感はさらに増して彼を家から追い出す発言も飛び出す始末だった。とはいえ、彼は特に意に介さなかった、一人で気に入りの本や大工道具や望遠鏡で過ごして嫌なことを思い出さず、心の平穏を保った。 読書感想文を書くときのヒント 世間の見方と異なる内面性自分らしさを考えさせられる革命が望まれる緊迫した情勢人間らしさを考えさせられる良いことも悪いことも人生 文学に触れるのは自分らしさや人間らしさを追い求める気持ちや良いことも悪いこともある人生への覚悟などがある。 ヴァージニア・ウルフの社会 作者 ヴァージニア・ウルフ(1882〜1941) 国籍 イギリス 作品 社会(1921) 分野 現代/社会 長さ 短編(一万三千八百字程度) 社会のあらすじ 女性の仲間同士で男性の素晴らしさを話しているとポルが父親の遺言でロンドン図書館の全ての本を読むことを託されてやっていたら作者は男性なのに女性が書いたように情けない本があると気付いた。皆が驚愕する。クロリンダは本の読み方が分かるのだから「若い時分に子供を産んで過ごすことが女性の務めだ」としても他方で男性が本や絵を作って文明化したといわれる世の中が実際にどういう結果になっているかを見付け出すべきだと述べた。そこで私(カサンドラ)たちは社会になり代わってロンドンのあらゆる場所で男性に質問して回ることにした。ローズは英国軍艦に忍び込んだ。変装がバレて艦長から尻叩きを受ける。しかし名誉挽回に四回半の尻叩きを返すとそれから食事を奢って貰って友好を得た、ファニーは法廷を訪れて判事を木か男性に扮した大型動物と捉えた。ヘレンは王立美術館へ行ったが、出鱈目な詩を朗読してカーペットをぐる横転した後に絵画について教えた。カスタリアは雑役婦に扮してオックスブリッジ大学群に入った。教授たちの個別の建物があり、沢山の本が収められていた。詩人のサッフオー(古代ギリシャの女性詩人で、レズビアン/女性同性愛者の代表的な存在と見做される)の作品を編纂するホブキン教授のところで、彼女の貞節についての論争を知る。彼女は何も訊かず、大して役立ちそうにない学究から彼らは良い人や良い本という人生の目的を作らないと話すとスーから学者は普通の男性とは違うと思うといわれる。はっきりしないので、やり直しに行ったが、三ヵ月後に戻って来たときは妊娠しているカスタリアだった。私は非常に美しいととても感動したけど、しかし彼女は喜ぶ自分たちを貞節ではなく、不純な存在として捉えた。社会は発足して五年が経っており、部屋が仲間で満杯になってジェーンが会議を始めようとするとカスタリアが遮り、自分は参加して構わないかを皆に尋ねた。仲間たちは一様に驚いて貞節について意見が交わされる。カスタリアが子供を産みたいと主張するとジェーンは「私たちは自分たちが人類を続けることを正当に理由付けられるかどうかを見出だそうと努めて来た」といって議題を当初のものに戻した。次々と報告が為された。感嘆の連続で、男性による文明化は誇らしいかぎりで、もはや女性が子供を産むべき理由として納得されるばかりだった。とはいえ、社会の統計に触れると様々な問題があって収拾が付かないから「男性自身と彼らの芸術」に論点が絞られことになる。良い男性は誠実で、情熱的で、俗離れしてなくてはならないと考えられるが、実際は女性に他愛ない話しかせず、ジルが「彼らは何をいわれても構わないくらい酷く私たちを軽蔑している」と断じるとエレノアも賛成して同じくらい優れた女性の芸術家が、サッフォー以来、いないためと述べる。さらにエリザベスは作家について伝えるが、現状の報告だけで、男性が良い本を書くかどうかは分からず、良い本とは何かの真実が問われた。されど定まらず、ジェーンが議論の取り纏めを要求すると外から戦争(1914年の第一次世界大戦)の声が上がった。ポルが歴史上の戦争を幾つも挙げるが、今、なぜ起きるかは分からなかった。戦争が終結した数年後、和平の調印の最中、私はカスタリアと昔の会議の部屋を訪れる。振り返ってカスタリアはポルの父親の遺言のせいで、本を読んだ自分たちは愚か者だった、女性は無学でこそ自分の産んだ子供が戦争で殺される恐怖心を持たずに済んだと捉えた。そして自分の娘にも何も読まないことを教えようとするが、男性の知性が女性のものよりも優れているかを問われると笑ってそれは男性の誤信であり、なぜそうなるかは女性が育てながら仕向けるからだと捉えて「それが知性だ」と訴える。男性は知性を磨いて家族全体を養うべき可哀想な存在だから自分たちの慰めには男性に子供を産ませる方法が欲しいと頼むが、私は無理だと断る。平和条約が結ばれて花火が打ち上がる夜、カスタリアが娘のアンが新聞で読み方を覚えるだろうというと私は信じるように教えられるのは「彼女自身」だけだという。気分転換になると溜め息を吐くカスタリアを余所にアンには未来の社会の会長に選んだというと泣き出された。 読書感想文を書くときのヒント 男性優位の世の中での女性心理差別が常識として通用する実情押し付けられる役回りとの葛藤どうにもならない悲しみと笑い人々の当たり前をずらす想像力 文学に触れるのは女性差別の状況での解放への人生の閃きや当たり前の事柄から離れる新しい世界の衝撃などがある。 アーネスト・ヘミングウェイの父さん 作者 アーネスト・ヘミングウェイ(1899〜1961) 国籍 アメリカ 作品 父さん(1923) 分野 現代/人間 長さ 短編(一万二千七百字程度) 父さんのあらすじ 僕(ジョー)の父さんは競馬の障害競走の騎手で、太り易い体質から、朝行う減量のトレーニングに一緒に良く付いて行った。ジョギングで競走したり、曲芸並みの縄跳びで驚かされたした。イタリアのミラノのサンシーロ競馬場では勝った後にレースで重要なのは他の競走馬とのペースだと教えてくれた、障害などのコースの難易度ではなく。僕は馬に熱狂するようになったけど、とにかくゲートから飛び出す期待感や颯爽と走って行く爽快感や最終コーナーを過ぎてからの大興奮はかつて決して知るものではなかった。ある日、イタリアを去ることになり、切欠は数人の男とのイザコザで、父さんは「最低野郎」なんていわれたりもした。なぜかは分からなかったものの新聞を読みながら人生には色んなことがあると教えてくれた。フランスのパリへ行った。ミラノと同じくらい大都市だけれども雑然とした印象があったにせよ、世界最高の競馬場を有するのが好きなところだった。僕たちはメゾン=ラフィット(イヴリーヌ県のコミューン/基礎自治体)で暮らしたが、生涯最上の場所で、湖や森へ友達と遊びに行った。父さんから教わったパチンコで鵲を取ったり、兎を追いかけたりした。フランス語も直ぐに覚えられた。父さんは朝五時半から始まる競走馬の調教騎乗を終えるとカフェで仲間たちと良くだらだら過ごしていた。二三時間、軽く飲みながら喋って早く寝ていた。父さんは騎手免許を取って幾つかレースに参加したけれども競走馬の契約は取れないようだった。僕たちはメゾン=ラフィットからドーヴィルやアンギャンやトランブレやサンクルーの競馬場へ出向いたけど、しかし思い出されるのはサンクルーでの大きなレースだった。大本命のザーは全く負ける気のしない素晴らしい競走馬だった。出走前に父さんは騎手のジョージ・ガードナーと会うと勝ち馬をキルカビンと聞いて大金を賭けた。彼はザーに乗るので、わざと負ける八百長を企てたのだ。レースではどう見ても負けるはずのない大本命のザーが途中まで期待通りの強力な走りを見せたものの最後の直線で追い上げるキルカビンに辛くも抜かれてニ着に終わった。僕は悔しかったけれども父さんは大金をせしめながらジョージ・ガードナーを「全く以て上等な騎手」と誉めた。自分こそ騎乗して彼を負かしてやりたくなったけれどもいつも好きだっただけにちゃんとして欲しかった。それから父さんとパリへ頻繁に通うようになり、カフェドラペで多く過ごした。様々な物売りが来て面白かった。心惹かれる少女も母親と共に現れて毎日のように探していたけれども気付くともう会えなくなるのが悲しかった。今日の勝ち馬を教えると声をかけたから予想屋と誤解されたのかも知れなかった。父さんはレースに出ないで、ウイスキーばかり飲むようになった。消えた彼女のことで、僕を揶揄ったり、可笑しい話を聞かせてくれた。エジプトや母さんの生前や戦時中のレース、祖国のアメリカのケンタッキー州での少年時代のアライグマ獲りなど。もっと賞金を得たら戻って僕を学校へ通わせようと夢を語った。ケンタッキー州は浮浪生活に変わったと聞いたから訝ると「違う」といわれた。父さんは、ある日、オートウィユで有力馬を買って馬主になると誇らしく、ギルフォードと名付けて自分で調教して騎乗するために減量のトレーニングも再開した。初回のレースは三着だったにせよ、所有場で走るのはそれまでとは全く異なる興奮があった。否が応にも期待感が高まる二回目のレース、僕は観覧席から父さんに買って貰ったばかりの双眼鏡を構えて追った。父さんとギルフォードは出だしから三番手に付けて順調に障害を跳び越えて行った。ところが観覧席の直ぐ前の大きな水壕障害を越えた馬群の中で衝突が起こり、三頭が山積みになる。ギルフォードが蹄鉄を垂らして三本脚で走り出した後から血塗れで仰向けに倒れる父さんが見えた。運び込まれた部屋で亡くなり、泣きながら馬場からはギルフォードが射殺される銃声(予後不良のため)も聞こえて止めて欲しかった。ジョージ・ガードナーがやって来ると僕を慰めた。救急車を待つために外へ出ると観客が父さんの八百長を噂していた。ジョージ・ガードナーは僕が聞いたことを確かめると聞くなと制して父さんを「唯一の上等な男」と誉めたが、彼には何も残されてないように思われた。 読書感想文を書くときのヒント 親子の本当に自然な結び付き日々のかけがえなのない幸福愛と悪の綯交ぜられた胸裡人生を正しく送ることの意義運命から崇高に受け取る神霊 文学に触れるのは人々が気持ちの深くから捉えられた迫真な様子や思うままにならない人生の厳しさと有り難みなどがある。 小説はあらすじだけの物語ではないので、実際に本文を読んで初めて分かる良さや面白さがあるのを忘れないで欲しい。 読書感想文に何を書くかは必ずしも内容を把握するだけではなくて自分に活かせる部分を掴むということも重要だろう。 読書感想文用の小説の難易度別の紹介 コメント 新しい投稿 前の投稿
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