中々の読書感想文用の小説集 結城永人 - 2022年8月17日 (水) 学校の課題などの読書感想文用に文字数が少なくて速く読める短編か中編小説から中くらいの難易度で主に中学生か高校生に向いたような作品を紹介すると共にそれぞれのあらすじと読書感想文を書くときのヒントを纏めた。 Saint Catherine of Alexandria reading by Onorio Marinari / Public domain エドナ・ファーバーの帰って来た男トマス・ベイリー・オールドリッチのマージョリー・ドーオリーヴ・シュライナーの夢の生活と現実の生活;小さなアフリカの物語F・スコット・フィッツジェラルドのベンジャミン・バトンという奇妙な症例ジェイムズ・ジョイスの痛ましい事件 どれも僕が和訳した英語の海外の小説集から選んでいて内容の読み取りが平易と思われる順番で並べている。 その他に中学生以下のための易しいものと高校生以上のための難しいものも用意している。 エドナ・ファーバーの帰って来た男 作者 エドナ・ファーバー(1885〜1968) 国籍 アメリカ 作品 帰って来た男(1912) 分野 現代/人間 長さ 短編(一万四百字程度) 帰って来た男のあらすじ デッド・テリルは銀行の出納副主任の仕事で、図らずも資金の移動に失敗して刑務所に暫く服役した後、町に帰って来た。元々、美男子でお洒落で会話も面白くて人気者だった。気不味いために亡くなった母親の墓参りを済ませて直ぐに出て行くつもりだった電車の中で、かねて知り合いだった実業家のジョー・ヘイリーと出会い、誰も知らないところへ行っても後から前科者と分かって気不味いのは変わらないし、自分の会社で、丁度、結婚して退社する予定のミニー・ウェンツェルの代わりに簿記係として働くように強く勧められて同意する。テッド・テリルは仕事の引き継ぎで、数ヵ月、ミニー・ウェンツェルと一緒に働いて指導を受けることになる。職場の食堂ではやはり知り合いだった給仕のバーディ・キャラハン、母親の生前に自宅で働いていた女性とも出会い、良く気に留めていた彼女が彼の日常生活の目付役を新たに自認した。日々、周りの人たちもテッド・テリルを見ながら更生するための自分との戦いを認めるほどに感心したし、ジョー・ヘイリーも目を細めていたが、ある日、会社の金が、300ドル、不足していることが発覚してミニー・ウェンツェルの情報から合わない帳簿を付けたテッド・テリルが泥棒の嫌疑をかけられることになる。身に覚えがないし、自分は二度も失敗しないと主張するものの証拠もなく、どうにもならないところで、バーディ・キャラハンがやって来て真犯人はミニー・ウェンツェルだと報告した。偶々、彼女のウェディングドレスの直しを頼まれた叔母さんがいたために雑談から不審な金の流れを掴むことができた。厳しく追求されるとミニー・ウェンツェルは裕福な婚約者と見栄えの良い結婚式を挙げるために一時的に借りるつもりで盗んでしまったことを白状した。ジョー・ヘイリーは納得して晴れてテッド・テリルの無実が示された。彼は感謝してお礼をしようとバーディ・キャラハンに声をかけるが、何れは結婚することになるのではないかと拒まれてしまう。 読書感想文を書くときのヒント 皆から前科者と扱われる状況好意を得られることの有り難み嘘偽りのない生き方の誠実さ已むなく犯罪を企てる心境何でも気にかけずにいない愛 文学に触れるのは自分の犯した罪を償って行く真率さや他人を自分のことのように捉える情深さなどがある。 トマス・ベイリー・オールドリッチのマージョリー・ドー 作者 トマス・ベイリー・オールドリッチ(1836〜1907) 国籍 アメリカ 作品 マージョリー・ドー(1869) 分野 現代/書簡 長さ 中編(一万八千字程度) マージョリー・ドーのあらすじ レモンの皮で滑って転んで脚を骨折したジョン・フレミングは無事に治療を終えて自宅での暫くの静養を行っていたが、精神的にとても落ち込んでいるのを見兼ねた友人の医師のトマス・ディロンが共通の友人の弁護士のエドワード・ディレイニーへ何とか励まして欲しいいと手紙で伝えた。するとエドワード・ディレイニーはジョン・フレミングへ自分が聞かされた事情から気晴らしの手紙を送ることを手紙で伝えて二人の手紙でのやり取りが始まる。彼は病気の父親の療養で海辺の農家の家に住んでいて近くに大邸宅があり、そのピアッツァ(家の外周の屋根付き回廊)で、朝夕、若い女性が現れてハンモックに揺られながら本を読んだりしているとても魅力的な様子を目にした。ジョン・フレミングが引き付けられて「あのハンモックの愛らしい少女についてもっと書いて下さい」というと元軍人で銀行家のリチャード・W・ドー氏と一緒に住んでいる娘のマージョリーと教えて近所の付き合いから親しくなり、友人の貴方も気に入るはずの素晴らしい人で、貴方のことを話すと引き付けられていると教える。ジョン・フレミングは訝って本人の写真をこっそり借りて送って欲しいと頼むけれどもエドワード・ディレイニーは軽窃盗の罪を犯せないと断り、木犀草の小枝を彼女からと送る。そして会ったこともない二人が惹かれ合うのは「天上の存在のカップル」だと不思議がり、他方、ジョン・フレミングはマージョリー・ドーについて知らされるほどに思いが増して行った。受け取った花のお礼などの手紙を送りたいし、会いたいと伝えるとエドワード・ディレイニーは互いに関わり合わないからこそ稀に見る良い仲だと逸らす。その後、ドー氏が海軍将校との縁談をマージョリーに持ちかけてマージョリーは不快感を示して何もかも話したせいか、自分は腹を立てたドー氏と付き合えなくなったし、マージョリーとも会えなくなったと伝えた。さらにトマス・ディロンへも自分のところへ来たがらないようにジョン・フレミングを諭して欲しいと頼むが、ジョン・フレミングはマージョリー・ドーが父親に自室に閉じ込められたから来ても会えないと電報で又止められても構わず、電車に乗ってエドワード・ディレイニーが住んでいる家を使用人と共に治りかけの脚を引き摺りながら訪ねた。しかし老人の父親しかいなくて残された手紙だけ読むことができた。気落ちを励ますために嘘吐いたことを悔いながらマージョリー・ドーは架空の人物だったと明かされた。 読書感想文を書くときのヒント 負傷した友人を励ます優しさ人を何よりも勇気付ける恋心気乗りすれば尽きない想像力この世で二度とないチャンス嘘も方便が虚しくも可笑しい 文学に触れるのは魅力的な女性を好き勝手に思い描く面白さや嘘でも惹かれる恋の危ない真実などがある。 オリーヴ・シュライナーの夢の生活と現実の生活;小さなアフリカの物語 作者 オリーヴ・シュライナー(1855〜1920) 国籍 南アフリカ 作品 夢の生活と現実の生活;小さなアフリカの物語(1893) 分野 現代/人間 長さ 短編(八千百字程度) 夢の生活と現実の生活;小さなアフリカの物語のあらすじ 南アフリカのカルー(南アフリカからナミビアにかけて広がる砂漠に近い地域)の茂みで泣いて倒れた少女、ヤニータはアンゴラ山羊の番をしながら美しい夢を見た。年季奉公の家で、親切にされたり、ボーア人(十七世紀から十九世紀にかけて南アフリカのケープタウンに移住したオランダ人)の父親が迎えに来る。その間、ホッテントット族(南アフリカからナミビアにかけて居住していたコイコイ人の蔑称)とブッシュマン(叢林の民族)とイギリス人が一匹のアンゴラ山羊を捕まえて殺して持ち去ってしまう。起きたヤニータは気付かず、帰るが、ボーア人がアンゴラ山羊の数を数えると、一匹、少ないことが発覚して、夕食抜きで、先程のホッテントット族から受け取った鞭で打たれることになる。月が出ており、一匹のスプリングボックがやって来ると大きな自由を感じてヤニータは逃げて行くその後を追って家を出て行った。足跡を残さないように川の浅瀬を行き、恐怖に襲われながら終いに疲れて眠るが、朝起きると岩に囲まれて幾つかの壷天狗が生えてケープハイラックスの巣がある見事な場所だと驚いた。ヤニータは壷天狗の根を切ってさらに保管しようと岩山の天辺に登ると良い部屋を見付けて自分の家にする。入口に多くの団扇仙人掌を刺して野生のアスパラガスを引っかけた。それから内側に紫の花を置いたり、柳の枝でベッドを作ったりした。ヤニータは美しい夢を又見る。父親に抱かれて野生のアスパラガスの冠を被り、人々は笑いかけて口付けし、花と食べ物をくれ、明るい日射しに包まれていた。眠って夜中に不意に目が覚めると火で木の枝が焼ける音がして覗くとブッシュマンが肉を焼いてイギリス人とホッテントット族もいてアンゴラ山羊を盗んだ三人組が又揃っていた。聞くとブッシュマンはオランダ人(ボーア人)に家族を焼き殺された復讐としてヤニータの主人の家を焼き払い、殺し、仲間に奪った財産を分け与えるつもりだった。ヤニータは自分の主人を助けようと年季奉公の家に走り戻って三人組の襲撃を伝えようとするが、一足、遅く、目の前の農家の母屋に蠢く三つの人影に立ち止まらざるを得なかった。主人と妻と娘がいたが、物音に気付いて用心していたものの……。後日、イギリス人は鉄道作業Ⅱ戻ると同僚から何かがあったと不審がられ、ブッシュマンは食堂でブランデーを飲みながらそれらしい命乞いの話をしてホッテントット族に止められた。月明かりが照らす岩山の部屋は空っぽで、ヤニータはいなかった。丸い石の下に何があるかは三人組しか知らなかった。 読書感想文を書くときのヒント 奴隷扱いされる余りの過酷さ人間にとっての自由の必要性命懸けで夢見る人生の至福血で血を洗う悲しみの連鎖善悪を凌駕する自然の大きさ 文学に触れるのは過酷な現実から逃れて行く命の輝きや不幸の中で夢と希望を持つという魂の救済などがある。 F・スコット・フィッツジェラルドのベンジャミン・バトンという奇妙な症例 作者 F・スコット・フィッツジェラルド(1896〜1940) 国籍 アメリカ 作品 ベンジャミン・バトンという奇妙な症例(1891) 分野 現代/人間 長さ 中編(二万三千字程度) ベンジャミン・バトンという奇妙な症例のあらすじ ボルティモアで金物卸売業を営むロジャー・バトンに待望の赤ちゃんが生まれた。しかし1860年の当時は未だ珍しかった病院での出産により、自宅を出て会いに行くと医者や看護師から怪訝な対応を受けることになる。幾つかの悶着の末、漸く赤ちゃんの病室へ辿り着くとそこにいると一人の老人、ベビーベッドから脚もはみ出す七十歳の〈赤ん坊〉だった。ロジャー・バトンは偽物だと承服しなかったが、どうにもならず、彼を自宅に連れて行って養育せざるを得ない。ベンジャミンと名付けて普通に扱おうとするも百科事典を読んだり、葉巻を吸ったりして老人と変わらず、周りからも奇異な目で見られた。ロジャー・バトンは彼の髭を切ったり、髪染めたりさせたものの完全には隠し切れなかった。見た目が近い祖父と気が合って誰よりも仲良しになるベンジャミンだったが、年を取るほどに自分が若返ることに気付いて驚く。十八歳のとき、真っ直ぐ立てるようになり、声も安定して五十代の人のようで、ロジャー・バトンが望んでいた母校のイェール大学に入学した。しかし学籍担当事務官から父親と見做されて理解されず、「危ない変人」として拒絶されと他の学生たちからも罵倒されて追い返されてしまう騒動となる。二十歳で父親と意気投合して社交界へデビューすると若いヒルデガード・モンクリーフに初恋を感じる。彼女の年上好きもあり、見た目が五十歳のベンジャミンは婚約したが、世間は余りの年の差をスキャンダルと捉えて新聞でも化物扱いされる始末だった。しかし二人は離れず、父親と共に働いた金物卸売業でベンジャミンは大成功を収めて世間も歓迎するのだった。十五年、過ぎると自分はさらに若返って精力が溢れる一方で、衰えて行く妻への魅力を失い、1898年に勃発した米西戦争へ参加すると勲章を得るほどの活躍により、軍への隊列生活に愛着を抱くようになるが、事業のために家に戻った。妻への魅力を失う中で、世間も以前とは反対に若く見える彼こそ余りの年の差と哀れむように変わる。二十五年、働いて息子のロスコーに金物卸売業を任せる頃には二十歳の容貌で、ハーヴァード大学へ入学する。取り分けフットボールで活躍してかつて追放されたイェール大学との試合で大きな名を馳せた。年々、体力や学力が厳しくなりつつも卒業すると息子のロスコーと暮らした。ベンジャミンの若過ぎる見た目から生まれた当初の父親との間にあったような不和が息子との間に又生じた。逆に眼鏡をかけたり、付け髭で貫禄を出すように勧められるが、少年らしく泣いて拒むばかりだった。戦争が又起こり、以前の従軍経験から高位で呼び戻されたときは出向いたものの子供扱いされて送り返される他はなかった。1920年にロスコーの息子が初めて生まれたが、祖父のベンジャミンは十歳くらいに見えて鉛の兵隊やミニチュアサーカスで子供らしく遊んでていた。五年後、彼は孫と同じくらいに見えて一緒に幼稚園に入った。それから成長して孫は小学校へ行ったけれとも祖父のベンジャミンは周りの物事が分からなくなり、出されて看護師のナナと過ごすようになる。日増しに話す言葉も辿々しく、記憶の数々も失われて行った。最後は食事のミルクの感触、またはベビーベッドとナナの親しい存在も定かではなくなり、全てが闇の中に消えた。 読書感想文を書くときのヒント 外見と中身の食い違いの驚き周りから怪訝に思われる生活社会に受け入れられる幸運さ気持ちなどが深く見直される人生の繰り返されない貴重さ 文学に触れるのは人々の地があからさまに出るような真実味や個人と社会の和合から疎外までの幾多の関係性などがある。 ジェイムズ・ジョイスの痛ましい事件 作者 ジェイムズ・ジョイス(1882〜1941) 国籍 アイルランド 作品 痛ましい事件(1914) 分野 現代/人間 長さ 短編(八千字程度) 痛ましい事件のあらすじ ダブリンの郊外、チャペリゾットに暮らすジェイムズ・ダフィーは人付き合いが少ないが、必ずしも人嫌いというわけではなく、一人の時間を大事にするように都会の喧騒から離れて暮らしていた。私立銀行の出納係で、午後四時に仕事が終わると一人で安い料理屋で食事をしてから家主のピアノを聴くか散歩するか、時々、好みのモーツァルトの歌劇か演奏会へ出かけた。いつも通りの生活の中で、ジェイムズ・ダフィーはロタンダ(ダブリンの音楽堂)で、偶々、二人連れの女性と出会い、親子だったが、年上の方の母親のシニコ夫人に惹かれ始めた。堂々として知性的な印象の女性で、三度目に会ったとき、彼が思い切って二人きりで会う約束を交わすと果たして彼女と懇意の間柄となる。しかしジェイムズ・ダフィーは「人目を忍ぶ仕方」を嫌悪してシニコ夫人の家に招待して欲しいと頼んだ。行くと何も知らない夫は娘が目当てと勘違いして喜んだり、誰もいなくなると彼女と二人だけの時間を楽しんだ。彼は彼女に本を貸して考えを共にして受け入れられてもはやそれまでにない自分好みの他人との繋がりを得た。親密さを増すほどに彼は彼女の目の中で自分が「天使並みの力量」へ向上すると思ったが、ある夜、彼女が彼の手を自分の頬に情熱的に押し当てると全てが終わりを迎える。ジェイムズ・ダフィーはシニコ夫人のそうした反応に幻滅――肉体関係を望まない自分――を感じた。暫く会わなかった後、彼女に手紙を送って再会して別れを告げることにした。このとき、大変なショックを受けたように震え出した彼女だったが、彼はさよならをいうとそそくさと離れて行くだけだった。ジェイムズ・ダフィーはシニコ夫人と会わないように演奏会も避けたまま、四年が過ぎたある宵、新聞で彼女が列車事故で死んだことを知る。愕然としながら【痛ましい事件】と小見出しの付けられた記事を信じられない思いで何度も読み返すのだった。夫や娘の証言により、彼女は約ニ年前から酒浸りの生活に移ってしまい、家族は立て直そうと努めていたことが分かった。列車事故はそうした彼女が習慣的に強い酒を買いに行く途中で起きたのかも知れない。シニコ夫人の死に対して、当初、腹を立てたジェイムズ・ダフィーは自分が良く伝えていた神聖さを酒浸りの習慣という俗悪な仕方で、しかもまさか「魂の仲間」からすっかり蔑ろにされたと思ったせいで、別れたのは正解だったとさえも認めた。とはいえ、パブで一人で飲みながら周りを見渡して過ごしていると四年前の付き合いが思い出されると共に彼女が記憶でしかなくなったことを痛感する。そして自分も同じように誰かの記憶でしかなくなるまでの孤独を味わい、さらに彼女との別れを問い詰めるに連れて「道義的な本性」を失う。彼女を死へ追いやった今、自分も誰からも望まれないと悟る。ダブリンへ流れる川の向こうを進んで行く貨物列車を見ながら最後は耳に届くだけの音に彼女の名前を聞き付ける。ジェイムズ・ダフィーは引き返した道で記憶も怪しくなり、もう一度、彼女の声を聞こうとするものの何も聞こえなくなったまま、完璧に静かな夜に一人ぼっちになっていた。 読書感想文を書くときのヒント 日常を一変させる出会いの衝撃稀に見る人との繋がりの充足感幸せに潜む予想だにしない別れ生きた心地がしないほどの失望心の底から余儀なくされる孤独 文学に触れるのは人が生きる意味を感じさせる言動やどうにも動かせない事実の重みなどがある。 小説はあらすじだけの物語ではないので、実際に本文を読んで初めて分かる良さや面白さがあるのを忘れないで欲しい。 読書感想文に何を書くかは必ずしも内容を把握するだけではなくて自分に活かせる部分を掴むということも重要だろう。 読書感想文用の小説の難易度別の紹介 コメント 新しい投稿 前の投稿
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