柄谷行人の交換様式の理論と人類の凄まじく輝かしい未来 結城永人 -2023年11月9日 先日、柄谷行人の2022年のバーグルエン哲学・文化賞の受賞を知って久し振りに彼の思考に触れる機会を得た。受賞の大きな切欠になった一つが交換様式という思考で、僕が柄谷行人の本を愛読していた1970年から1980年くらいまでのものには出て来てなかった。最初に出て来たのは世界史の構造(2010)らしくて比較的に新しい。それが近著の力と交換様式(2023)で主題として取り上げられて体系的に詳しく纏められて理論化されたんだ。数ヵ月後の12月にバーグルエン哲学・文化賞の受賞に繋がることになる。 柄谷行人の交換様式とは何か 柄谷行人:只用暴力是生不出權力的,交換模式 A - D|01 哲学 柄谷行人の交換様式について調べると経済学者のカール・マルクスの批評から着想されていた。僕は初めて聞いたけれどもカール・マルクスの批評は昔から、全然、変わらないので、今でも追求していることを懐かしいと共に凄いと感心した。交換様式もマルクス経済学の概念の一つなので、昔の著作などに出て来たかも知れないけれども批評のテーマになるほどの目立った扱いは受けてなかった。カール・マルクスに汲み尽くせない魅力があることは柄谷行人の最高傑作ともいえるマルクス その可能性の中心(1978)から分かっていたので、近年では交換様式に新しく注目して、四十年以上、取り組み続けていることは本気度が本当に高いと驚く他はない。 交換様式の生産を包括的に捉える意義 柄谷行人の交換様式はカール・マルクスの社会構造論、人間の法律や政治などの社会的な意識を上部構造としてそれを生産関係の総体としての経済が下部構造として現実的に支えるという見方を根底的に捉え直したもので、生産様式だけでは説明できないところ、宗教などの人間の精神の営みが経済を動かしたり、変えることもあり得るのではないかという疑問も包括的に解消できるようにしている。 これはカール・マルクスの生産をどう読むかという問題で、柄谷行人は交換なしに不可能という感じで、彼の生産は交換に基づくか少なくとも同じくらい決定的な役割を担わなければ社会構造論の概念として成り立たないみたいに読んだわけだ。生産だけならば一人でも可能だし、自分で生産物を消費してしまえばもはや他人との社会形成に至らなくても構わなくなるから非常に納得できるけど、しかし従来のマルクス主義や経済学では文字通りの生産ばかり重視されていたためにその他が考えられることはなかった。 柄谷行人の交換様式は生産の新しい概念を生み出すもの――社会と切り離せない生産とは何か――であってABCDの四つのタイプに分類されてそれぞれが一定の社会構成体を示しているとされる。 交換様式の四つのタイプ ネーション/民族互酬(贈与と返礼)家族主体の人間関係因習に基づく未開社会など国家服従と保護(略取と再分配)政府主体の人間関係信頼に基づく封建社会など経済商品交換(貨幣と商品)市場主体の人間関係同意に基づく資本社会などX/様々な形Aの高次元での回復アソシエーション/連合主体の人間関係自発に基づく到来社会など どれも社会形態(社会そのものの有り様)ではなく、個々の社会の歴史的な分類でもない。四つのタイプはどんな社会にも含まれ得る要素であってそれぞれの割合によって性質が異なるものと捉えられる。 AからDまでの度合いの強さが、大体、人類の発展に対応しているけど、ただし最後のDだけはまだ来てないかも知れない。今の日本を含めて資本主義経済による人々の自由平等な生活を目指す社会が終わったという例がないので、歴史上、その先にあるものとしては誰にも分からない。もう来たものとして可能性が高かった例としてはキリスト教が求めた普遍宗教の社会が考えられる。 Dによる社会がいつ到来するともしれないまま、世界は危機の中にある。柄谷さんは、Dの一つの表現として、マルクス主義思想家エルンスト・ブロッホの〈希望〉という概念を挙げている。それは、資本と国家を揚棄する可能性を指すもので、「中断され、おしとどめられている未来の道」の回帰だという。 「これは本来キリスト教の観念だと思う。だけど、彼はそれをキリスト教としては言わない。しかし、それではよくわからない。私が考えたのは、それを交換様式の観点から説明することです」 柄谷さんの考えでは、「未来の道」はブロッホのいう「未だ-意識されないもの」がもたらすものだ。こうしたDの可能性は、原始キリスト教や初期の仏教、あるいは共産主義の構想などとして、抑圧されても繰り返し歴史のなかでよみがえってきた。 柄谷行人さん『力と交換様式』インタビュー 絶望の先にある「希望」|じんぶん堂|朝日新聞社 柄谷行人は交換様式Dの実例として人々の「原始キリスト教や初期の仏教」を挙げている。他では「普遍宗教」といわれていてそれが交換様式Aの互酬を高次元で回復させるものとしてあったと考えている。 交換様式Aの高次元での回復という社会 柄谷行人の交換様式で、一番、難しいのが交換様式Dだと思う。つまり交換様式Aの高次元での回復といわれるものだ。家族などの少人数の恩義的な繋がり、一言で絆の間柄に由来する社会を恩義的な繋がりではないものに変えるということなんだ。これは繋がりではない繋がりという矛盾的な表現を取らざるを得ないから分からなくなる。 注意しなくては行けないのは繋がりを残したまま、恩義的でなければ交換様式Dと理解して良いわけではない。 交換様式Dを恩義的でない繋がりというと交換様式Bや交換様式Cも含まれてしまって精確ではないし、柄谷行人もそのように混ぜ合わせて考えているわけではない。 マルクスの言葉でいうと共産主義社会というのは最初の、いったAね、氏族社会の高次元の回復だといってる。高い次元での回復です。これは単なる回復だとナショナリズムになります。共同体の回復だから。だから高次元の回復ということは否定でやんないと行けないんです。共同体を回復するんですけど、今、ある共同体は否定するんです。だからそれを高い次元での回復というわけですね。 柄谷行人/柄谷行人:只用暴力是生不出權力的,交換模式 A - D|01 哲学 交換様式Dを恩義的な繋がりないものと交換様式Aを否定して捉えると繋がり自体がないからもはや社会ではないといえる。しかしそこで交換様式Aの恩義的な繋がりを受け取ることが正に社会の形成と一体化した交換様式Dの在り方と理解できる。 それ自体は恩義的でもいつも新しい繋がりであって今まで見たことも聞いたこともない社会を生み出している。 近年の具現化として日本の都会人の田舎への移住が挙げられる。今まで農業を知らない人が未経験の野山で始める。すると地元でも気付かなかった新しい経験が得られたり、驚きの生活に変わる。人々は互いに感謝し合うとしても以前と全く異なる。もはや交換様式Aのようでもそうとは呼べない交換換様式Dの社会が実感される。 柄谷行人の交換様式Dの実現 柄谷行人の力と交換様式(岩波書店) 柄谷行人の交換様式で最も重要なのはDで、言葉として理解するだけでも難しいけど、とにかくAを否定してBやCへ行かないことが肝心なんだ。 気持ちとしては因習や権力や契約の支配から逃れて希望へ向かうというわけで、そこから嬉しくて全て忘れてネーションや国家や経済へ逆戻りせず、X/様々な形を試行することが良いと思う。 柄谷行人は交換様式Dをカール・マルクスの共産主義という概念から得ている。 これもどう読むかが新しくて従来のマルクス主義的な共産主義の認識とは一線を画している。今まで最も有名なのはもう崩壊したけれどもロシア革命からソビエト連邦を打ち建てたウラジーミル・レーニンが解釈したもの、すなわちマルクス・レーニン主義やそれに影響を受けた現在の中国政府の中国共産党が依拠する毛沢東が解釈したもの、すなわち毛沢東思想がある。柄谷行人は以前から従来のマルクス主義的な共産主義はマルクスの実際の思想ではないと主張していたけど、もはや交換様式の見方からマルクス的な共産主義は交換様式Dだけであってそれ以外の従来のものはマルクス・レーニン主義にしても毛沢東思想にしても国家を想定するものだから交換様式Bだと分かり易く退けるに至った。 僕が柄谷行人が良いと思うのもカール・マルクスの捉え方の共産主義の素晴らしさを措いて挙げられない。 実際、カール・マルクスの本を読んて比べてみても解釈として正しいのは柄谷行人であってどんなに有名でも歴史を動かしたとしても従来の見方にはないし、それらはおよそ間違った解釈か自分の思想の代弁として利用しているように受け取る。 階級と階級対立とをもつ旧ブルジョア社会の代りに、一つの協力体があらわれる。ここでは、ひとりひとりの自由な発展が、すべての人々の自由な発展にとっての条件である。 マルクス エンゲルスの共産党宣言(大内兵衛・向坂逸郎訳) カール・マルクスが思想家のフリードリヒ・エンゲルスと共に考えていた共産主義のエッセンスは「ひとりひとりの自由な発展が、すべての人々の自由な発展にとっての条件」ということに尽きる。 国家にかぎらず、それに入り込むものは何もない。要するに「ひとりひとり」と「すべての人々」は一体化されていて緊密な社会を形成しているという見方があるんだ。どんなものかは「自由な発展」であって何かに邪魔する余地が残されているのではない。むしろ国家、またはネーションでも経済でも止めることのできない皆の原動力みたいなものとして共産主義が唱えられている。 アソシエーションによる輝かしい未来 カール・マルクスは共産主義への道筋を革命と呼んだけれども柄谷行人の言葉遣いに置き換えると交換様式Dへの道筋はアソシエーションと呼ばれている。 カール・マルクスの革命というとウラジーミル・レーニンや毛沢東によってソビエト連邦や中華人民共和国の建国に繋がって行ったわけだけど、しかし従来のマルクス主義とは違うかぎり、少なくとも柄谷行人のアソシエーションについては国家と結び付けるのは完全に間違っていることになる。 アソシエーショニズムは私の創案ではなく、古くからある考えだ。私に独自な点があるとしたら、「資本と国家への対抗運動」を二つに分けて見たことだ。つまり、一つは「内在的」な対抗運動、もう一つが「超出的」対抗運動である。前者は、労働組合や政党政治による活動などである。後者は、資本と国家に依拠せず、生産と消費を自ら創出することである。たとえば、生活協同組合のように。 柄谷行人/思想家・柄谷行人が、コロナ禍で揺れる世界に語る、新たなる社会変革の可能性|じんぶん堂|朝日新聞社 柄谷行人のアソシエーションは交換様式Dの社会を目指すもので、資本と国家への対抗運動として二つの方面がある。 アソシエーションの二つの方面 内在的なアソシエーション資本と国家に内在する対抗運動労働組合政党政治街頭デモ超出的なアソシエーション自然発生的に超出する対抗運動生活協同組合新たな共同体好みの集まり 今のままでは不味いと感じて何かすることがアソシエーションで、泣き寝入りしないこと、少なくとも資本や国家に従属しないことが交換様式Dの社会に実現に繋がる。 マルクスの思考で捉え返したらそれが逆に共産主義による革命の真の姿に他ならないといって良いのではないか。 従来の見方では内在的なアソシエーションしかなくてマルクス・レーニン主義でも毛沢東思想でも旧体制を打倒した大々的な革命があったけど、しかしそれがマルクスの共産主義の全てかについては怪しくて狙いは交換様式Bという国家を想定するものに止まってしまっている。 もう一つの超出的なアソシエーションを踏まえることによって交換様式Dを損なわない仕方で、初めてマルクスの共産主義と革命も十分に把握できるし、一人と全員が素晴らしく結託するような社会が達成できるようになるに違いない。 柄谷行人の交換様式Dとアソシエーションはカール・マルクスの思想を的確に捉えたはずで、ひょっとしたら本人以上に表現できた良さもあって本当に素晴らしいと感じるし、社会が良くなる希望を想像できないくらい与えてくれるから面白い。 参考サイト柄谷行人:哲學是普遍思考柄谷行人:現在的世界,其實正在重複120年前發生過的事情『柄谷行人『力と交換様式』を読む』(柄谷 行人ほか)オードリー・タン…影響を受けた柄谷行人の「交換モデルX」今を生き抜くために、アソシエーションを コメント 新しい投稿 前の投稿
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