英語の小説、ジェイムズ・ジョイスの痛ましい事件の日本語訳で気になった英文法に熟語のill at easeの矛盾しない意味があった。
illの否定的な副詞の用法
He began to feel ill at ease.
居たたまれなくなり始めた。
面食らうのは意味として相反する二つの言葉が「feel」の補語として並んでいる。「ill」と「at ease」、つまり「悪い/酷い/病んだ」と「落ち着いた/居心地が良い/気楽な」という。矛盾した印象を与える。
しかも意味を正確に捉えようとすると文法的に「ill」には形容詞だけではなく、名詞や副詞の用法もあって文章を解き解すほどにどこにどうかかっているのかが良く分からなくなってしまう。
非常に厄介な表現だけれども調べて何とか二つ合わせた「ill at ease」が一つの熟語として使われていて「心配」や「不安」などの意味があって矛盾しないと分かった。
どうしてそうなるかは「ill」が否定的な副詞の用法で「at ease」の意味を打ち消しているだけだった。珍しいかも知れないけど、つまり「ill at ease」の「ill」は「悪い/酷い/病んだ」のような意味は少なくとも直接的には持たない。
辞書では「hardly」(殆ど~ない)という意味が載っていて「ill」には否定的な副詞の用法がある。なので熟語の「ill at ease」では「at ease」にかかって「落ち着いた/居心地が良い/気楽な」の意味を部分的に打ち消しているんだ。
否定そのものではない準否定について
英語には否定そのものの「not」(~ない:副詞として名詞以外を否定)や「no」(~ない:形容詞として名詞を否定)の他に肯定文で否定的な意味を持たせる準否定がある。
- 程度の準否定の副詞:殆ど~ない
- hardly(普段)
- scarcely(丁寧)
- little / less / least(全般)
不定冠詞のaを添えたlittleは肯定的な意味:少しは~あるになる。
一部の動詞(knowやthinkなど)に対しては全否定の意味:全く〜ないになる。
- 頻度の準否定の副詞:滅多に~ない
- rarely(普段)
- seldom(丁寧)
- hardly ever(普段)
- scarcely ever(丁寧)
- little / less / least(全般)
不定冠詞のaを添えたlittleは肯定的な意味:少しは~あるになる。
一部の動詞(knowやthinkなど)に対しては全否定の意味:全く〜ないになる。
- 数量の準否定の形容詞:余り~ない
- few / fewer / fewest(可算名詞を修飾)
- little / less / least(不可算名詞を修飾)
※否定文になる「not」や「no」とは二重否定(~でないのではない)を除いて一緒に使わない。
※文中の数量詞や同様の接頭辞は「any」を使って「some」を使わない。
何れも日本語に訳す場合は準否定か意味合いが近ければ否定そのものと同じようにする。
I could ill meet anyone in the shop.
私はその店で誰とも会えなかった。
副詞の否定的な意味の「ill」は「hardly」と似た感じなので、一般的に肯定文で準否定として使われる言葉になる。
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