富野由悠季がガンダムで行った素晴らしい戦争批判 結城永人 -2024年10月7日 アニメのガンダム(正式名称:機動戦士ガンダム)は1980年代にガンプラ(ガンダムのプラモデル)で大ブームを起こした人気作で、その後も長らくシリーズ化されて今でも良く知られていると思う。 第1話|機動戦士ガンダム【ガンチャン】 僕も良く観ていたし、ガンプラも、山程、作ったものだった。店に入荷されれば即完売という状態が何ヵ月も続いたんだ。欲しくない種類でも買えるだけでラッキーという凄まじい争奪戦が行われていた。 作品内容はモビルスーツと呼ばる人型ロボットの兵器を駆使した戦争物で、それまで一世を風靡したマジンガーZに代表される巨大ロボットが登場する勧善懲悪の空想物の昔話のような明快さを持つ作品と比べて小説のような複雑さを持つところが新しく、アニメとしてリアルロボットの草分けとも見做されている。 巷のガンダムのファンやアニメの評論家がそうしたことをガンダムの特徴として挙げるけれども、先日、驚いたのは作者の富野由悠季(アニメ監督/作家)が本当に戦争について本気で考えてガンダムをやっていたことが分かった。 近年、ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナという大きな戦争が二つ起きたり、中国の台湾侵攻の危機が叫ばれる世界情勢の中で重要な示唆を与えると思うので、富野由悠季がガンダムに込めた戦争批判と呼ぶべき本気の考えを取り上げてみたい。 ガンダムの戦争描写で最も重視された兵站 戦争物を作るときに戦闘シーンだけで戦争物が作れるわけがない。一番、映画の中で抜け落ちていたのは兵站の問題です。兵站というのは補給です。つまり前線部隊に対してどのように物資が補給されなければ行けないか。それで物資が補給されないかぎり、戦場というものは成立しないんだ。そして二十歳までに知っている昭和日本軍の、これは陸海軍共にです、兵站のことを何一つ考えてない馬鹿がやった戦争なんです。それで陸軍に関していうと基本的に現地調達です。現地調達っていうことはどういうことかっていうと略奪ですよね。で、海軍はそれさえ考えてない人たちの集まりだった。何を考えていたか。要するにオタク、つまりマシーンオタクの集まりだ、船オタクの集まりだ、船に乗ってれば気が済む、航空母艦を動かしてれば気が済むという連中で、彼らは戦争のことは考えていませんでした。考えていればあんな馬鹿な戦争はやりませんでした。 富野由悠季/『ガンダム』富野由悠季監督が第二次大戦下の軍上層部の無能ぶりを斬る/映画『日本のいちばん長い夏』半藤一利(原作)×富野由悠季トークショー2|moviecollectionjp 本当に素晴らしい認識で、第二次世界大戦で日本がアメリカなどに大惨敗した起因として現場の苦境を見事にいい当てていると思う。 僕がブログで取り上げた中ではインドでのインパール作戦が「兵站の問題」を象徴的に示していた。敵軍よりも餓死と病死によって何万人もの大きな兵力を失って昨今では史上最悪の作戦とも呼ばれる「馬鹿」をやったのが日本軍だった。 こうした愚策によって追い詰められた結果として万歳突撃や神風特攻のような自殺行為そのもののさらに悲惨な作戦が取られることにも繋がる。 海軍の「オタク」というのも巨大戦艦の武蔵のあっという間の沈没から良く分かることだった。何よりも敵の巨大戦艦との激突を想定したけれども現実は大量の戦闘機の襲撃に対応できなかったという海軍の予見性のなさが露呈した。世界最高の巨大戦艦への自惚れによって戦況が読めなかったのではないか。武器を持つだけで満足し切ってどう使えるかを同じくらい考えてなかった海軍のようだ。 僕が考えて来た日本軍の戦争批判と重なる部分が多くてもしかしたらガンダムに込められた富野由悠季の認識に影響されていたとも感じて本当に驚かされると共に心から共感できる。 戦争の兵站の問題を強く印象付けたモビルスーツの旧式ザク ザクI|昼MS【ガンチャン】|ガンダムチャンネル 僕がガンダムを観たのは何十年も前で、何回も観たとはいえ、内容は殆ど忘れているけれどもまだ残る断片的な記憶で、はっきり覚えているものの一つに旧式ザクというモビルスーツが補給に励む場面があった。 当時から何でこんなにインパクトがあるのかと疑問を感じていた。派手な戦闘とは真逆の地味な補給が主な任務で、補足的な数少ない場面として珍しいから記憶に残り易かったのかも知れない。面白いといえば面白いし、ガンプラの種類が一つ増えたという点でも嬉しかった。しかし作品にわざわざ描く必要はないものだとも訝らざるを得なかった。 富野由悠季の戦争批判を知ると兵站の問題が重視されたから旧式ザクの補給に励む場面が余計なものではないどころか大事なものでさえあったことがついに納得できた。 兵站(へいたん、英語: Military Logistics)は、軍事学上、戦闘地帯から見て後方の軍の諸活動・機関・諸施設を総称したもの。戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また、実施する活動を指す用語でもあり、例えば兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。 兵站という漢語の字義は「軍の中継点」である。世界中で広範に使用される英語表記のロジスティクス(logistics)は、ギリシア語で「計算を基礎にした活動」ないしは「計算の熟練者」を意味する「logistikos」、またはラテン語で「古代ローマ軍あるいは東ローマの行政官・管理者」を意味する「logisticus」に由来する。 詳細 狭義としては、戦闘支援(戦闘実施時に部隊の作戦行動を支援すること、英: Combat Support)と後方支援(作戦行動を行う部隊の軍事的な機能を保持させる、英: Combat Service Support)に分けられるが、これらに比べて兵站はより広い範囲を指示する概念である。 本来、軍事学における用語だが、転じて経営学においても用いられる。この場合の用語はロジスティクスを参照のこと。 兵站|ウィキペディア 近年、日本で自民党による憲法改正の動きがあって第二次世界大戦で日本の同盟国だったドイツやイタリアのような全体主義の傾向を強めるものとしてれいわ新選組の山本太郎の反対に賛同するけど、さらに国防の観点からも武力に注目して食料や資源の自給率が、全然、上がらない日本の政治は吉幾三が飛行機で見かけて横着と腹を立てた議員の在り方と符合する愚かさを正しく示しているといわざるを得ない。 戦争や国防を補給なしに捉えることは致命的なミスなんだ 富野由悠季は第二次世界大戦の日本軍の敗退を良く考えて兵站と呼ばれる補給全体を重視するようになった。本当に正しいというか、組織体としては大本営などの上層部が分からないことが根本的に不味いわけだけど、とにかく戦地で目に見えて役立つ武器だけあれば良いと短絡しないことが求められる。さもないと引き延ばされただけで弱るわけだし、直ぐに倒せは大丈夫だと核兵器を持ちたがるなどの余りに情けない見方(どうやって敵よりも早く攻めるつもりだろう。また、後から攻められないように敵を全滅させられるかも確実視できない)も出て来兼ねない。 富野由悠季の戦争批判は平和論と切り離せない つまり怪我をしない戦闘なんてないわけだし、アクションなんてないのに怪我をしないで済むと思わせる方が、余程、酷いんじゃないですか。で、その部分に関しては嘘を吐かない。で、それだけを伝えたかったといえば、伝えたかったことです。そしてそれは大人に知らせるよりは子供に知らせておく方が恐らくです、記憶として残ると思う。もっといっちゃうと、僕に、一番、力がないと自覚するのはどういうことかというと現実的な、現実的な世間に対して教訓とか打撃になるようなところまで評価されてないっていうのは無念だっていうことです。これ、オフレコにして良いです。改憲論者が平気で出るっていうことに対して阻止できなかった自分っていうのは辛い――。 富野由悠季/まるごと!機動戦士ガンダム|BSアニメ夜話|NHK 富野由悠季がガンダムで伝えたかったことは戦争の悲惨さであってそのことについても旧来の空想物に近付かないように努めた。 人物が死んで行く場面が数多く描かれていて物語の端役から中心人物まで様々な悲しみが味わわれる。子供向けだからぼかすようなことは避けて「嘘を吐かない」気持ちで取り組んでいたわけだった。 個人的にいえはガンダムはモビルスーツが主役だから人間模様は二の次という感じで、比較的に印象が薄かったために誰かどのように死んでも拒絶反応を起こすことはなかったと記憶している。 または柔らかみのある親しみ易い絵柄によって死に纏わる不吉な場面でも不快感を与えられることは皆無に等しかったせいも大きいだろう。 軍拡路線の改憲論を許さない気持ちはとても共感できる ガンダム|ガンダムインフォ 富野由悠季が作家として興味深いのは世間一般への認知度を高めたいという思いがある。ファンだけではなく、その他の全ての人に知って貰いかった。加えてアニメが見下される時代にガンダムを出したわけで、大したことはやってないと軽視する世間の目を突破したいという意気込みもあったんだ。そこで本人は本気で戦争批判を行っても真面目に取り合って貰えないみたく嘆いてもいた。 しかし自民党の自衛隊を止めて国防軍にするなどの軍拡路線の改憲論(海外派遣や先制攻撃や徴兵制度を想定できるもの)はガンダムよりも二つか三つ前の世代から来ているようだし、ど真ん中のガンダム世代が同じかどうかはこれから分かって来ることではないかと思う。 僕は富野由悠季の戦争批判は良いと思うし、軍拡路線の改憲論に乗り気では決してない。国際情勢を踏まえて一頃は口に出しただけで叩かれたはずの核保有もちらほら強みを増しているし、すると軍拡路線から外れて平和論を唱えることも難しい状況に追いやられずにいないわけだ。 とはいえ、国力は決して武力だけではないことを踏まえれば国防も そこから考えるべきかどうかは怪しいし、スイスのような中立国とか色んな可能性はあるので、簡単に諦める必要はないというか、今の自民党の改憲論にかぎらず、あらゆる軍拡路線に対して警戒心を手放すことは控えたい。 日本はガンダム世代を政府や会社や団体の要職に増やして行く状況に差しかかったところだ。どうなって行くかが本当に楽しみだし、富野由悠季が込めた戦争批判の真価が問われるのは正しくこれからだろう。嘆くのは早かったと笑える日が末永く続くことを期待して止まない。 参考サイト「トミノが叫んだ」 アニメ監督・富野由悠季インタビュー コメント 新しい投稿 前の投稿
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