アガサ・クリスティの誘拐された総理大臣の日本語訳 結城永人 - 2022年6月26日 (日) 十九から二十世紀のイギリスの作家、小説家のアガサ・クリスティの小説の誘拐された総理大臣(1923)の日本語訳を行った。一つの文学作品として人間の洞察力に富んだ優れた内容を持つだけではなく、表現も意義深いから外国語の英語の聞き取りと読み取りの教材としても最適だと感じる。 アガサ・クリスティの誘拐された総理大臣の英語の出典 Agatha Christie by Xavier / CC BY-ND The Kidnapped Prime Minister by Agatha Christie/アガサ・クリスティの誘拐された総理大臣原文:The Project Gutenberg(作品集)朗読:Internet Archive(デヴィッド・スーシェ) 原文の方はパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。 関連ページアガサ・クリスティの誘拐された総理大臣の原文と注解 アガサ・クリスティの誘拐された総理大臣の日本語の訳文 The Eastern Docks in the Port of Dover by DeFacto / CC BY-SA 戦争とその問題が過去のものとなった今、私は進んで安全に友人ポワロが国難の時に演じた役割を世界に明らかにすることに当たれると思う。秘密は良く守られて来た。囁き一つ報道陣には届かなかった。しかし秘密の必要性が過ぎ去った今、私はイギリスがそれは変わり者の小柄な友人、大惨事を巧みに防ぐほどの信じられない頭脳の持ち主のお陰だと知るに違いないのはもう直ぐそこだと感じる。 夕食後のある夜――日時は詳しく述べない;「交渉による和平」がイギリスの敵のスローガンだった頃といえば充分だ――友人と私は彼の部屋に座っていた。病弱者として軍から免役された後、募兵職を与えられてポワロのところに夕食後に立ち寄るのが習慣になっており、彼が抱えるかも知れないどんな気になる事件についても話したのだった。 私は当時の世間を驚かせたニュース――デヴィッド・マカダム氏、イギリスの総理大臣の暗殺未遂について彼と議論しようと試みることにした。新聞の記事は明らかに注意深く検閲されていた。詳細は与えられなかった、総理大臣が信じられない躱し方で、銃弾がその頬を掠めて通っただけということを除いて。 私は警察が恥ずかしくも軽率で、そんな無法行為が可能になったと考えた。イギリスのドイツの密使にはそんな偉業への意思があると良く理解することができた。「ファイティングマック」は自身の党派から愛称でそう呼ばれたように力を込めてきっぱりと余りにも優勢になっていた平和主義者の影響を取り除こうと努めたのだった。 彼はイギリスの総理大臣以上だった――彼はイギリスだった;つまり彼をその勢力範囲から消してしまうことはイギリス本国を壊滅的に無力化する一撃になったのだった。 ポワロは忙しなくグレーのスーツを極小の海綿で拭っていた。決してエルキュール・ポワロほどのダンディはいなかった。整然と秩序が彼の情熱だった。今、辺りを満たすベンジンの匂いで、彼は私への一切の注意力を全く注げなくなった。 「一分足らずで君と一緒になる、友よ。終えたも同然さ。脂の染み――良くないぞ――私は消す――こうだ!」。彼は海綿を振った。 私は次の煙草に火を着けながら座った。 「何か気になっていることは?」。私は尋ねた、一二分後。 「『雑役婦』――君はどう呼ぶかな?――が夫を見付けるのを手伝うよ。難しい事件、機転が要求されるからね。というのも彼は見付かっても嬉しくないとちょっと思うんだ。君はどうかな? 私としては彼に同情するな。道に迷うには眼識のある人だ」 私は笑った。 「やっと! 脂の染みめ、消えた。何でもどうぞ」 「今回のマカダム暗殺の試みをどう思うかを訊くつもりだった?」 「〈子供の遊び!〉」と即座に返したポワロ。「誰も殆ど真面目に取らない。小銃を発砲して ――成功することはない。過去の方策なんだ」。 「今回は略成功しかけていた」。私は思い出させようと彼にいった。 ポワロは焦れったく頭を振った。正に返そうとしたところで、女将が頭をドアの周りに突っ込みながら彼に会いたがる二人の紳士が下にいると知らせたのだった。 「彼らは名乗りませんが、貴殿、非常に重要なことのようです」 「上げて下さい」といったポワロ、注意深く自分のグレーのスボンを折り畳みながら。 数分後に二人の訪問者が案内されて入ると真っ先に私はエステア卿、庶民院院内総務に他ならないお偉方を認めて心が躍った;一方、彼の連れ、バーナード・ドッジ氏も戦時内閣の構成員で、私は知っていたが、総理大臣の親しい個人的な友人だった。 「ポワロ氏?」と訝しげにいったエステア卿。私の友人はお辞儀した。大人物は私を見ると口籠った。「用件は私的です」。 「ヘイスティング大尉の前では自由にお話し下さい」といった私の友人、私に残るように頷きながら。「彼は全ての才能を持ちませんが、全くです! 私が彼の分別を請け合いますよ」。 エステア卿は依然として口籠ったが、ドッジ氏がぶっきらぼうに割って入った: 「おぅ、さぁさ――藪の周りを叩いて獲物を駆り立てるな! 私が見たかぎり、イギリス中がもう間もなく入る穴を知っておるよ。時間が全てだ」 「どうぞご着席を、さぁ」と丁寧にいったポワロ。「大きな椅子にしますか、〈御前〉?」。 エステア卿は微かにギクリとした。「私をご存知かな?」 ポワロは微笑んだ。「ご尤も。写真付きの小さな新聞を読みました。知らないわけには参りませんね?」。 「ポワロ氏、貴方に甚だ極めて重大な緊急の問題を相談しに来たのです。私は極秘を請け合わなくてはなりません」 「エルキュール・ポワロが約束致します――それ以上は申しません!」と仰々しくいった私の友人。 「総理大臣に関わります。我々は由々しい悩みのうちにあります」 「木を登っておる!」と差し挟んだドッジ氏。 「では深刻な怪我を?」、私は訊いた。 「何の怪我?」 「銃創です」 「おぅ、それは!」と侮蔑して叫んだドッジ氏。「それは古い過去の出来事だよ」。 「我が同僚が話すように」と続けたエステア卿「その事件は終わって済みました。幸い、失敗でした。私は第二の試みについてもお話しできればと思いました」。 「では第二の試みがありました?」 「はい、同種のものではありませんけど。ポワロ氏、総理大臣がいなくなりました」 「何ですと?」 「誘拐されたのです」 「あり得ない!」、仰天して私は叫んだ。 ポワロから怯ませる一瞥が放たれたが、口を慎むように申し付けられたと分かった。 「不幸にもあり得ないようでも遺憾ながら真実です」と続けた閣下。 ポワロはドッジ氏を見た。「時間が全てだと、今さっき、仰られましたね。それは何を意味するのですか?」。 二人が視線を交わした、そうしてからエステア卿がいった: 「連合国会議が近いことを、ポワロ氏、聞いてました?」 私の友人は頷いた。 「明らかな理由により、それがどこでいつ起こるかの詳細は与えられていません。しかし新聞紙上から外されておりますけれども日時はもちろん外交界では広く知られてます。会議はヴェルサイユで明日――木曜日――の夜に開かれることになります。さぁ、事態の甚だしい重要性がお解りでしょう。総理大臣の会議への出席が極めて重大な必要性を示しているとは隠し立てしません。平和主義者のプロパガンダは我々の中のドイツの密使によって開始されて保持されてますけれども非常に活発になって来てます。会議の分かれ目は総理大臣の強固な人間性によるというのが全者共通の意見です。その欠席は甚だ深刻な結果――もしかすると時期尚早の惨憺たる和平を齎すかも知れません。しかも我々にはその立場に送れる者がおりません。彼一人がイギリスを代表できます」 ポワロの顔付きは真面目になっていた。「それでは首相の誘拐は会議への出席を阻むためだとお考えなのですね?」。 「まず間違いありません。彼は、実際、その時、フランスへ行く途中でした」 「もはや会議は開かれる?」 「明日の夜の九時に」 ポワロは非常に大きな時計をポケットから取り出した。 「今、九時十五分前です」 「二十四時間」と考え込んでいったドッジ氏。 「と十五分」と訂正したポワロ。「十五分を忘れないで下さいよ――役に立つようになるかも知れません。詳細を取り上げます――略取、それはイギリスかフランスで起きましたか?」 「フランスです。マカダム氏は、今朝、フランスへ渡りました。今夜、総司令官の賓客として過ごすことになっており、明日、パリへ行くのです。駆逐艦がイギリス海峡を渡って運びました。ブローニュで総司令部の車で総司令官の副官が出迎えました」 「〈そうか〉?」 「えぇ、彼らはブローニュを出ました――ですが到着しませんでした」 「何ですと?」 「ポワロ氏、それは偽の車で偽の副官でした。本物の車は側道で見付かり、運転手と副官はきっちり猿轡を嵌められて縛られてました」 「偽の車は?」 「依然として逃亡中です」 ポワロは焦れったい仕草を見せた。「信じられない! 長く見落とされている?」 「なので我々は思いました。それは単なる徹底的な捜索の問題に過ぎないようでした。フランスのその部分は軍法下にあります。我々は車が気付かれずに長く行くことはできないと確信しました。フランス警察と我がロンドン警視庁の者たち、軍も全力を注いでいます。貴方がいわれるように信じられない――ですが何も発見されないのです!」 その瞬間、ドアをコツコツ叩く音があった、そして若い警察官がエステア卿へ手渡す厳重に閉じられた封筒を持って入った。 「フランスから届いたばかり、閣下。指示通り、お持ちしました」 大臣はそれを只管に破って開けた。すると叫び声を発した。警察官は退出した。 「知らせがついに来たぞ! この電報は解読されたばかりです。第二の車が見付かった、もはや秘書、ダニエルもクロロホルムで気絶させられ、猿轡を嵌められ、縛られ、C――――近くの打ち捨てられた農場にいた。彼は口と鼻を背後から押さえられて脱しようと藻掻いたことしか覚えてない。警察は彼の供述の確かさに関して納得した」 「他には何も見付からなかった?」 「何も」 「総理大臣の遺体は見付からない? ならば望みはあります。ですが奇妙です。なぜ、今朝、彼を射殺しようとした後、生かしておくような厄介事を引き受けるのですか?」 ドッジは頭を振った。「一つだけは間違いない。彼らはどんな犠牲を払っても総理大臣を会議に出席させないことを決心している」。 「もしもそれが人為的に可能ならば総理大臣はそこにいるはずです。願わくは遅過ぎないことを。さぁ、皆様方、何もかも私に詳しくお話し下さい――初まりから。今度の銃撃事件についても知らなくてはなりません」 「昨夜、総理大臣に同行していたのは秘書の一人、ダニエル大尉――――」 「彼をフランスへ同行した同一人物?」 「そうです。お話したように彼らは自動車でウィンザーまで行きましたが、そこで総理大臣は謁を賜りました。今朝早く、町へ戻ると暗殺未遂が起こる途上でした」 「どうか暫しお待ちを。このダニエル大尉はどんな人ですか? 調査書をお持ちですか?」 エステア卿は微笑んだ。「訊かれるだろうと思いましたよ。我々は彼のことを余り知りません。格別の家柄ではない。イギリス軍に仕えておりまして極めて有能な秘書で、外国語には並外れて優れて堪能です。七ヵ国を話すと思いますよ。総理大臣がフランスへ同行するように彼を選んだのはそうした理由のためです」。 「彼は親類がイギリスに誰かいますか?」 「叔母が二人です。エヴァラード夫人、ハムステッドに住む者とダニエル孃、アスコットの近くに住む者です」 「アスコット? それはウィンザーの近くですよね?」 「その点は見過ごされませんでした。ですが何にも繋がりませんでした」 「ダニエル大尉にはそうすると疑いを挟む余地がないとお考えですね」 エステア卿が返したとき、僅かな苦しみがその声に混じった: 「いいえ、ポワロ氏。現在、〈誰かに〉疑いを挟む余地がないと断言するには躊躇わないわけには参りません」 「〈結構〉。今、総理大臣は当然ながら油断ない警察の保護の下にあり、どんな暗殺も不可能なのだと、〈御前〉、理解します?」 エステア卿は頭を下げた。「そうですね。総理大臣の車は私服の刑事を乗せたもう一台の車にぴったり追われてました。マカダム氏はこうした警戒について知りませんでした。人間的に甚だ怖いもの知らずですし、それらは無作為に一掃したい気にさせられるでしょう。ですが、もちろん、警察は自らの手筈を整えます。事実、首相の運転手、オマーフィーは刑事捜査課の者です」。 「オマーフィー? それはアイルランドの名前ですよね?」 「そうです、彼はアイルランド人です」 「アイルランドのどちらのご出身?」 「クレア県だと思いますよ」 「〈へぇ!〉 否、どうぞ。〈御前〉」 「首相はロンドンへと向かいました。車は箱型のものです。彼とダニエル大尉が内側に座りました。第二の車がいつものように追いました。ですが不幸にも幾つかの知られざる理由により、総理大臣の車は幹線道路から外れました――――」 「道が曲がるところで?」と遮ったポワロ。 「そうですけど――どうして分かったのですか?」 「おぅ、〈明白ですよ〉! 続けて下さい!」 「幾つかの知られざる理由により」と続けたエステア卿「首相の車は幹線道路を離れました。警察の車は外れたことに気付かず、本道を走り続けました。人通りの少ない車線を少し進んで首相の車は、突然、覆面の者の一団から停止を命じられました。運転手は――――」。 「あの勇敢なオマーフィーが!」と考え込んで呟いたポワロ。 「運転手は、束の間、呆気に取られつつ、ブレーキを踏み込みました。総理大臣は頭を窓から出しました。瞬時に銃声が一つ鳴り響きました――それからもう一つ。一発目が彼の頬を掠めて通り、ニ発目は幸い逸れました。運転手はもはや危険を悟りつつ、瞬時に突っ切り、一団の者たちを追い散らしました」 「逃げられそう」、私は不意に叫んだ、戦いて。 「マカダム氏は自分が受けた浅手を大きく騒ぎ立てることを拒みました。只の掠り傷だといい切りました。地方の小病院に留まり、そこで手当てをされて包帯を巻かれました――もちろん身元は明かしませんでした。それからチャリングクロス、ドーヴァー行きの特別列車が待っているところへ真っ直ぐ、予定通り、向かいました、そして何が起きたかの簡単な説明がダニエル大尉から心配する警察へ為された後、彼はフランスへ滞りなく発ちました。ドーヴァーで待っている駆逐艦に乗り込みました。ブローニュで、ご存知の通り、偽の車が待ち構えておりました、ユニオンジャックを掲げながら、もはや細部まで正確です」 「話すべきことはお終いですかな?」 「はい」 「端折ってしまった他の状況はない、御前?」 「まあ、稍妙なことは一つあります」 「はい?」 「総理大臣の車は総理大臣をチャリングクロスに置いた後に家に戻りませんでした。警察はオマーフィーと会って話したくて堪らず、そこで捜索が直ぐに始められました。車はソーホーのとある宜しくない小さなレストランの外に残されているのが発見されましたが、そこはドイツの密使の集合場所として良く知られてました」 「運転手は?」 「運転手はどこにも見当たりませんでした。彼も姿を消してしまいました」 「そう」と考え込んでいったポワロ「行方不明が、二件、ある:フランスでの総理大臣とイギリスでのオマーフィー」。 彼はエステア卿が立ち去る仕草なのを目敏く見た。 「ポワロ氏、もしも誰かがオマーフィーは売国奴だと、昨日、私に示唆したならば目の前で笑い飛ばしたに違いないとだけはいえます」 「今日は?」 「今日は何と思うかは分かりません」 ポワロは真面目に頷いた。自分の大きく重たい懐中時計を又見た。 「白紙委任されると理解します、皆様方――あらゆる点においてですね? どこへどのように行くこともできなくてはなりなません」 「申し分なく。ドーヴァー行きの特別列車が一時間後にあります、ロンドン警視庁からの更なる派遣団を乗せて。貴方は武官と刑事捜査課の者、あらゆる点においてご用命に従う者に同行されましょう。それで納得ですか?」 「全く。去る前にもう一つ質問です、皆様方。何で私のところに来られましたか? 私は貴方方の大ロンドンで、無名、知られてません」 「我々は貴方のお国の大変な大人物の推薦と要望において搜し出しました」 「〈どのような?〉 私の旧友の〈知事〉の――――?」 エステア卿は頭を振った。 「〈知事〉よりも高位のお方。自身の言葉がかつてベルギーの法律であった――そして再びそうなるであろうお方! イギリスは宣誓しております!」 ポワロの右手が感情溢れる敬礼へ勢い良く飛んだ。「意義なし! あぅ、ですが主キリストはお忘れなさらず……。皆様方、私、エルキュール・ポワロは忠実にお仕え致します。天は正に間に合うとお示しです。ですがこれは秘められる――秘められる……。分かりませんよ」。 「では、ポワロ」、私は焦れったく叫んだ、ドアが大臣らの後ろで閉じたとき「君はどう思うのか?」。 私の友人は小さなスーツケースを詰めることに忙しかった、素早く器用な動きで。頭を考え込んで振るのだった。 「どう思うかは分からない。頭が回らないよ」 「なぜ君がいったように誘拐するか、頭を殴っても殺れるだろうに?」、私は呟いた。 「ご免だが、〈友よ〉、全くそうはいわなかった。誘拐することは正しくもそうした事情を遥かに越えている」 「なぜだい?」 「不確実がパニックを引き起こすためさ。それが一つの理由だ。総理大臣が死んだら怖ろしい惨事となるものの状況には当たられるはずだ。しかし今は停滞しているね。総理大臣は再び姿を現すだろうか、または現さないだろうか? 死んだのか、生きているのか? 誰も知らない、すなわち明確に為され得ることは何もないと知るまでだね。するというように不確実がパニックを生み出すが、それが〈ドイツ野郎〉の賭けていることさ。それから、又、誘拐犯が彼をどこかに密かに拘束していれば両軍で折り合いを付ける以上に有利な立場に就くんだ。ドイツ政府は気前良い給与係ではないが、大概、このような場合には可成の送金を吐き出すことは間違いなし。第三に彼らは絞首刑を行う危険を冒さない。おぅ、断然、誘拐はそうした事情さ」 「じゃあ、そうならばなぜ最初に銃撃しようとしなければならなかったのか?」 ポワロは怒りの仕草を見せた。「あぅ、それだけが理解できない! 説明できないな――愚かしい! 彼らは略取に向けて全ての手筈(もはや非常に上手い手筈!)を整えた、にも拘わらず、そんな事情の全てをわざとらしい攻撃、映画に値すると共に全く同じに非現実なもので危険に晒す。殆ど信じることはできないよ、その覆面の者の一団によってロンドンから20マイルと離れずに!」。 「恐らくは互いに関わりなく起こった二つの全く別の試みなんだ」、私はいってみた。 「あぅ、いいえ、偶然の一致が多過ぎるんだ! それでさらにいえば――誰が売国奴か? 売国奴はいたに違いない――最初の事件で、とにかく。さてやそれは誰だったのか――ダニエルかオマーフィー? 二人のうちの一人だったに違いない、さもなければなぜ車は幹線道路を離れたか? 総理大臣が自身の暗殺を黙認したとは思われない! オマーフィーはあの方向を自分から進んで変えたか、さもなければダニエルが彼にそうするように命じたか?」 「確かにそれはオマーフィーが実行することになったに違いない」 「そうだ、もしもダニエルの方ならば総理大臣は命令を聞いただろうし、理由を訊いただろうから。しかしこの事件には『なぜ』が多過ぎるし、それらは互いに矛盾している。もしもオマーフィーが真人間ならば〈なぜ〉幹線道路を離れたか? もしも彼が無法者ならば、たったニ発、発砲されてから〈なぜ〉車を再び発進させたか――それによって殆ど確実に総理大臣を救おうと? そして、又、もしも彼が正面ならばなぜチャリングクロスを直ぐに離れてドイツスパイの周知の溜まり場へ駆ったか?」 「悪そうだ」、私はいった。 「事件を順序立てて考察しよう。私たちはこの二人の何に同意と異議を示すか? オマーフィーを先ずは挙げる、異議:彼の幹線道路を離れる行為は怪しいということ;クレア県出身のアイルランド人ということ;非常に思わせ振りな仕方で姿を消したということ。同意:機敏にも車を再発進して総理大臣の命を救ったということ。ロンドン警視庁の者で、明白ながら自分に割り当てられた部署から来た信頼される刑事であるということ。ダニエルを取り上げる。彼への異議はさほど多くなく、素性が知られてない事実を除くと全くのイギリス人にしては言語を多く喋り過ぎるということ!(ご免よ、〈友よ〉、外国語が堪能な人にとっては嘆かわしいね!) 〈彼を取り上げる〉、私たちには彼が猿轡を嵌められ、縛られ、クロロホルムで気絶させられて見付かった――当の問題とまるで何か関係があるように思われないという事実がある」 「彼は疑いを逸らすために自分から猿轡を嵌めて縛ったのかも知れない」 ポワロは頭を振った。「フランス警察はその類のミスは犯すまい。その上、一度、彼が目的を達して総理大臣が確実に略取されたら後に残っている意味はさほどあるまい。共犯者ならば彼に猿轡を嵌めてクロロホルムで気絶させ〈られる〉けど、無論、しかしそれで実現したかった目的が何かは私には分かり兼ねる。彼はもう彼らの殆ど役に立ち得ない、つまり総理大臣に纏わる状況が払い除けられてしまうまでなんだよ、彼が注意して見守られなくては行けないのは」。 「恐らく彼は誤った手がかりから捜査させることを望んだ?」 「ではなぜ彼はそうしたか? 何かを鼻と口に押し当てられたと、それ以上は何も覚えてないというだけだよ。誤った手がかりはそこにない。実に本当らしく聞こえる」 「まあ」、私はいった、時計を一瞥しながら「私たちは駅から手を着けた方が良い。多くの手がかりがフランスで見付かるかも知れないよ」。 「あり得るが、〈友よ〉、私は疑う。総理大臣が限られた領域、隠すことが途方もなく困難なところで、発見されないというのは依然として信じられないんだ。二つの国の軍と警察が彼を見付けられないとしたらどうやって私にできるのか?」 チャリングクロスで私たちはドッジ氏に出迎えられた。 「こちらがバーンズ刑事、ロンドン警視庁に属します、そしてノーマン少佐です。彼らはご用命に全て従います。幸運を祈ります。酷いことですが、私は望みを捨てはしません。そろそろ行かなくては」。すると大臣は大股で速やかに歩き去った。 私たちはノーマン少佐と取り留めもなく雑談した。プラットフォームの人の小さな集まりの中心で見覚えのある小柄なフェレット顔の輩が背の高い白人の男と話していた。彼はポワロの古い知り合い――ロンドン警視庁の最も聡明な警察官の一人と思われるが、ジャップ警部だった。やって来ると私の友人に元気良く挨拶した。 「君もこの任務に就いたと聞いたよ。可成の仕事。これまで奴らは完全に証拠を残して上手く通している。しかし彼を長く隠しておけるとは思えないな。我々の部下はフランスを梳って調べている。フランスの方も同じさ。もう時間の問題でしかないと感じずにはいられない」 「つまり、彼が未だ生きていれば」と鬱々と述べた背の高い刑事。 ジャップの顔色が沈んだ。「そうだ……。しかし何とか彼が健在という感じはするね」。 ポワロは頷いた。「そうだ、そうだ;彼は生きている。しかし遅れずに見付かるかな? 私だってこんなに長く隠され得るとは思わなかった」。 警笛が鳴ると私たちは、皆、プルマン式車両へとぞろぞろ歩いて上がった。それからゆっくりとした嫌なぐいという動きと共に列車は駅から出た。 それは興味深い旅だった。ロンドン警視庁の者たちは寄り合った。北フランスの地図が広げられると人差し指が道と村の線を熱心に辿った。それぞれの者に自身の持論があった。ポワロはいつもの多弁を示さなかったが、戸惑った子供を思い起こさせる顔付きで、前をじっと見ながら座っていた。私はノーマンと話したが、中々の面白い輩だと分かった。ドーヴァーに到着するとポワロの挙動から強烈な面白さを感じ出した。その小柄な人は船に乗り込むときに私の腕をギュッと握り締めた。風は力強く吹いていた。 「〈うわぁ!〉」、彼は呟いた。「これは怖ろしい!」。 「勇気を出せ、ポワロ」、私は叫んだ。「上手く行くさ。彼は見付かるさ。私は確信している」。 「あぅ、〈友よ〉、私の感情を誤っているぞ。悩まされるこの酷い海なんだよ! 〈船酔い〉――恐るべき苦しみなんだよ!」 「おぅ!」、私はいった、呆気に稍取られて。 エンジンの初回の振動が感じられるとポワロは呻いて目を閉じた。 「ノーマン少佐が北フランスの地図を持っているよ、もしも調べたければ?」 ポワロは頭を焦れったく振った。 「否さ、否さ、置いておけ、友よ。さらば、胃と脳は調和するべきだ、思えば。ラヴェルギエは〈船酔い〉を避ける最も優れた方法を持つ。息を吸う――そして吐く――ゆっくり、そこで――頭を左右に振ってそれぞれの呼吸の間に六を数えながら」 私は彼を体操するままに置いて甲板へ上がった。 私たちがブローニュの港へゆっくりと入って来たときにポワロは姿を現した、キリッとして微笑みながら、そしてラヴェルギエの方式は「驚異的なまでに!」上手く行ったと囁き声で私に告げた。 ジャップの人差し指は未だ想像上の道筋をその地図に辿っていた。「馬鹿な! 車はブローニュを出発した――ここで彼らは折れた。さぁ、私の考えでは総理大臣は他の車に移されたということになる。分かる?」 「まぁね」といった背の高い刑事。「私は海港へ進もう。十中八九、彼は船上に隠されている」。 ジャップは頭を振った。「明らか過ぎる。命令が発せられて全ての港は直ちに塞がれた」。 夜が開けるところで、私たちは上陸した。ノーマン少佐がポワロの腕に触れた。「軍用車がここでお待ちしております、貴殿」。 「ありがとうご座います。ですが、暫くの間、ブローニュを離れようとは思いません」 「何ですと?」 「否、私たちはこちらのホテルに入ることにします、波止場のそばで」 彼はいったそばから行って個室を要求すると与えられた。戸惑って理解できないまま、私たち三人は続いて行った。 彼は視線をさっと私たちへ向けた。「優れた探偵が行動するべきというのは真ではない、でしょう? 貴方の考えは解ります。彼は勢力盛んであるべきだ。あちこち走り回るべきだ。汚れた道に平伏してタイヤの痕跡を小さな拡大鏡越しに探さなくてはならない。煙草の吸殻を掻き集めるべきだ、落とされたマッチを? 貴方の考えではありませんかな?」。 彼の目が私たちに挑みかかった。「しかし私――エルキュール・ポワロ――はそれが真ではないと教えます! 本物の手がかりは内側――〈ここ〉にある!」。彼は額を軽く叩いた。「さらば、私はロンドンを離れてしまってはなりません。私はそこの部屋に静かに座っていれば充分だったんですよ。内側の小さな灰色の脳細胞だけが重要です。密かに黙ってそれらは役目を果たします、突然、私が地図を求めるまでね。ついに人差し指をある地点に置いて――そう――いいます:総理大臣は〈そこ〉だ! つまりそれが真です! 順序と論理で人は何でも達成することができる! フランスへのこの大急ぎの行動は失敗でした――子供の隠れんぼ遊びをやっている。ですがもはや遅過ぎるかも知れませんけれども正しい仕方を考え出しましょう、内側からね。黙って、皆さん、お願いします」 すると五時間も小柄な人は身動きせずに座って猫みたいに瞬きをしており、その緑の目はちらちらしながら深みをどんどん増して行った。ロンドン警視庁の者は明らかに侮蔑し、ノーマン少佐は退屈しながら焦らされ、私自身は時間がうんざりするくらいゆっくり過ぎるのが分かった。 最終的に立ち上がると窓へできるかぎり、音を立てずにぶら付いた。事態は茶番劇になっていた。殆ど自分の友人を案じなかった。もしも彼が失敗るならば間抜けでないようにして貰いたかった。窓の外からぼんやり平日の許可船を見守ったが、波止場に横付けになりながら煙の柱を吐き出すのだった。 突然、肘近くのポワロの声で目を覚ました。 「〈友よ〉、始めよう!」 私は振り向いた。飛んでもない変化が私の友人にやって来たのだった。その目は興奮によってちらちらすることとなり、その胸は極端なまでに膨らんでいた。 「私は愚か者になってしまった、友よ! しかし曙光をついに認める」 ノーマン少佐はドアへ急いで移動した。「車を頼もう」。 「無用です。使わなくて構いません。有り難いことに風が静まりました」 「歩くおつもりですか、貴殿?」 「いいえ、若い友よ。私は聖ペトロではありません。海を船で渡りたいのです」 「〈海〉を渡りたいと」 「はい。順序立てて取り組むために人は最初から始めなくてはなりません。そしてこの事件の最初はイギリスでした。従って私たちはイギリスへ戻ります」 • • • • • • • 三時に私たちはチャリングクロスのプラットフォームの上に、もう一度、立った。あらゆる私たちの諫言にポワロは耳を貸さなかった、そして最初から始めることが時間を無駄にしない、唯一無二の方法と何度も何度も繰り返していった。道すがら彼が低い声でノーマンと打ち合わせると後者は一束の電報をドーヴァーから発信したのだった。 ノーマンが有する特別許可証のお陰で、私たちはあらゆる場所を記録的な速さで通り抜けた。ロンドンでは大型の警察車両が待っており、数人の私服警官もいたが、そのうちの一人がタイプライターで打った紙片を私の友人へ手渡した。彼は私の問いかける眼差しに答えた。 「ロンドンの西半径内にある小病院のリストだよ。電報をそのためにドーヴァーから打った」 私たちはロンドンの通りを抜けて急いで素早く運ばれた。バースロードにいた。進んで行くとハマースミス、チジック、ブレンドフォードを抜けた。私たちの目標地点が見え始めた。ウィンザーを抜けてアスコットに到達しそうだ。心が躍った。アスコットはダニエルが自分の叔母を住まわせている場所だった。〈彼〉を追っていた、そのとき、オマーフィーではなく。 私たちは時間通りに手入れの行き届いた大邸宅の門に止まり、ポワロは跳び出すと呼び鈴を鳴らした。彼の顔の輝きが困った難色に曇らされるのが見えた。納得されてないのは明らかだった。呼び鈴は答えられた。彼は中に案内された。僅かの間で再び姿を現した、そして車に乗った、短く鋭く頭を振って。望みが消えかけ始めた。今や四時を過ぎていた。たとえダニエルに罪があるとする確かな証拠が見付かるとしてもそれが何の役に立つだろうか、総理大臣が拘束されているフランスの正確な場所を誰かから絞り上げることができなければ? ロンドンへ向けての戻りの経過は中断されるものとなった。何度となく、幹線道路から外れて、時偶、小さな建物、小病院と造作なく認められるものに止まった。ポワロはそれぞれに数分を費すだけだったが、停止する度に光を放つ確信がどんどん取り戻された。 彼は何かノーマンへ囁いたが、それに後者が返した: 「はい、左へ逸れれば橋のそばで待つ者たちがいます」 私たちは曲がって側道を上がった、すると衰えた光の中に第二の車が見分けられたが、道端で待っていた。二人の私服警官が乗っていた。ポワロは降りると喋りかけた、そうしてから私たちは北寄りの方角へ出向いたが、もう一台が後ろにぴったり続いていた。 暫くの間、駆ったが、目標地点は明らかにロンドンの北の郊外だった。最終的に背の高い家、それ自体の敷地の道路から少し後ろに立っていたものの正面玄関まで駆った。 ノーマンと私は車に残された。ポワロと刑事の一人がドアまで行って呼び鈴を押した。品良い女中が開けた。刑事が喋りかけた。 「警察の者でして家宅捜索の令状を持ちます」 女は小さな叫び声を上げた、すると背の高い堂々とした中年女性が玄関でその背後に姿を現した。 「ドアを閉めなさい。イーディス。夜盗でしょうよ」 しかしポワロは素早く足をドアに差し込むと同時に警笛を鳴らした。瞬時に他の刑事たちが走って来て家に雪崩れ込み、自分たちの背後のドアを閉めた。 ノーマンと私は五分くらい留め置かれたことを呪いながら過ごした。最終的にドアが又開いて警官たちが出て来た、捕まえた者たち――女性一人と男性二人を護送しながら。女性と男性の一人が二台目の車に連れられた。別の男性が私たちの車のポワロの直ぐにそばに乗せられた。 「私は他の者と行かなくてはならない、友よ。さてやこの紳士に細心の注意を払っておくれ。君は知らない、全く? 〈それでは〉紹介しよう、オマーフィー氏!」 オマーフィー! 再び出発しながら私はポカンと彼に〈大きな口を開けた〉。彼は手錠をかけられなかったが、逃亡を試みるだろうとは思われなかった。まるで茫然としたように自分の前をじっと見ながらそこに座っていた。とにかくノーマンと私には太刀打ちできないのだった。 驚いたことに私たちは依然として北寄りの道筋を保っていた。ロンドンへ戻っていなかった、それから! 私は大いに戸惑った。突然、車が速度を落としたとき、私たちがヘンドン飛行場に近いと判った。直ぐにポワロの考えを把握した。フランスに飛行機で行き着くつもりだった。 それは果敢な考えだったが、表面上、実用的ではなかった。電報ならば遥かに迅速だろう。時間が全てだ。彼は総理大臣を救出する個人的な栄誉を他の者たちへ託すに違いない。 停車したときにノーマン少佐が跳び出すと私服警官の者が彼と入れ替わった。彼は、数分間、ポワロと打ち合わせた、そうしてから足早に降りて行った。 私も跳び出すとポワロの腕を掴まえた。 「おめでとう、君! 隠れ家を聞いたな? しかし、あのな、直ぐにフランスへ電報を打つべきだ。自分で行くとしても遅過ぎるだろう」 ポワロは、一二秒、不思議そうに私を見た。 「不幸にも、友よ、ちょっと電報で送れないものがある」 • • • • • • • その瞬間、ノーマン少佐が戻ったが、航空隊の制服を着た若い将校を同行していた。 「こちらはライアル大尉で、貴方をフランスまでお運びします。直ぐに出発できます」 「温かく着込んで下さい、貴殿」といった若い操縦士。「宜しければコートをお貸しします」。 ポワロは非常に大きな時計を調べていた。独りで呟いた:「良し、時間はある――丁度の時間が」。それから見上げると若い操縦士へ丁寧にお辞儀した。「どうもありがとうご座います。しかし貴方の乗客は私ではありません。こちらのこの紳士です」。 いいながら少し脇へ移動するとある人影が暗闇から進み出た。別の車に行っていた二人目の男性の捕まえられた者で、光が顔に当たるに連れて私は驚きの喘ぎ声を上げた。 〈それは総理大臣だった!〉 • • • • • • • 「お願いだから何もかも教えておくれよ」、私は叫んだ、焦れったく。ポワロとノーマンと共に自動車でロンドンへ帰って行くとき。「一体全体、彼らはどうやって上手く彼をイギリスへ戻して隠したのか?」。 「戻して隠さなくても良かった」と淡々と返したポワロ。「総理大臣はイギリスを離れてはいなかった。ウィンザーからロンドンへの途上で誘拐されていた」。 「何だって?」 「全てを明かそう。総理大臣は自分の車の中で、その横には秘書がいた。突然、クロロホルムの当て物を顔にポンと叩かれた――――」 「誰によってだい?」 「賢くて外国語が堪能なダニエル大尉によって。総理大臣が意識を失うや否やダニエルは伝声管を取り上げてオマーフィーに右へ曲がるように指示するが、運転手は全く怪しまず、そうする。人通りの少ないその道を行って数ヤード、大型の車が、一見、故障して残されている。運転手はオマーフィーに止まるように合図する。オマーフィーは減速する。見知らぬ者が近付く。ダニエルは窓から身を乗り出す、すると恐らく、塩化メチルなどの即効性の麻酔薬を用いてクロロホルムの策が繰り返される。二人のどうすることもできない者たちが引き出されて他の車へ移されると一組の代役が入れ替わる」 「あり得ない!」 「〈全然!〉 君は演芸場で有名人の物真似が信じられない正確さで表現されるのを見たことはないか? 公人の役を演じる以上に簡単なことはない。イギリスの総理大臣はクラッパムのジョン・スミス氏よりも遥かに簡単に代役を務められる。オマーフィーの『替え玉』に関しては総理大臣が発った後に誰もさほど気に留めようとしなかったし、そのときまで姿を消していたんだ。チャリングクロスから自分の仲間の集合場所へと真っ直ぐに駆った。オマーフィーとして入って行き、全く異なる誰かさんとして出て来る。オマーフィーは姿を消した、都合良く怪しい痕跡をその後に残しながら」 「しかし総理大臣の役を演じた者はあらゆる人から見られていた!」 「彼は個人的か衷心的に知られる者には誰からも見られなかった。そしてダニエルは彼を、極力、人と接触しないように守った。しかも彼の顔には包帯が巻かれていたし、振る舞いの普通ではないところは襲撃の結果として苦しんでいる事実のせいにされるんだ。マカダム氏は喉が弱くていつもどんな大きな演説の前でもなるべく喋らないようにしていた。誤魔化しをフランスまで保持することは完全に容易かった。そこで実用的ではなくて不可能になったゆえに――総理大臣は姿を消す。この国の警察はイギリス海峡を急いで渡り、そして誰もわざわざ最初の攻撃を詳しく調べることはしなかった。フランスで起こった略取の錯覚を維持するためにダニエルは説得力を持たすように猿轡を嵌められてクロロホルムで気絶させられた」 「すると総理大臣の役を演じた者は?」 「変装を止める。彼と偽の運転手は不審人物として逮捕されるかも知れないが、誰もその芝居の本当の役割を怪しいと想像しないんだし、彼らは、結局、証拠不十分で釈放されるんだ」 「すると本物の総理大臣は?」 「彼とオマーフィーはハムステッドの『エヴァラード夫人』、ダニエルの所謂『叔母』の家へ真っ直ぐ駆られた。現実に彼女はフラウ・ベルタ・エベンタルで、警察は彼女を、暫くの間、探していたんだ。それが私が彼らへ行った価値ある小さな贈り物だよ――ダニエルはいうまでもなく! あぅ、それは賢い計画だったが、彼はエルキュール・ポワロの賢さを予期しなかった」 私の友人は自惚れの時を許されると思う。 「いつから問題の真実を疑い始めたのか?」 「正しい仕方を考え出し始めたときさ――〈内側〉から! あの銃撃事件がしっくり来なかった――しかし〈総理大臣が顔に包帯を巻いたまま、フランスへ向かった〉という最終結果が分かったとき、私は理解した! そしてウィンザーからロンドンの間の小病院を悉く訪れて誰もその朝に彼の顔に包帯を巻いて手当てしたとする私の説明に反応しないと分かったとき、確信した! その後は私みたいな精神にとっては子供の遊びだったよ!」 • • • • • • • 翌朝、ポワロは自分が受け取ったばかりの電報を見せた。出所は不明で、署名はなかった。書いてあったのは: 「間に合った」 その日遅く、夕刊で連合国会議の記事が公開された。特段の重点がデヴィッド・マカダム氏へ与えられた飛び切りの熱烈な歓迎に置かれていたが、その奮い立たせる演説は深く心に残る感銘を生んだのだった。 参考サイト首相誘拐事件(松本恵子訳) 英語の小説の日本語訳 コメント 新しい投稿 前の投稿
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