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人物に使われる人称代名詞のit|英文法

自分の写真結城永人 -

英語の小説、F・スコット・フィッツジェラルドのベンジャミン・バトンという奇妙な症例の日本語訳で気になった英文法に人物に使われる人称代名詞のitがあった。

it①性別が分からない赤子/幼児/子供

"What was it? How is she? A boy? Who is it? What—"

「何でしたか? 彼女はどうですか? 男児? 誰ですか? 何――」。

The Curious Case of Benjamin Button by F. Scott Fitzgerald(太字と訳文は筆者)

子供が生まれるのを待っている父親が担当医に状況を尋ねる場面で、人称代名詞のitが使われている。母親/妻が「she」で、二つの「it」が赤ちゃんを(気が動転した表現で文意は幾らか広がりつつも)示しているはずだけれども英語の人称代名詞のitは文章の真主語として人以外の物や動物などに使われる場合が非常に多くてあり得るのかと調べる他がなかった。

例外的といって良いけれども赤子/幼児/子供に対して使われることがあって性別が分からないかぎり、人に使われる通常の人称代名詞のheかsheの代わりにitで示されることになる。性別が分かるかぎり、赤子/幼児/子供に対しても通常の人称代名詞が使われるのが普通なので、itが人に使われるのは相当に珍しいかも知れない。

英語で人に対してitを使うことは非礼と見做される、日本語でも人をそれと呼ぶのはおかしいけど、物扱いとか人間以下なんてとにかく心ない印象を与えてしまうわけだ。誰かへの罵り語と同様に世の中で安易に使うと災難に巻き込まれ兼ねないから注意するべき表現なんだ。

性別が分からない赤子/幼児/子供だけは例外としてitを使って示しても人でなしと嫌悪されるようなことは必ずしもない。

人称代名詞のitが物や動物に使われるのも性別が分からないためらしくて逆にいえば特に動物などは性別が分かると人間と同じように人称代名詞のheやsheが使われることは良くある。

因みに死体/遺体は人間でもitが使われるのが普通で、手厚く葬るような感覚から厳粛に敢えて生者に相当する人称代名詞で示すことも特にないらしい。

it以外の人称代名詞が性別不明の赤子/幼児/子供に使われることもあって二人以上ならば複数のtheyだから一人の単数形の場合だけれども想像してheかsheで示してみたり、または性別不明の人で一般的なSingular they(単数扱いの三人称複数形)も使われ得る。

赤子/幼児/子供をitで示すのは昔からある表現で、引用の小説も今から略百年前の古い英語だった、昨今は新しく、性別が分からない人に対しては全てtheyを使うという人も増えているようだ。

it②疑念や電話の返答の代役主語として

もう一つ人称代名詞のitが人物に使われる場合があってどんな人にも当て嵌まるけれども疑念や電話の返答の代役主語としてitが目的語に人物を取り得る。

Who is it? / It's me,

誰なのか?/私だよ。

Prrrr.... / Hello, It's Stephen.

プルルル/もしもし、ステファンだよ。

何れも人物を指すitの用法だけれどもこれは特別なもので、通常、日本語には訳さない代役主語に含まれる。

天気や時間/気候や日付を示すのに良く使われる。例えば「It's clear」(快晴だ)とか「It's Tuesday」(火曜日だ)なんて日常的に聞かれる。人物に対しても同じような使われ方がある。

特別用法のitは代役主語として具体的な内容を持たない。その場で話題になっていること、自他の共通認識を簡略化して伝えている。天気や時間だとわざわざ「The weather」や「The day」などを主語にせず、「it」で短く纏めて示すことができるわけだ。事実上、代役主語ならば意味はなく、非人称のitや状況/環境のitとも呼ばれる。

Itの使い方で似たものに仮主語/形式主語がある。これだと「It is happy to run in the woods」(森の中を走るのが嬉しい)のように真主語がある。つまり「it」は「to run in the woods」に他ならない。対して代役主語のitはそうした真主語に相当するものも持たない。だから意味がないし、具体的な内容を持たないと考えられなくはないけど、ただしその場の話題か共通認識らしい漠然とした雰囲気のようなものはあり得るから言語的に不要とはまではいい切れないかも知れない。

最初の赤ちゃんの例文と全く同じ表現の「Who is it?」があって使われ方のニュアンスは近いにせよ、それぞれの「it」が人称代名詞として具体的な内容を持つかどうかでは明白に区別され得る。

性別が分からない赤ちゃんを指して「it」というのと疑念や電話の返答の相手を指して「it」というのは違う。前者はその対象と判明しているけれども後者は同じように判明しているといい切るほどの対象ではないく、目の前にいなかったりしてもはや性別どころか存在でさえも完全に分からないような相手を示している。

代役主語のit、または非人称のit、状況/環境のitは人物ならばどこかの誰かに対して使われるといって良いだろう。相手がはっきり分かると通常の人称代名詞で事足りるけど、とにかく指すのは人物でもどんな相手なのかが良く分からないままに使われるのが一つの特徴として挙げられる。

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