ロバート・ルイス・スティーヴンソンの死体泥棒の日本語訳 結城永人 - 2020年10月9日 (金) 十九世紀のイギリスの作家、小説家で詩人で随筆家のロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説の死体泥棒(1884)の日本語訳を行った。一つの文学作品として人間の洞察力に富んだ優れた内容を持つだけではなく、表現も意義深いから外国語の英語の聞き取りと読み取りの教材としても最適だと感じる。 ロバート・ルイス・スティーヴンソンの死体泥棒の英語の出典 Robert Louis Stevenson by Henry Walter Barnett / Public domain The Body-Snatcher by Robert Louis Svevenson/ロバート・ルイス・スティーヴンソンの死体泥棒原文:Project Gutenberg(作品集)朗読:LibriVox(マイク・ハリス) 両方ともパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。 関連ページロバート・ルイス・スティーヴンソンの死体泥棒の原文と注解 ロバート・ルイス・スティーヴンソンの死体泥棒の日本語の訳文 Ghost Tour Graveyard Edinburgh by Jeff Woodgate / CC BY その年、毎晩、私たち四人はデベナムのジョージの小さな談話室に座っていた――葬儀屋と家主とフェテスと私自身。時折、もっといるのだった;しかし何が起ころうとも、雨か雪か霜が来ようとも私たち四人はそれぞれに特定の肘掛け椅子に座するのだった。フェテスは老いた飲んだくれのスコットランド人、明らかに教養のある人、怠惰に暮らしていたから一廉の資産家だった。何年も前にデベナムにやって来てまだ若いうちに単に生活の継続によって承認済みの町民になったのだった。彼の青いキャムレットクロークは地方の古物で、教会の尖塔みたいだった。ジョージの談話室の特定の座、礼拝の欠席、古い飲み過ぎの如何わしい悪習がデベナムでの当たり前の全てだった。幾らかの漠然とした過激な意見と幾らかの束の間の不信心を持っていたが、時折、発表してはぐら付いて机をバンと打って強調するのだった。彼はラム酒を飲んだ――毎晩、決まって五杯;そしてジョージへ、夜毎、座りに訪れるその大部分において右手にグラスを持ったままの憂鬱なアルコール浸けの状態だった。私たちは彼を医師と呼んだ、というのも彼は医学の特別な知識か何かを持っていると思われたし、いざとなれば骨折を継いだり、脱臼を戻したりすることが知られていたためだった;しかしこれらの僅かな特色以上に私たちは彼の性格や素性の知識を持たなかった。 ある暗い冬の夜――家主が私たちに加わる前のある時に九時を打ったのだった――ジョージに病人がいた、大物の近所の起業家が、突然、議会へ向かう途上で脳卒中で倒れた;すると大物のやはり大物のロンドンの医師が枕元に電報を打たれたのだった。そんなことがデベナムで起きたのは初めてだった、というのも鉄道は新たに開通したばかりだったし、その出来事には皆一同に心を動かされたためだった。 「彼が来た」といった家主、パイプを詰めて火を着けた後。 「彼?」といった私。「誰?――医師ではない?」。 「彼だよ」と返した私たちの主人。 「名前は何か?」 「マクファーレン医師」といった家主。 フェテスは三杯目のタンブラーを空けていた、愚かに酔っ払ってはもう顎でしゃくってもう自分の周りをボーッと見回しながら;しかし最後の言葉で目が覚めたようで、「マクファーレン」の名前を、二回、繰り返した、最初は十分に静かだったが、二回目は、突然、感情的に。 「そうだ」といった家主、「それが彼の名前、ウルフ・マクファーレン医師だ」。 フェテスは瞬時に酔いを覚ました;目を覚まし、声は明瞭に大きく安定し、言葉遣いは有力で熱心になった。私たちは皆その変容に驚愕した、まるで死人から蘇ったたようで。 「済まないな」、彼はいった、「君の話に良く注意を払っていなかったんだ。ウルフ・マクファーレンとは誰か?」。するとそして家主の話を最後まで聞いたとき「あり得ない、あり得ない」、彼は付け加えた;「といえども彼と、是非、相見えたいいね」 「彼、医師を知っているのか?」と訊いた葬儀屋、ハッと息を呑んで。 「飛んでもない」が返事だった。「といえどもその名前は奇妙なものだ。二つと思い描かれなかった。教えてくれ、家主、彼は老けているか?」 「まぁね」といった主人、「若者ではない、如何にも、つまり白髪なんだ;ただし君よりも若く見えるよ」。 「彼は老けている、けども;何年も老けて。しかし」、机を打って「君たちが俺の顔に見るのはラム酒――ラム酒と罪だ。こいつはきっと疚しいところはなくて胃が丈夫かも知れない。良心! 俺の喋りを聞いてくれ。君たちならば俺が多少とも善良な古い正面なキリスト教徒だと思うよな? ところが、否、俺は違う;俺は偽善的ないい方をすることはない。かりに俺の見地に立てばヴォルテールは偽善的ないい方をしたかも知れない;しかし脳は」――自分の禿げ頭を指で俊敏にコツンと叩いて――「脳は明晰に活動し、俺は見ながら推論を下さなかった」。 「もしも君がこの医師を知るならば」、私は思い切っていった、何だか恐ろしい停止の後「家主の良い意見を共にしないのだと判断しなくてはならないな」。 フェテスは私に関心を払わなかった。 「そうだ」、突然、きっぱりと彼はいった、「俺は彼と相見えるべきだ」。 又一つ停止があり、するとそして扉が二階で可成の鋭さで閉じられた、すると足音が階段に聞こえた。 「あれは医師だ」と叫んだ家主。「うかうかするな、ついに捕まえられるぞ」。 小さな談話室から古いジョージの宿泊所の扉へは二歩しかなかった;幅広の楢の階段が通りに殆ど着いていた;トルコ絨毯の隙間があり、戸口と降下の最終の円みとの間にはもう何もなかった;しかしこの小さな空間は、毎晩、階段の明かりと看板の下の表示燈だけではなく、酒場の窓の暖かな輝きによっても煌々と照らし出されていた。ジョージはこうして明るく、冷たい通りを行き交う人たちへ宣伝されていた。フェテスはその場へしっかりと歩いた、そして私たちは後ろに立ち止まったが、二人が会うのを目にした、彼らの一人がそう表したように面と向かって。マクファーレン医師は機敏で頑健だった。彼の白髪はその青白くも大人しい、精力的だけど、顔付きを引き立たせていた。裕福に最も上質なブロードと最も白いリネンを身に纏い、見事な金の懐中時計の鎖や同様の貴金属の飾り釦と眼鏡を持っていた。白地に薄紫の斑点の広折りのネクタイを着けて腕に気持ち良い毛皮のドライヴコートを携えるのだった。疑問なのは彼が富と熟慮の年齢に生きながら今のようになったことだけだった;もはや階下で彼と向かい合う私たちの談話室の飲んだくれ――禿げて汚れて吹き出物があって古いキャムレットのクロークを着た――を見るのとは驚くべき対照だった。 「マクファーレン!」、何やら大声で彼はいった、余程、友人よりも通報官みたいに。 大物の医師は四段目で急に止まった、まるで無遠慮な呼びかけに驚かされながら人品を揺るがされたようだった。 「トディ・マクファーレン」と繰り返したフェテス。 ロンドンの人は今にも蹌踉めきそうだった。己の目前の人をほんの何秒間か凝視し、怯えたようにその背後を一瞥した、そしてもはや驚愕した囁き声で「フェテス!」、彼はいった、「君!」。 「あぁ」といった相手、「俺! 君は俺も死んだと思ったか? 俺たちは自分たちの知り合いとそんなに簡単に縁を切らないさ」。 「シーっ、シーっ!」と声を上げた医師。「シーっ、シーっ! こんな面会はとても予期されない――君は酷く気落ちして見えるな。最初、打ち明けるよ、殆ど気付かなかった;しかし大いに喜んでいる――こんな機会を持てたのを大いに喜んでいる。差し当たり、一度のどうですかとさよならにするべきだな。私の軽装貸し馬車が待っているし、列車に乗り遅れるわけにも行かないから;しかし君は――ええと――そうだ――君は住所を教えなさい、すると私からの早々の知らせを当てにして良いんだ。私たちは君のために何かしなくてはならない、フェテス。君は肘も破れたと思うよ;しかし私たちは過ぎ去りし懐かしき昔のために上手く取り計らわなくてはならない、かつて夕食で歌ったように」。 「金!」と叫んだフェテス;「君からの金! 君から貰った金が雨の中で放ったところに置いてある」。 マクファーレン医師は優位と信頼を幾分か自分にいい聞かせたのだったが、この拒絶の普通ではない精力に己の最初の混乱へ放り返された。 ぞっとする醜い様子が彼の殆ど尊ぶべき顔付きに現れて過った。「親愛な仲間よ」、彼はいった、「どうぞお好きに;私の最後の考えが君を怒らせてしまった。誰も侵害したくはなかった。君に私の住所を残そう――しかしながら」。 「そんなのは望まない――君を保護する屋根を知るなんて望まない」と遮った相手。「君の名前が聞こえた;あいつかも知れないと思った;神がいるかどうかを、結局、知ることを望んだ;何もいないと今知ったよ。立ち去れ!」。 彼は依然として絨毯の真ん中、階段と玄関口の間に立っていた;すると大物のロンドンの医者は逃亡するために片端へ進むように迫られるのだった。彼がこの屈辱の思いの前に躊躇っているのは明白だった。青褪めたけど、眼鏡には危ない煌めきがあった;しかし依然としてあやふやに停止した一方で、彼は軽装貸し馬車の運転手がこの尋常ではない場面を通りから覗き込んでいると気付き出した、そして談話室から私たちの小者を、酒場の隅に縮こめられていたけど、同時にチラッと見た。非常に多くの目撃者が彼を直ぐに逃げると決めて臨んだ。彼は屈み通した、腰羽目を掠めながら、そして蛇みたいに突進した、扉へ向かいながら。しかしその苦難はまだすっかり終わらなかった、というのも、丁度、通り過ぎるときにフェテスに腕を掴まれてこんな言葉を囁かれた、つまり悲痛に明確な「又やっているのか?」のためだった。 大物の裕福なロンドンの医師は鋭く喉を搾りながら大声で叫び出した;質問者へ空き場を越えて打ち当たると頭に手を被せて見付かった盗人のように扉から逃げ出すのだった。私たちの一人が動き出そうと思い立つ前に軽装貸し馬車は既に駅の方へガタガタ走っていた。その場面は夢みたいに済んだ、しかし夢はその経過の証拠と痕跡を残していた。次の日、使用人は上質な金の眼鏡が壊れているのを戸口で見付けた、そして正しくその夜、私たちは皆酒場の窓のそばに息を凝らして立っていてフェテスは私たちの傍らで、酔いが覚め、青白く、断固とした様子だった。 「神は私たちをお守りだ、フェテス氏!」といった家主、最初にいつも通りの感覚を手に入れながら。「世にも全くこれは何か? 君がいっていた奇妙なことだ」。 フェテスは私たちの方へ向いた;私たちそれぞれの顔を立て続けに見るのだった。「黙っておけるかやってみろ」といった彼。「彼奴、マクファーレンに逆らうのは安全ではないぞ;そうしてしまった者たちは既に遅過ぎたと後悔している」。 そしてもはや三杯目を空けるのでなければ後二杯を待つでもなく、彼は私たちにさよならを告げると出て行った、ホテルのランプの下、夜闇へと。 私たちは大きな明るい火と四つの輝いた蝋燭のある談話室の自分たちの場所へ向かった;そして起きたことを総括したときに私たちの最初の怖じ気付いた驚きは直ぐに好奇心の高まりへと変化した。私たちは夜遅くに座った;それは古いジョージに知られた最も夜遅い集いだった。各人は別れる前に必ずや証明することになると考えていた;または私たちの誰も自分たちの厳しく非難される連れの過去を探り出す、そして彼が大物のロンドンの医師と共にした秘密を聞き出す以外のどんな用事も持たなかった。大した自慢ではないが、私は一つの物語を巧みに引き出すには自分がジョージの仲間の誰よりも熟練していると思う;つまりきっと下記の卑劣で異常な出来事を語り得る生きた人間は他に今やいないのだ。 若い頃にフェテスはエディンバラの学校で医学を学んだ。独自の才能、聞いたものを直ちに取り上げて自身のために気安くいい振らす才能を持っていた。家では滅多に勉強しなかった;しかし彼は丁寧で、気遣いがあり、自分の先生たちの面前では利口だった。彼らは直ぐに彼を一心に聞いて物覚えの良い若男として取り上げた;いや、最初に聞いたときは奇妙に思われたけど、彼は当時は良く気に入られて外面的に喜んでいた。ある解剖学の学外の教師がその時期にいたのだが、私はここにKの文字で呼ぶことにする。彼の名前は後に余りにも良く知られた。それを持った人はエディンバラの通りを変装してこそこそ抜けていた、バークの死刑執行を喝采する群衆がその雇い主の血を声高に責めた一方で。しかしK――氏は、その時、己の世間受けの頂点だった;一部は自身の才能と手際、一部は己の好敵手、大学教授の無能さにより、人気があった。生徒たちは少なくとも彼の名前に信頼を置いた、そしてフェテスは独りで思ったが、この彗星のような有名人の好意を得たときは成功の基礎が据えられると他の人たちから思われていた。K――氏は熟達した教師と共に〈美食家〉だった;入念な調理に劣らず、茶目な幻想を好んだ。両方の能力にフェテスは恵まれて彼の注目を受けるに値したし、自らが出席した二年目には彼の授業の第二実験補佐か補欠助手に就いた。 この能力で階段講堂と講義室の管理が彼の肩に殊更に負わされた。彼は構内の清潔と他の生徒たちの指導を請け負い、さらに種々な実験対象を補充し、受領し、配分することがその務めの一部となった。この最後の――その頃はとても慎重な扱いを要した――事情を見据えて同じ路地、終いには解剖室のある同じ建物にK――氏によって寄宿させられた。ここで、抑えられない喜びの夜の後、手は尚も蹌踉めいて視界は尚も霞んで混乱したけど、彼は机を補充する不潔で自暴自棄な潜り業者たちによって冬の夜明け前の真っ暗な時間にベッドから起こされるのだった。扉をこれらの人たちへ開けるのだった、国中に悪名高いので。彼は彼らの悲惨な荷物運びを手伝い、その浅ましい価格を払い、よそよそしい人間の遺体と共に彼らが去ってから、一人、残されるのだった。そんな場面からもう一二時間の眠りを急いで取ろうと夜の悪弊を修復しようと戻ってはその日の労働のための元気を回復するのだった。 何人かの若男は死ぬべき運命の旗の中でこうして過ごされる生活の影響にもっと無感覚になることができた。彼の気持ちは世間並みの配慮に対してすっかり閉ざされていた。彼は別の幸不幸、自身の願望への隷従、低い野心に興味を持てなかった。百々の詰まり、冷淡で軽薄で利己的なそんな僅かな思慮分別を持ち、道徳、人を傍迷惑な酩酊や罰せられるべき盗みから遠ざけるものと呼び違えるのだった。彼はしかも一定の配慮を先生と同級生から乞い願いながら生活の外面的な部分を著しく欠くことは望まないのだった。こうして彼はそれを自分の喜びとして良い成績を幾らか学業で収めようとして、日々、非の打ち所のない面従後語を己の雇い主、K――氏へ行った。勤務日には高笑いの夜、不良の楽しみで自らを保身した;そしてそんなバランスが取られたとき、彼が良心と呼んだ器官は満足を表した。 実験対象の補充は彼と同様に先生の不断の悩み事だった。その大きくて忙しい授業で解剖学者たちの原材料は年がら年中と使い果たされていた;もはやこうして必要を示された業務はそれ自体が不快なだけではなく、危険な結果を全ての関係者たちへ招きそうでもあった。K――氏の方針というと売人との取り引きに何も訊かないことだった。「彼らが死体を持って来れば私たちは価格を払う」、頭韻法で延ばして彼はいったものだった――「〈何かのための何か〉」。すると、再度、しかも何やら冒涜的に「何も訊くな」、彼は助手たちに話すのだった、「良心のために」。実験対象が殺人行為によって提供されているとは理解されてなかった。そうした考えが言葉で切り出されたら彼は恐怖で怯んだだろう;しかし厳粛な余りの事態への彼の発言の軽薄さがそれ自体で善行に対する違背と取り引きされる人たちへの誘惑だった。フェテスは、屡々、例えば死体の奇怪な新鮮さについて独り言ちたのだった。夜明け前にやって来る破落戸の疚しくて厭うべき様子に、再三再四、苦しまされたのだった;そして物事を私的な考えで明瞭に組み立てながらきっと不道徳過ぎて断定的過ぎる意味を己の先生の無防備な忠告のせいにしていた。彼は自分の務めを簡潔にいえば三つの部門を持つと理解した:持ち込まれるものを受け取ること、その価格を払うこと、目を犯罪のどんな証拠からも逸らすこと。 ある十一月の朝、この沈黙の方針は真価を鋭く問われた。彼は激しい歯の痛みで、一晩、起きていた――部屋を檻の中の獣みたいにゆっくり歩いたり、ベッドに怒って倒れ伏したりしながら――そして苦痛の夜にあの余りにも屡々と引き続く深く落ち着かない眠りについに落ちたのが三四回の申し合わせた合図の怒りの繰り返しで起こされてからだった。細く明るい月光があった;酷く寒く、風があり、凍えるようだった;町はまだ起きないでいたのだったが、いい知れない動きが既にその日の喧騒と業務の前触れとなった。グールどもがいつもよりも遅くやって来てはいつになく頻りに去りたがっているようだった。フェテスは眠くてうんざりしたまま、彼らを階上へ照らした。彼らの不平をいうアイルランド語の声が夢越しに聞こえた;そして彼らがその悲しい商品から大袋を剥がしたときに彼はうとうとしながら凭れた、その肩を壁に寄りかからせて;連中への金を見付けるには身を振り解かなくてはならなかった。彼がそうしたときにその目は死者の顔と偶然に出会した。ぎょっとした;蝋燭を掲げて、二歩、近付いて行くのだった。 「何ということだ!」、彼は叫んだ。「ジェーン・ガルブレイスだぞ!」。 連中は何も答えなかったが、足を引き摺りながら扉へ近付いた。 「僕は彼女を知っている。君たちに教えるよ」、彼は続けた、「彼女は、昨日、生き生きと達者だった。死ぬなんてあり得ない;君たちがこの死体を全く得られたなんてあり得ない」。 「確かに、貴殿。すっかり取り違えてますぜ」といった連中の一人。 しかしもう一人はフェテスの目を陰気に見ながら金をその場で要求した。 脅威を思い誤るか危難を過大視することは不可能だった。若男の心は自失した。彼は吃りながら少し弁解し、総額を数え上げ、己の憎らしい訪問者たちが発つのを見届けた。彼らが去るのが早いか急いで自らの疑問を確かめた。沢山の確かな特徴によって少女は自分が前日に茶化したと識別した。彼は彼女の死体の傷痕は暴力を示すのだろうと慄然として分かった。恐慌に掴まれながら自室へ退避した、そこで彼は自らによる発見をやっと考え返した;K――氏の指示の趣旨と重大な余りの業務に差し支える自身への危難を真面目に熟考すると終いには酷く当惑しつつも自分の直属の上司、授業補佐の助言を待つことに決めた。 この人は若い医師、ウルフ・マクファーレン、全ての向こう見ずな学生の間の大の人気者で、利口、放蕩、極度に無節操だった。彼は旅回って留学していた。その品行は人当たりが良くて僅かに進歩的だった。演壇の権威者で、氷かゴルフ場ではスケートかゴルフクラブに長けていた;素敵に豪胆に装い、さらに己の満悦の最後の仕上げを行うにギグ馬車と強壮な早駆け馬を保有するのだった。フェテスと彼は親密な間柄だった;実際、彼らの関係位置は人生の共同体か何かに匹敵した;そして実験対象が不足したとき、二人組はマクファーレンのギグ馬車で田舎へと遠く駆って訪れて誰もいない墓地を幾つか汚辱すると解剖室の扉へその略奪品を持って夜明け前に戻った。 他ならないその朝にマクファーレンはいつもよりも何やら早く着いた。フェテスは聞き付けて階段で彼と会い、自分の話を伝えながらその不安の原因を示した。マクファーレンは彼女の死体の傷痕を調べた。 「そうだ」、頷いて彼はいった、「怪しく見えるな」。 「さて、どうするべきか?」と訊いたフェテス。 「する?」と繰り返した相手。「君はしたいことがあるのか? 口は災いの元なんだぞ」。 「他の誰かは分かるかも知れない」と反対したフェテス。「彼女はキャッスルロックと同じくらい良く知られていた」。 「そうならないことを望もう」といったマクファーレン、「つまり誰かが分かっても――君には分からなかった、気付かないのか、つまり終わりだよ。実のところ、これは長らく続いて来ている。泥を掻き回せば君はK――を最も罪深い悩み事へ陥らせるだろう;君は不味い台にいるだろう。私もそうだろう、かりに君がそうなれば。私は私たちの誰がどのように見るのか、またはキリスト教の証言台のどれでも私たちがいい訳しなくてはならないのはどんな悪魔かを知りたいね。私からすれば君は一つのことを確かに知るんだ――つまり実際的にいえば私たちの実験対象は全て殺害されていると」。 「マクファーレン!」と叫んだフェテス。 「さぁさぁ!」とせせら笑った相手、「まるで君自身はそれを疑わなかったようだ」。 「疑うのは一つのことだ――」 「すると証明をもう一つ。そうしよう;つまり私は君と同じようにこれがここに来てしまって残念に思う」、彼は死体を杖でコツコツ叩きながら「次に最良なのは私にとってそれが分からないことだ。もはや」、冷ややかに付け加えた、「分からないな。君は分かるかも知れないが、呆れたことに。私は指図しない、ただし世間通は私と同じようにすると思うよ;さらに付け加えさせて貰うと、私はK――が私たちの手の中に何を期待するかということを思い描く。疑問は、なぜ彼が私たち二人を自分の助手に選んだか? すると答えるのさ、老妻を欲しなかったからだとね」。 これはフェテスみたいな若男の気持ちに影響を及ぼすべき特段の声色だった。彼はマクファーレンを模倣することに同意した。不幸な少女の死体は順当に解剖されて誰もいったり、彼女と分かるらしくはなかった。 ある午後、一日の仕事を終えてからフェテスは人気のパブへ立ち寄るとマクファーレンが知らない人と座っているのを見付けた。この人は小男で、非常に青白くて陰鬱で、黒炭の目をしていた。顔立ちの一片にはその品行から幽かに認められるばかりの知性と洗練の兆しがあった、というのも近くで知ってみるに粗野で低俗で愚劣だと判明しためだった。彼はしかしながら非常に顕著な支配力をマクファーレンに振るっていた;大パシャみたいに命令を出した;議論や遅れで少なからず、真っ赤になりながら自分が服従される奴隷状態への意見を荒々しく述べるのだった。この最も無礼な人物はその場でフェテスをとても好きになり、飲み物を彼に積み上げ、誉めて彼の過去の経歴に尋常ではない信頼を与えた。たとえ打ち明けたことの十分の一が真実だとしても正しく酷く不快な悪漢なのだった;さてや若男の虚栄心は大層な老練家の注目によって擽られた。 「俺自身は相当な悪者だ」、知らない人はいった、「しかしマクファーレンは下男だ――トディ・マクファーレンと俺は呼ぶ。トディ、お前の友人に、もう一杯、注文しろ」、さもなければ「トディ、跳び上がって扉を閉めろ」かも知れなかった、「トディは俺を憎む」、彼は又いった。「おぅ、そうだ、トディ、お前はな!」。 「私をその忌々しい名前で呼ぶな」と怒鳴ったマクファーレン。 「聞いてみろ! 奴がナイフを閃かすのを見たことがあったか? 俺の全身にそうしたいのさ」といった知らない人。 「僕たち医学生はそれよりも良い方法を持ちます」といったフェテス。「死んだ友達が嫌いならば解剖するんです」。 マクファーレンは鋭く見上げた、まるでこの洒落が殆ど意に介されなかったように。 午後は過ぎた。グレーは、つまりはそれが知らない人の名前なのだった、フェテスを自分たちの夕食に加わるように招くと贅沢なご馳走を注文した余り、パブは大騒ぎへと投げ込まれた。ついに全てが終わったとき、マクファーレンに勘定を済ませるように命じるのだった。彼らが別れたのは夜遅くだった;グレーの奴はどうしようもなく酔っていた。マクファーレンは怒りで素面のままに無駄遣いを強いられてしまった金の食い戻しと忍ばざるを得ないでいた冷遇を噛んだ。フェテスは頭の中で歌う種々な酒と共に遠回りの足取りとすっかり休止した気持ちで帰宅した。次の日、マクファーレンは授業を欠席した、するとフェテスは彼が依然としてパブからパブへと耐えられないグレーに付き従っていると想像しながら独りで微笑んだ。自由時間が告げられるや否や自分の昨晩の連れを求めてあちらこちらへ急ぎ回った。彼らを見出だすことはしかしながらできなかった;そして自室へ早く戻り、ベッドに早く入り、熟睡するのだった。 午前四時に彼は良く知る合図で起こされた。扉へ降りたとき、驚嘆で一杯になってギグ馬車とマクファーレン、そしてギグ馬車にとても良く知られたあれらの長くて怖ろしい荷造りの一つを見付けた。 「何だ?」、彼は叫んだ。「一人で出て行ったのか? どうやって上手くできたのか?」。 しかしマクファーレンは彼を粗暴に黙らせた、業務に向かうように告げながら。彼らが死体を階上へ持ち込んで机に置いたとき、マクファーレンは先ずはまるで立ち去るように振る舞った。それから止まって躊躇っていると思われた;そうしてから「顔を見た方が良いぞ」といった彼、何か強制的な調子で。「その方が良いぞ」、フェテスが彼の顔を驚いて見入るだけだったとき、彼は繰り返した。 「しかしどこで、どうやって、いつ手に入れたのか?」と叫んだ相手。 「顔を見ろ」が只一つの答えだった。 フェテスはふら付いた;奇妙な疑念に襲われた。彼は若い医師から死体へと見回すとさらに又戻した。終いにはギグっと勧められたようにした。殆ど目にした光景は予想されたもののそれでも衝撃は非情だった。見れば死の硬直でじっとしながら袋用麻布の粗末な層の上に剥き出しのまま、パブの戸口を良い身形で溌剌として罰当たりに去ったその人で、思い遣りのないフェテスの中にさえも良心の怯えが多少とも呼び起こされた。自分の知る二人がこれらの冷たい机に置かれることになってこそ魂に木霊する〈明日は貴方に死が訪れる〉だった。だが、これは二番目の考えでしかなかった。彼の最初の関心はウルフについてだった。そんな一大挑戦へは準備されないまま、己の僚友の顔をどう見るべきかは分からなかった。敢えて目を合わさず、もはや彼の命令に言葉も声もなかった。 最初に取り入ったのはマクファーレンだった。静かに後ろに近付いてその手を相手の肩に優しくもしっかりと置いた。 「リチャードソンは」といった彼、「頭を取るかも知れない」。 これまでリチャードソンは解剖するための人体のその部分について長らく気にかけていた生徒だった。返答はなく、さらに殺人者は続けた:「業務の話だけど、私に払わなくてならないよ;勘定を、だろう、取り纏めておくれ」 フェテスは自身の僅かな声を見付けた:「貴方に払う!」、彼は叫んだ。「それで貴方に払う?」。 「まぁ、そうだ、もちろんそうしなくてはならない。是非ともどんな仕方でもそうしなくてはならないよ」と返した相手。「私は只で渡しやしない、君は只で受け取りやしない;それで私たち両方とも妥協して解決するだろう。これはジェーン・ガルブレイスみたいな件とは別だ。もっと事態が悪化すればもっと私たちはまるで何もかも大丈夫なように行動しなくてはならない。老K――はどこに金を保管しているか?」。 「そこだ」と掠れ声で答えたフェテス、隅の食器棚を指しながら。 「鍵を渡して、それでは」と穏やかにいった相手、手を開きながら。 一瞬の躊躇いがあって賽は投げられた。マクファーレンは己の指の間に鍵を感じたとき、緊張した痙攣を、莫大な解放の微小な表れを抑えることができなかった。食器棚を開け、ペンとインクと一つの仕切りに立てかけられた冊子を取り出すと引き出しの資金からその場合に相応の金額を分けた。 「さぁ、ここを見ろ」、彼はいった、「払い込みがあった――君の誠意の最初の証拠;君の安全への第一段。今や第二でそれに決まりを付けなくてはならない。君の簿記に支払いを記入して、そうしたら君の方では悪魔を寄せ付けまい」。 次の数秒はフェテスにとって苦悶の思いだった;しかし怯えをバランスを取って打ち負かすのは間近だった。かりにマクファーレンへとの現在の仲違いを避けられたらどんな未来の困難も正に歓迎されるところと思われた。彼はずっと持っていた蝋燭を下ろすと安定した手で日付、種別、取り扱い金額を記入した。 「そして今や」といったマクファーレン、「君が利益をポケットに入れるや公平になるよ。私は自分の分け前を既に貰ったんだ。序でながら世人に幸運がちょっと巡り、余分なシリングを幾らかポケットに貰うとき――口に出すのは憚られるが、その場合の行動規範があるんだ。奢りなし、高い教則本の購入なし、古い借金の清算なし;借りろ、貸すな」。 「マクファーレン」と始めたフェテス、依然として何やら掠れた声で「僕は自分の首を貴方の頼みを聞き入れて絞首索に置いたんだ」。 「私の頼みを聞き入れて?」と叫んだウルフ。「おぅ、さぁさ! 君は私がその問題を確かめ得るかぎり、徹して自己防衛からしなくてはならないことをした。私が困ったことになったと思ってみてごらん、君はどこにいるだろうか? この第二の小さな問題は第一のものから明瞭に来ている。グレー氏はガルブレイス嬢の延長上にいる。始められなければそのときに止めるのさ。かりに始めれば始め続けなくてはならない;それが真実なんだ。悪党に休息なし」。 暗黒の恐怖感と掴まれた破滅の裏切りに不幸な生徒の魂は握られた。 「神様!」、彼は叫んだ、「しかし僕は何をしてしまったのか? もはやいつ始めたのか? 授業の助手にさせられたために――理由の名目で、それでどこに害悪があるのか? 勤務は立場を求めた;勤務はそれを得たかも知れない。〈彼〉は今の〈私〉がいるところにいたのか?」。 「お仲間よ」といったマクファーレン、「何という下男か! 君にどんな害悪が加えられて〈しまった〉のか? かりに口に出さずにいたら君にどんな害悪が加え〈られる〉のか? なあ、おい、この生活が何なのかが分かるか? 私たちには二つの部隊――獅子と子羊がある。もしも君が子羊ならばグレーかジェーン・ガルブレイスみたいにこれらの机に置かれることになるんだよ;もしも君が獅子ならば生きて私みたいに、K――みたいに、知恵や度胸を持つ世の中の人の誰かみたいに馬を駆るだろう。最初はふら付かされるさ。ところがK――を見ろ! お仲間よ、君は利口だ、勇気を持つ。私は好きだね、K――だって好きさ。君は狩りで過ごすために生まれた;そこでいっておく、私の名誉と人生経験に懸けて、今から三日後 、君は全てのこれらの虚仮威しを道化芝居での男子高校生みたいに笑うだろう」。 ついにそれでマクファーレンは出発すると昼前に身を隠すべく路地を己のギグ馬車で乗り上がって行った。フェテスはこうして悔やみながら一人で残された。自分が関わり合っている哀れな危難に気付いた。いい表せないくらい狼狽えたまま、己の弱さには限りがないと、そして譲歩から譲歩へと、自分がマクファーレンの運命の決定者から金を渡した救いようのない共犯者へと落ちてしまったと気付くのだった。彼はそのときに多少とも勇敢になるためのどんな犠牲も厭わなかったが、自分が依然として勇敢かも知れないと思い当たることはなかった。ジェーン・ガルブレイスの秘密と日誌の呪うべき記入に口は閉ざされた。 数時間が過ぎた;学徒たちが到着し始めた;不幸なグレーの各部が一人又一人と分配されると何もいわずに受け取られた。リチャードソンは頭を貰って嬉しがった;すると自由時間の鐘が鳴る前にフェテスはそれらが如何に遠く既に安全な方へ向かったことかと悟って狂喜に震えた。 二日間、誤魔化しの実に酷い成り行きを増加する楽しさと共に見守り続けた。 三日目にマクファーレンが姿を現した。病気だった、彼はいった;しかし生徒たちを指導する精力によって失われた時間を埋め合わせた。殊にリチャードソンへは最も有益な援助と助言を差し出した、するとそんな生徒は実験補佐の称賛で励まされながら野心的な希望に強く燃えてもう掴んだメダルを思い浮かべた。 一週間が終わる前、マクファーレンの予言は果たされたのだった。フェテスは己の怯えを生き抜くと己の卑劣さを忘れたのだった。度胸を得意がり始めると不健全な誇らしさでこれらの出来事を見返すことができるくらい物語を自分の気持ちで脚色したのだった。己の共犯者とは少しだけしか見えなかった。彼らは授業の業務中にもちろん会った;自分たちの命令をK――氏から一緒に受け取った。時偶、一言か二言を個人的に交わしたし、マクファーレンは最初から最後まで取り分け優しくて楽しかった。ただし自分たちの共通の秘密に触れることを少しでも避けているのは明白だった;つまりフェテスが獅子と運命を共にしながら誓って子羊を拒否したと彼に話したときでさえも彼は沈黙を守っておくように笑顔で彼に合図するだけだった。 やっと二人組をもっと親しい結び付きへ、もう一度、放り込む機会が生じた。K――氏は実験対象が又不足した。教え子たちは熱心で、いつもしっかり補充されていることがこの教師の自負する重要な部分だった。とするとグレンコースの鄙びた墓地の埋葬の報せが届いた。時間は殆ど場所を問うことはなかった。それは、そのとき、現在のように十字路に人の居住の求めから位置しており、六本のヒマラヤ杉の木の郡葉の深くへ埋もれていた。近隣の丘の羊の鳴き声、両手の細流、一方では小石の間でさらさら音を発て、他方では池から池へとひっそり滴りつつ、山地の古い花咲く栗の木の風の戦ぎ、七日に一度の鐘の鳴る音と先唱者の古い正調、そんな音だけが鄙びた教会の辺りの静けさを掻き乱していた。復活者――その頃の通り名として使われた――は慣習的な信心のどんな神聖によっても阻止されることはなかった。軽蔑して古い墓の巻物と喇叭、参拝者と会葬者に歩き古された小道、遺族の愛情の供物と碑文を汚辱することがその商売の役割だった。鄙びた地方へ、そこは愛が並大抵ではなく強く、さらにそこは幾つかの血縁か友好の絆で教区の社会全体が結ばれていたが、死体泥棒は自然な敬意から不快感を与えられるどころか、その仕事の平易と安全から魅せられていた。地中に横たえられた死体に、全く異なる目覚めを喜ばしく見込んで、あの慌ただしい、ランプに照らされた、怯えに付き纏われた踏み鋤と根掘り鍬による復活が訪れた。棺は抉じ開けられた、死に装束は破かれるまま、すると憂鬱な遺体は袋用麻布を着せられ、月のない間道を、数時間、ガタガタ走られた後にやっとぽかんと口を開けた少年たちの授業の前に極めて侮蔑的なまでに晒された。 何やら二羽の禿げ鷲が瀕死の子羊に飛びかかるかのようにフェテスとマクファーレンはあの緑に覆われた静かな安息地の墓に解き放たれることになった。農分の妻、六十年を生きて美味しいバターと信仰厚い会話以外に知られずにいた女性が真夜中に己の墓から根刮ぎにされると死んで裸で自分がいつも晴れ着で訪れていたあの遠方の町へ運ばれることになった;その家族の横の場所は最後の審判の日まで空くことになった;彼女の罪のない殆ど畏れ多い各部は解剖学者のあの最も不相応な好奇心へ晒されることになった。 ある午後遅く、二人組は出発した、クロークにすっぽり包まれて強烈な酒を持ち寄りながら。雨が容赦なく降った――冷たく、濃く、打ち据える雨が。偶さか一陣の風が吹いたが、落ちる水のこの面に抑えられた。酒ばかり、悲しみと静けさの馬車旅はペニキュイック、彼らが夜を過ごすことになるところまでだった。一度、止まったのが自分たちの用具一式を教会墓地から遠からず、厚い茂みの中に隠すためだった、さらに、もう一度、フィッシャーズトリストが台所の火の前で祝杯を上げながらウイスキーの飲む量をエールのグラスに変えるためだった。旅の終わりに達したとき、ギグ馬車は仕舞われ、馬は餌を貰って寛ぎ、二人の若い医師は個室で、その店が出せる最高の晩餐と最高の葡萄酒の席に着いた。明かり、火、窓を叩く雨、目前に広がる冷淡で、不適当な仕事が食事の楽しみに妙味を添えた。あらゆるグラスで彼らの温情は増大した。直ちにマクファーレンは小さく積んだ金貨をその連れに手渡した。 「賛辞を」、彼はいった。「こんな少しの下××い用立てがパイプ点火用の紙縒りみたいに飛散するべき友達同士に」。 フェテスはその金をポケットに入れるとその所感を大々的に称賛した。「貴方は哲学者だ」、彼は叫んだ。「僕は貴方を知るまで頓馬だった。貴方たちの間の貴方とK――に、誓って! さてや一人前の男にして貰ったな」。 「もちろんのことさ」と称賛したマクファーレン。「一人前の男? いっておくよ、この前の朝、私を支援することに一人前の男が要求された。下××いことを目にして気分を悪くしただろう大柄の怒鳴り立てる四十歳の臆病者が何人かいたんだ;君ではない――君は冷静さを保った。私は見守った」。 「まぁ、そうだよな?」、フェテスはこうして自慢した。「それは私のことではない。掻き乱されるしか一方ではなかったにせよ、他方では貴方の感謝を当てにすることができた、分かるだろう?」。すると自分のポケットをピシャリと打っては金貨が鳴るまでだった。 マクファーレンはどうもある警告の触りをこれらの不快な言葉から感じた。自分の若い連れを余りにも首尾良く指南してしまったと後悔したかも知れないが、口出しする暇はなかった、というのも相手が喧しくこんな自慢話を続けた:――。 「凄いことは怖じ気付かないことさ。今、貴方と僕の間で、僕は首を括りたくない――それが実際上だ;しかし御託にもせよ、マクファーレン、僕は侮蔑を持って生まれた。地獄、神、悪魔、正、不正、罪当たり、犯罪、または全ての好奇心の古い美術館――それらに少年たちは恐がらされるかも知れないが、世間通は貴方と僕みたいに軽蔑する。グレーを偲んで乾杯!」 このときには夜も稍遅くなっていた。ギグ馬車は注文通り、扉へ持ち回されて二つのランプを明るく輝かしており、若者たちは勘定を済ませると道を進むに違いなかった。自分たちはピーブルスへ行くと告げると町の最後の家並みから離れるまでその方角へ駆った;それからランプを消しながら自分たちの行路を戻るとグレンコースの方へ脇道を辿った。彼ら自身が移動するのと引っ切りなしに耳障りに降り注ぐ雨しか音はなかった。真っ暗闇だった;ここそこで白い門か壁の白い石が彼らを、夜通し、短区間で先導していた;ただし大部分は常歩で、もはや殆ど手探りしながら自分たちの道を厳粛な孤立した目的地へその共鳴する暗黒を越えて拾って行くのだった。埋葬地の近隣を横切る沈んだ森の中で最後の微かな光が失われると彼らはマッチを灯してギグ馬車の角灯の一つを又照らさなければならなくなった。こうして滴る木々の下で巨大に動く影法師に包囲されながら自分たちの不浄な労働の現場に到着した。 彼らは両者ともそんなことには慣れており、踏み鋤は力強かった;そして仕事は殆ど二十分と費やされないうちに棺の蓋が鈍くガタガタと報いられた。と同時にマクファーレンは手を石で負傷しながら頭の上にうっかり放り出した。墓は今や殆ど肩まで入られていたが、墓地の台地の端に近かった;しかもギグ馬車のランプは彼らの労働を良く照らして木に立てかけられていたにせよ、小川へ下りる急勾配の岸の間際だった。例の石が危険を正しく呼び寄せていた。そのとき、割れる硝子のガシャーンという音が来た;不意に暗くなった;交互に鈍っては鳴り響く音が岸の下へ跳ね返る角灯とその木々との時折の激突を告げた。一二個の石がその落下で剥がされていたが、谷間の深みへと後からガタガタ鳴った;するとそして静寂が夜みたいに又支配した;ついに彼らは甚だ聞き耳を立てるかも知れなかったが、聞こえるのは雨以外に何もなく、時に風で進んで行って時に開けた土地の何マイルもしっかり降り尽くすのだった。 彼らは忌み嫌われた仕事の終わりに近付いたので、闇の中で仕上げることが最も賢いと判断した。棺は掘り起こされると壊して開けられた;滴る大袋に入れられてギグ馬車へ彼らの間で運ばれた死体;一人はそれを定位置に保つために登ってもう一人は馬の口を取りながらフィッシャーズトリストのそばの広い道に出るまで壁と茂みに沿って手探りした。微かに放散する光線が来るや彼らは昼みたいに歓呼して迎えた;それによって馬を快調に押しながら町の方角へ陽気にガタガタ進み始めた。 彼らは両者とも作業の間に肌まで濡れてしまっていた、そして今やギグ馬車が深い轍の中で跳び跳ねながら彼らの間に立てかけられたものが時に一人に、時にもう一人に落下した。恐るべき接触のあらゆる繰り返しの全てにどちらも直感的にそれを大慌てで追い払った;そして成り行きは当たり前だったけれども連れ同士の神経に堪え始めた。マクファーレンは農家の妻に不快な冗談を少し飛ばしたが、唇から白々しく現れては沈黙に落とさたた。依然として彼らの非道な荷物は端から端へとドンと打ち当たっていた;そして時に頭がまるで親密なように肩に置かれ、そして時にびしょ濡れの袋用麻布が顔の辺りに冷たくはためくのだった。忍び寄る慄きがフェテスの魂を捕え始めた。その包みをじっと見るとどうも初めよりも大きいと思われた。地方全域、もはやあらゆる遠方から農家の犬が彼らの移動に悲惨な遠吠えを上げて付いて来た。するとどんどん何かの非道な奇跡が成し遂げられてしまったのだと、何かのいいようのない変化が亡骸に起きてしまったのだと、犬が遠く吠えているのは自分たちの罪深い荷物を恐れているのだという気持ちになった。 「お願いだから」といった彼、言葉を放つのもやっとのことながら「お願いだから、明かりを付けよう!」。 一見、マクファーレンは同じ方向に心を動かされた;というのも返事はしなかったけれども馬を止め、手綱をその連れに渡し、下り、進んで残りのランプを灯したためだった。彼らはそのときにはオーシャンクリニーへ至る交差点まで来ていた。雨は依然としてまるで豪雨が戻っているように降り注いで明かりをそんな水と闇の世界で取ることは簡単な問題ではなかった。ついにちら付く青い炎が蝋燭の芯に移されると広がって明るみながら大きな丸いぼんやりとした明るさをギグ馬車の周りに発し始めたとき、二人の若者は互いの顔と自分たちの引き連れるものを見ることが可能となった。雨で粗い袋地は下の死体の輪郭に象られていた;頭は胴体と異なり、肩はくっきりと形に表されていた;幽霊でありながら人間の何かで彼らの目は自分たちの馬車旅の怖ろしい道連れに鋲留めにされた。 暫くの間、マクファーレンは身動きせずに立っていた、ランプを掲げながら。いいようのない恐ろしさが濡れた膜みたいに死体の周りを包んでおり、フェテスの顔の白い肌は固まった;意味のない恐さ、あり得ないものへの恐怖が彼の脳へ上り続けた。時計が又一つ刻む音、そして彼は話したのだった。しかしその僚友が彼に先んじた。 「女性ではないぞ」といったマクファーレン、静かな声で。 「僕たちが入れたのは女性だった」と囁いたフェテス。 「ランプを持ってくれ」といった相手。「顔を確かめなくてはならない」。 そしてフェテスがランプを取ったときにその連れは大袋の締め具を解くと頭から覆いを引き下ろした。明かりは闇、良く象られた顔立ち、これらの若者の両者とも、屡々、夢の中で目にしたような馴染み深過ぎる顔立ちの滑らかに剃られた頬に非常に明瞭に落ちていた。狂気の叫び声が夜へと鳴り響いた;それぞれが車道へ自身の側から跳んだ:ランプは落ち、壊れ、消えた;すると馬はこの尋常ではない大騒ぎに脅かされたので、跳び上がって襲歩でエディンバラの方へ去って行った、それ、ギグ馬車の唯一の乗員、死人で長く解剖されたグレイの死体を一緒に運びながら。 参考サイトR.L.スティーヴンソン『死体泥棒』 英語の小説の日本語訳 コメント 新しい投稿 前の投稿
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