ツタンカーメンの黄金のマスクはなぜ美しいのか 結城永人 - 2016年11月26日 (土) 一度、見たら忘れられないような感じがしてしまうツタンカーメンの黄金のマスクだけれども本当に美しいとしかいいようがないわけなんだ。 ツタンカーメンの黄金マスクに心から感動せずにいない The golden mask of Tutankhamun (front) by Wael Mostafa / CC BY-SA 古代エジプトでは珍しくなかったはずの王の煌びやかな副葬品の一つながら盗賊によって殆どが持ち去られてしまって現代まで残っている黄金のマスクはツタンカーメンの他には二つ(プスセンネス一世とアメンエムオペト)くらいしかないらしい。 心から感動するのは民芸品のせいだ。現物はエジプトのエジプト考古学博物館に所蔵されている。美術的な価値は高くて値段を付ければ数百兆円とも聞かれるにせよ、制作動機はやはり飽くまでも些細な日常だろう。 ツタンカーメンの黄金のマスクには人々の生活が非常に強く反映している 端的には血の温もりに満ちていて文化や趣味嗜好や世界観が作品から透けて見えるような印象を与えるところが良い。 古代エジプトならではの風土的な造形があって他の地域でも別の時代でも無理だろうから知るほどにかけがえもなく魅了されてしまう。 ツタンカーメンの黄金のマスクは建物の壁画や木彫りの人形とも表現スタイルには差がなくてとにかく金で彫像された点が特徴的だ。 The golden mask of Tutankhamun (back) by Tarekheikal / CC BY-SA 気持ちがまるで生き物のように伝わって来る。イメージではなくて気持ちにリアリティーがある。亡くなった、命を落とした王のために作成された民芸品の一種の副葬品だけれども作者には復活して欲しい願いが隠し切れないのではないか。奥深く引き込まれるのはリアリティーがイメージではなくて気持ちだから霊魂よりも本体へ向けて差し出されているためだ。一つの願いを込めた祈りが胸を熱くさせるし、認めたかぎり、もはや出色の美しさへは別れを告げるのも容易ではなくなる、以前から待ち焦がれてでもいたかのようで。 古代エジプトの死者をミイラとして保存する思想から本体が大事にされる だからこそ黄金のマスクが必要だったんだろう、王ならばツタンカーメンにも。リアリティーを持って本体から復活して生き返らなくてはならない。現代は霊魂だから全く違う。葬儀の色使いを比べると黒は瞳だけの豪華絢爛な古代エジプトでは人々は生死の繋がりを完全に信じていたといって差し支えないと考える。 ツタンカーメンの黄金マスクに神秘的な魔力を受け取る The Excavation of Tutankhamun’s Mummy | King Tut in Color|National Geographic 死者は来世でも現世と同様だからミイラにしておくと復活する可能性が非常に高いと考えられるし、すると黄金のマスクには一つの期待がかけられていたようだ。輝きを放って太陽の光と共に悲しみから起き上がらせる、目の前の王の存在を。ツタンカーメンは絶望の淵を逃れて歩き出しながら幸せに再び暮らすはずだった。 美しさが永遠であり、終わりない人生こそ指し示している、思想的にいって ツタンカーメンの黄金のマスクを敢えて霊魂とは結び付けずに死者の本体からのみ捉えてみたい。古代エジプトのミイラも見たままの死体、身動きの取れない亡骸そのものではあり得なかった。なので王としての人生は棺に倒れながらも続き続けていて人々の思い通りに現世と変わらない美しさを来世で湛えているわけだ。 神秘的な魔力が非常に大きい。死と眠りの根源的な振り分けが求められるし、どうして起きないかの問いかけだけが親身に同様に受け取られているに過ぎない。事物の認識においてきっと古代エジプトでは絶命の観念も葬儀に基づいていたのではないか。 The golden mask of Tutankhamun (front left) by Manadily / CC BY-SA 人は葬儀なしに死を得てはならない。素晴らしいと感じるのは《貴方の目覚め》が心から待ち望まれているせいだろう。葬儀によって死者は逆に眠りから起きるようになる。 現代と相反するのは詩的にせよ、それも霊魂としての存在ではないところだけど、ツタンカーメンの黄金のマスクの美しさが永遠ならば古代エジプトを物語っているのは本体を伴っていなければならなくて死と眠りとの根源的な振り分けが極めて小さかった。 人々の心は純粋そのもので、生きていて欲しいから死者も、寸分、違わないように出会われてしまったはずだし、ミイラにして保存するのが正しいとなるのではなかったか。 些細な日常といって良いよ、ツタンカーメンの黄金のマスクは紛れもなく 今此処では涙を止められるかどうかこそ定かではないくらい美しい。なぜなら純粋そのものとは何かを教えてくれるからだ。心で触れられた、もはや人々が死者を手厚く葬るかぎり。麗しく送られるべきツタンカーメンの黄金のマスクによって世界が透き通るようにもまさか受け留められて来る。味わい尽きない魅力に打ちのめされては甚だしくも注目せざるを得なくなる。 参考サイトエジプト考古学博物館ツタンカーメンの仮面の作り方黄金のマスク コメント 新しい投稿 前の投稿
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