L・フランク・ボームの硝子犬の日本語訳
アメリカの作家、小説家で戯曲家のL・フランク・ボームの童話集アメリカのお伽噺(1901)の収録作品の硝子犬の日本語訳を行った。
作品の出典
- The Glass Dog by L. Frank Baum/L・フランク・ボームの硝子犬
- 原文:Project Gutenberg(作品集)
- 朗読:LibriVox(マシュー・リース)
※一部に誤字があってhis hoes→his shoesが正しいようだ。
両方ともパブリックドメイン(著作権なし)だから無料で自由に使って構わない。
日本語の訳文

熟達した魔法使いがかつて借家の最上階に考え込んだ研究と研究熱心な考えで過ごしていた。魔法について知らないことは少しも知っておく価値がなかった、というのも彼は彼以前に生きた全ての魔法使いの全ての書物と処方箋;さらには幾つかの魔法を自分自身で発明していたのを所有するためだった。
この天晴れな人は困難(彼は興味がなかった)を抱えて相談に来る皆や氷屋、牛乳屋、パン屋のお使い、洗濯屋、ピーナッツ屋の女の大きなドア叩きによって引き起こされる研究への非常に多くの妨害がなければ完璧に幸せなのだった。彼はこれらの全ての人たちに決して取り合わなかった;しかしこれやあれを尋ねようと、または品物を売ろうと、毎日、扉をコツコツ叩かれた。本に最も深く興味を示したか大釜の泡立ちの観察に従事した矢先にもドアを叩く音が聞こえるのだ。すると彼は邪魔者を追い返したあと、いつも一連の考えを取り零したか調合を台なしにしてしまったと気付いた。
ついにこれらの妨害に怒りを起こして彼は人をドアに近寄らせないために犬を飼うべきだと決めた。どこで犬が見付かるかが分からなかったが、隣の部屋に貧しい硝子吹き工が住んでいて僅かに面識があった;なのでその人のアパートへ入って訊いた:
「犬はどこで見付かるかな?」
「どんな種類の犬?」と尋ねた硝子吹き工。
「良い犬。人に吠えて追い払うもの。飼うのが簡単で餌を貰えると思わないもの。蚤がいなくて常に清潔なもの。叱れば従うもの。縮めて良い犬」といった魔法使い。
「そんな犬を見付けるのは難しい」と返した硝子吹き工、ピンクの薔薇の木のある青い硝子の植木鉢を作るのに忙しかったが、緑の硝子の葉っぱと黄色の硝子の薔薇を持ちながら。
魔法使いは考え込んで彼を観察した。
「硝子で犬を吹いてくれよ?」、彼は間もなく頼んだ。
「構わない」と宣した硝子吹き工;「ただし人には吠えない、分かる」
「おぅ、いとも容易く直すさ」と返した相手。「犬を吠えさせることができなければ物凄く下手な魔法使いだろう」
「結構;硝子の犬を使ってくれるならば喜んで貴方のために一つ吹こう。とはあれ、仕事は只ではないぞ」
「確かに」と応じた魔法使い。「しかしお金と呼ばれるそんな不気味な材料は持ってないんだ。私の品物の一部と交換しなくてはならないよ」。
硝子吹き工はこの問題を、ちょっとの間、検討した。
「リウマチを治すものを貰えるかい?」、彼は求めた。
「おぅ、はい;容易く」
「ならばそれで決まりだ。早速と犬で行くぞ。何色の硝子を使おうか?」
「ピンクが可愛い色だ」といった魔法使い。「なのに犬にしては珍しいよな?」。
「非常に」と答えた硝子吹き工;「しかしピンクにしよう」
そうして魔法使いは己の研究へ戻って行くと硝子吹き工は犬を作り始めた。
翌朝、彼は魔法使いの部屋に小脇に硝子犬を抱えて入るとそれをテーブルの上に慎重に据えた。美しいピンクの彩りで、硝子繊維で上質に覆われ、首の周りに捻れた青い硝子のリボンがあった。目は黒い硝子の小さな点で、賢そうに煌めいた、人が着ける義眼の多くのように。
魔法使いは硝子吹き工の手並みに喜びの意向を示すと直ぐに小さな薬瓶を手渡した。
「これでリウマチは治るだろう」、彼はいった。
「しかし空っぽの薬瓶だぞ!」と抗議した硝子吹き工。
「おぅ、いいえ;一滴の液体が入っている」が魔法使いの返事だった。
「一滴でリウマチが治るのか?」と尋ねた硝子吹き工、驚いて。
「正しく確かに。それは信じられない治療薬だ。薬瓶に含まれる一滴が今まで人間に知られたどんな病気でも瞬時に治すんだ。従ってリウマチに殊の外と効く。ただし十分に注意して、世界のその類も稀な一滴だから、もはや私は処方箋を忘れてしまった」
「ありがとう」といった硝子吹き工、すると自分の部屋へ戻って行った。
それから魔法使いは唸りを立てる呪文を唱えて硝子犬に魔法使い風の言語の幾つかの非常に習得された言葉をもごもごいった。そうすると小さな動物が最初は尻尾を左右に振り、それから左目を訳知りに瞬き、そしてついに最も恐ろしいふうに吠え始めた――いってピンクの硝子犬が発した騒音と見做すのを止めるときには。そこに魔法使いの不思議な術の今にも仰天しそうな何かがある;さもなければもちろん自ずとそのことはどうやるかが分かるのだ、誰もそれらに驚くと思われないときには。
魔法使いは呪文の成功に学校の先生と同じくらい大喜びした、仰天しなかったけど。直ぐに犬をドアの外側の敢えてドアを叩いて主人の研究を余りにも妨害する人に吠えるだろうところに置いた。
硝子吹き工は部屋に帰り、丁度そのとき、魔法使いの一滴の万能薬を使わないと決めた。
「リウマチは今日は良い」、案じた、「大変に病んだとき、使ってもっと助かるときのために薬は取っておくのが賢明だろう」。
なので彼は薬瓶を食器棚に置くと硝子でもっと薔薇を吹く仕事へ向かった。間もなく薬は保存できないかも知れないと偶さか思い付いたので、それについて魔法使いに訊きに出かけた。しかしドアに着いたとき、彼は犬が獰猛に吠えるために敢えてドアを叩かずに大急ぎで自分の部屋へ戻った。実際、その貧乏人は自分自身が大変に慎重に巧みに作った犬からの大変に不親切な応対に非常に動揺した。
翌朝、新聞を読みながらある記事に気が留まり、美しいマイダス嬢、町で最も豊かな令嬢が大変に病んでしかも医者は回復の望みを諦めたというのだった。
硝子吹き工は惨めに貧しく、働き詰めで、顔立ちは地味だったけど、発想が豊かな人だった。貴重な薬を突然と思い起こすや自身の病気を和らげるよりももっと役立てて使おうと決意した。彼は自らを一張羅で着飾り、髪にブラシをかけ、頬髭を梳り、手を洗ってネクタイを締め、靴に墨を塗り、ヴェストに海綿をかけ、それから魔法の万能薬の薬瓶をポケットに入れた。次いで彼は部屋の鍵をかけ、階段を下り、通りを抜けて裕福なマイダス嬢が居を構える大邸宅へ歩いた。
使用人頭がドアを開けていった:
「石鹸無用、クロモ石版無用、野菜無用、髪油無用、本無用、膨らし粉無用。ご令嬢は死に瀕し、もはや私共は葬儀のために良く満たされてます」
硝子吹き工は行商人と取られたことに深く悲しんだ。
「友よ」、彼は始めた、堂々と;しかし使用人頭は遮った、いいながら:
「墓石も無用;菩提所があって記念碑は建てられました」
「墓所は要らないでしょう、もしも私に話させて下されば」といった硝子吹き工。
「医者は無用です、貴殿;彼らはご令嬢を諦め、ご令嬢は彼らを諦めました」と続けた使用人頭、穏和に。
「私は医者無用です」と返した硝子吹き工。
「他の人も無用です。さてや貴方の用事は何ですか?」
「私は不思議な調合物を用いてご令嬢を治そうと案じてます」
「お入り下さい、どうぞ、そして玄関の広間にお掛け下さい。家政婦に話しましょう」といった使用人頭、より丁寧に。
そうして彼が家政婦に話すと家政婦はその問題を執事に触れて執事はコック長に相談してコック長は侍女に口付けしながら客と会うべく送り出した。このように正しく裕福な人は儀式張って周りを取り囲まれている、臨終のときでさえも。
侍女は硝子吹き工からその女主人を治すだろう薬があると聞いたとき、いった:
「来て頂いて嬉しいです」
「ただし」といった彼、「貴方の女主人が健康を取り戻したら彼女は私と結婚しなくてはなりません」。
「問い合わせて彼女にそうする意志があるかどうかを確めましょう」と答えたお手伝い、そしてマイダス嬢に直ぐに相談しに向かった。
令嬢に一瞬の躊躇いもなかった。
「死ぬよりはむしろどんな相手とでも結婚します!」、彼女は叫んだ、「直ぐにここに彼を連れて来て頂戴!」。
なので硝子吹き工はやって来、少量の水にと不思議な滴を注ぎ、患者に与えた、すると次の瞬間に生涯で嘗てと同じくらい良くなった。
「おや、まあ!」、彼女は声を上げた;「今夜はフリッター家の歓迎会に約束があります。真珠色の絹服を持って来て頂戴、マリー、それと直ぐにお化粧を始めましょう。それと弔花と貴方の喪服の注文も撤回するのを忘れないで頂戴」
「しかしマイダス嬢」と反対した硝子吹き工、待ち構えて「貴方は私と結婚すると約束しました、私が貴方を治せば」。
「そうです」といった令嬢、「ですが社交新聞に然るべく発表して結婚式招待状を印刷して貰うために時間がかかるのです。明日、電話して下さい、それから話し合いましょう」。
硝子吹き工は彼女に夫として好ましい印象を与えなかったし、彼女は、暫くの間、彼を遠ざける口実が見付かったのが嬉しかった。すなわちフリッター家の歓迎会を逃したくなかった。
だが、その人は喜びで一杯で家に帰った;というのも計略が功を奏したと考えたし、その後は永遠に贅沢を続けられる豊かな妻と結婚しかけているためだった。
彼が部屋に着いて最初にしたのは自らの硝子吹き用具の打ち壊しと窓からの投げ捨てだった。
それから座り込んで妻のお金の使い方を計算した。
翌日、彼はマイダス嬢を訪ねたが、小説を読んでいて生涯で決して病気にかからなかったかのように幸せにチョコレートクリームを食べていた。
「貴方は私を治した不思議な調合物をどこで手に入れたのですか?」、彼女は訊いた。
「博学の魔法使いからです」といった彼;それから彼女の興味を引くだろうと考えたので、如何に自分が犬を魔法使いのために作ったか、そしてそれが如何に吠えながら誰彼に魔法使いを五月蝿がらせないかを話して聞かせた。
「どんなに楽しいでしょう!」、彼女はいった。「私は吠えることのできる硝子の犬をいつも欲してました」。
「ですが世界に只一つだけです」、彼は答えた、「つまり魔法使いのものです」。
「買わなくてはなりませんね」といった令嬢。
「魔法使いはお金には構わないのです」と返した硝子吹き工。
「それでは盗まなくてはなりませんね」、彼女はいい返した。「吠えることのできる硝子の犬を飼わなければ私はもう一日も幸せに決して生きられません」。
硝子吹き工はこれにとても悲しくなったが、自分はやれるはずだといった。というのも人は己の妻をいつも喜ばそうと努めるべきだし、マイダス嬢が一週間以内に自分と結婚すると約束したためだった。
帰路、彼は大きな袋を購入した、そして魔法使いのドアを通ってピンクの硝子犬が走り出て吠えたとき、犬に袋を被せて一本の麻紐で口を結わいて自分の部屋へ持ち去った。
翌日、使い走りに頼んでその袋をマイダス嬢へ送り、宜しくと添えたが、さらに午後遅くに自分で彼女を訪れた、大層と強く熱望された犬を盗んだために有り難く迎えられるだろうと確信を抱きながら。
しかし彼がドアに来て使用人頭が開けたとき、硝子犬が飛び出して猛烈に吠え始めるのを見ての驚異とは何だったか。
「犬を止めて下さい」、彼は叫び出した、怖がって。
「できません、貴殿」と答えた使用人頭。「ご令嬢が貴方がここで呼んだときはいつでも吠えるように硝子犬に命じたのです。ご注意下さいませ、貴殿」、付け加えた、「つまり噛まれた場合は発言恐怖症になるかも知れません!」。
貧しい硝子吹きはこれに怯える余り、大慌てで帰って行った。しかしドラッグストアで止まると最後の10セントを電話室で使って犬に噛まれずにマイダス嬢と話すことができた。
「ペルフ6742へ繋いで!」、彼は電話した。
「もしもし! どんなご用ですか?」といった声。
「マイダス嬢と喋りたいのですが」といった硝子吹き工。
間もなく魅力的な声がいった:「こちらはマイダス嬢です。どんなご用ですか?」
「なぜ貴方はあんなに惨い扱いで、私に犬を嗾けるのですか?」と訊いた貧しい輩。
「ええと、実をいうと」といった淑女、「貴方の見た目が好きではありません。頬は青白くてだぶだぶで、髪は粗末で長く、目は小さくて充血し、手は大きくて毛むくじゃらで、がに股なのです」。
「ですが見た目はどうにもなりません!」と弁解した硝子吹き工;「しかも貴方は私と結婚すると現実に約束しました」。
「見た目が良ければ約束を守ります」、彼女は返した、「ですが私に見合う伴侶ではない例の状態ですし、もはや私の邸宅から離れないかぎり、貴方には硝子犬を嗾けましょう!」、それから彼女は電話機を置くともう何もいわないのだった。
惨めな硝子吹き工は落胆で張り裂ける心で家に向かい、自分自身の首吊りに寝台支柱へ一本の綱を試み始めた。
誰かがドアを叩き、開けるや魔法使いと会った。
「私の犬がいなくなってしまった」、彼は告げた。
「しまったか、本当に?」と綱に結び目を試みながら返した硝子吹き工。
「はい;誰かが盗んでしまった」
「それは余りにも酷い」と宣した硝子吹き工、無頓着に。
「もう一つ作るべきだね」といった魔法使い。
「しかしできない;道具を投げ捨ててしまった」。
「それでは私はどうしようか?」と訊いた魔法使い。
「分からない、犬の報酬を出して貰わなくては」。
「しかしお金は持ってない」といった魔法使い。
「調合物の一部を出しなよ、それでは」と提案した硝子吹き工、綱に頭を通り抜けさせる引き結びを作っていたが。
「私に与えられる唯一のものは」と返した魔法使い、考え込んで「美人の粉だ」。
「何!」と叫んだ硝子吹き工、綱を投げ下ろしながら「現実にそんなものがあるのか?」。
「はい、本当に。その粉薬を取る者は誰でも世界で最も美しい人間になるのだ」
「貴方がそれを報酬として出すならば」といった硝子吹き工、熱心に「私は犬を見付け出してみせよう、何よりも優先して美しくなりたいのだから」。
「ただし美しいのは皮一重でしかないと断っておくぞ」といった魔法使い。
「大丈夫」と返した幸せな硝子吹き工;「自分の皮でなくなれば美しいままで構うまい」
「それではどこで犬が見付かるかを教えてくれ、すれば粉薬を得よう」と約束した魔法使い。
なので硝子吹き工は出て行って捜索する振りをし、そしてそろそろ戻るといった:
「犬を発見した。マイダス嬢の邸宅で犬は見付かるぞ」
魔法使いはこれが真実かどうかを確めに直ぐに向かった、すると十分に確かで、犬は走り出ると彼に吠え始めた。それから手を広げて深く眠らせる不思議な呪文を唱えた、そのとき、犬を拾い上げると借家の最上階の自分の部屋へ持って行った。
その後、彼は美人の粉を報酬として硝子吹き工へ持って行った、するとその輩は直ぐに飲み込んで世界で最も美しい人になった。
次に彼がマイダス嬢を訪ねるとそこに吠える犬はいなかった、そして令嬢が彼を見たとき、直ぐにその美しさと恋に落ちた。
「もしも貴方が伯爵か王子でありさえしたら」、彼女は溜め息を吐いた、「私は進んで結婚したでしょう」。
「さてや私は王子です」、彼は答えた;「犬吹き工の王子」
「あぅ!」といった彼女;「それでは貴方が一週間に4ドルのお小遣いを受け入れる意志がおありならば私は結婚式招待状を印刷して貰うように注文しましょう」
その人は躊躇った、しかし寝台支柱にかかる綱を考えたとき、彼はその条件に同意した。
なので彼らは結婚した、もはや花嫁は夫の美しさに大変に嫉妬しながら彼に犬の生活をさせた。なので彼はどうにか借金しながら今度は彼女を惨めにした。
硝子犬に関しては魔法使いが己の魔法を用いて再び吠えるようにしてドアの外側に置いた。未だそこにいるだろうし、私はむしろ残念に思う、というのも物語の教訓について魔法使いに相談したかったためだ。
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