石原裕次郎が太陽にほえろ!の最終回のために考えた命の尊さ 結城永人 - 2022年7月15日 (金) 日本のテレビの名作の一つ、語り継がれる刑事ドラマの太陽にほえろ!で主役の藤堂俊介/ボスを演じた石原裕次郎が1972年から1986年まで十四年七ヵ月という長い放送を締め括る最終回【そして又、ボスと共に】(第718話)に自身で考えて披露した台詞があった。本人が肝内胆管炎の入院で出演が減ってもはや続けられないために打ち切りが決定されたといわれる。以前にも解離性大動脈瘤の手術――1981年当時、生還率が3%といわれる中、奇跡的な成功を遂げたのが大きなニュースにもなった――で何ヵ月か休んだことがあって二回目の降板中で、結局、翌年に五十二歳で亡くなってしまう。観たら最終回の台詞は命の尊さを親身に語りかける内容で、その場面は彼自身の大病の経験を交えた本当に素晴らしい演技だったから記憶に留めたくなる。 太陽にほえろ!の最終回のボスの落としの場面 ボスの七曲署の部下の澤村刑事/ブルースが自動車窃盗犯の恩田三郎を追って廃工場へ入ると津坂に銃撃されて連れ去られる。津坂は、以前、自分の兄の肇が強盗事件でブルースに拳銃で撃たれて逃げた後に死んだことを恨んで復讐しようとして恩田に頼んでブルースを廃工場に誘き出していた。津坂久はブルースを死んだ兄と同じ目に遇わせるために兄の死に場所の別荘へ移していた。津坂の兄が逃げときに助けた一ノ瀬剛がいて津坂の別荘を知っているからボスたちは捜査したけれども見付かったのは妹の僚子だけで、七曲署に彼女を呼んで兄の居場所を落とそう(尋問して聞き出そう)とする。最初は井川刑事/トシさんがやるけれども上手く行かなくて怒って机を、思いっ切り、叩いたところでボスと交代する。 ボス――恐い刑事だね、あの人。机、叩くなんて野蛮だよな。んん。これ、今の刑事さん、忘れてった。 僚子――(頷く) ボス――否、ねえ。俺はねぇ、五年前にさぁ、心臓を切った大手術をしたんですよ。で、それ以来、プッツリ、医者にいわれてこの大好きだった煙草をこう禁煙してるわけ。 僚子――(小さく頷く) ボス――で、今吸っちゃおっかなぁ〜って思ってんだけど。あぁ、看護婦さんだったね。 僚子――はい。 ボス――えぇ、良く、良くないんだろ。 僚子――行けません。 ボス――行けませんか……。ううん、まぁ、まぁ。誰もいませんね。へっへっへっへ。ちょっ、ちょっとだけ。ぐふ、ぐほっ、げふぉ、げふぉ、げふぉ、げふぉ、んん、はぁ。いや〜、は、はぁ、はぁ、何せ、五年振りですからね。はぁぁ。でも良いもんだね。 僚子――(微動だにしない) ボス――へへっ。まぁ、看護婦さんだからそんなことは良くご存知だと思うけども命ってやつは何にも代え難く、そしてこう重い。大切なものだ。看護婦さんだからその良く分かると思うんだがね、そうそうそうそう、煙草でいうとね、そうだな、で、もう何年になるかなぁ、僕の子分で、背の高い、ちょっと気障なね、スコッチっていう男がいたんだよ。 僚子――(微かに頷く) ボス――お酒はスコッチ。珈琲、日本のお茶は、絶対、飲まない。朝はモーニングティー。そして月給だって高くないのに煙草と来たらこの細長いびゅーっとした金色のね、洋もくっていうのかな、こう煙草を吸ってる男がいてね。そいつの持病があって。犯人を追い詰めたときに、ここ一番、っていうときに吐血してね。血、吐いている隙に撃たれて。もちろん犯人も仕留めたんだけど――。口の周り、真っ赤にして死んでった。 僚子――(微動だにしない) ボス――随分、部下を亡くしましたよ。部下の命は俺の命。命ってのは本当に尊いもんだよねぇ。看護婦さんとこの病院だって新しい命が誕生して、又、古い命がこう消えてっちゃうっていうことをしょっちゅう繰り返してるでしょう。ねぇ。今、又一人、若い刑事の命が消えかかっているんだよ。そいつはね、ちょっとガサツな男なんだけど、今年、子供が生まれて、そうだなぁ、あれ、何ヵ月かなぁ、まだお母さんから離れない乳飲み子なんだけどね……。もう一回、そいつをその子供に合わせてやりたいんだ。もう、止めた方が良いね。 僚子――はい。 ボス――じゃあ、もう一服ね。へへっ。否、勿体ねぇな。兄さん、今、どこにいる。 僚子――……横浜です。 ボス――……ありがとう。 そして又、ボスと共に|太陽にほえろ!|日本テレビ 石原裕次郎が病を押して出演したというのが良く分かる演技で、声の調子は窶れたようで、悲壮感が少し漂っている。しかしそれかドラマを越えたリアリティーを与えて俳優以上に人間が出ているのが凄いと驚く。 台詞は本人が考えたからやはり役柄以上に性格が出ていると感じる。 可笑しみがあってお茶目な印象を与える。若い女性の参考人に対して可愛いおじさみたいな接し方をしている。太陽にほえろ!は刑事ドラマとして男だらけの熱血な印象があるけれども完全にずれているところが笑ってしまう。 話の内容もあちこちに流れて収拾が付かないくらいで、そうやって相手の気持ちを解き解しながら真実を聞き出すためか、ユーモアたっぷりの展開になっている。 だから全てが何ということもない、すなわち日常会話に等しくて主題として取り上げられる命の尊さも大したものとして伝わって来ないけど、それがしかし逆に物凄く価値があると考えられる。 命の尊さが有り触れたものとして表現された そして又、ボスと共に|太陽にほえろ!|日本テレビ 石原裕次郎は命の尊さをいつでもそばにあるという感触で捉えているのが人間として尊敬に値すると思う。 太陽にほえろ!の最終回の落としの場面はユーモアたっぷりで他のところで犯人に捕まって死にかけの若い刑事を考えると巫山戯た印象さえも与えるくらいなんだけど、しかしだからこそ些細な日常と切り離せない現実そのものの中に命の尊さを笑うしかないくらいどうしもようもなく親身に伝えることに成功していると認める。 独特な表現で、観たことのない演技で、ドラマで自分を出し捲った衝撃も大きい。ドラマに出ていることを完全に忘れさせるリアリティーがあるので、ひょっとしたら物凄く下手糞な俳優にも思われるにせよ、ドキュメントに近い趣きでフィクションをやれるというのは飛んでもなく見事だし、演劇として極めて芸術的と称えたい。 命の尊さがこれほど身近に抜き差しならない今此処で受け取れる経験は貴重だ。普通、実生活以外ではあり得ない。ドラマにかぎらず、色んな仕方で受け取る命の尊さだけれども直接の触れ合いなしに心に届くことは余りに珍し過ぎる。 石原裕次郎は日本の昭和時代を象徴する俳優で、誰でも知っているような超大スターだったけれども太陽にほえろ!の最終回の落としの場面を観るかぎり、もはや作品を通じて人々に一つの真実を明け渡す俳優としての手腕に脱帽する他はない。 スコッチに触れて自殺した沖雅也を思い起こさせた スコッチよ静かに眠れ|太陽にほえろ!|日本テレビ 石原裕次郎が考えた命の尊さの台詞には自分の大病の経験が織り込まれていた。「心臓を切った大手術をしたんですよ」。実生活と重なって感動するけれどももう一つ現実と結び付くところがあってそれがスコッチの部分なんだ。「スコッチっていう男がいたんだよ」。他にも色んな部下がボスにはいるし、台詞でもいわれるように亡くなった部下は多かったのに一人だけ取り上げられたのはなぜかと気になる。 太陽にほえろ!でスコッチを演じていた俳優の沖雅也が自殺したためで、最終回の命の尊さの台詞に相応しく織り込まれるに至った。 石原裕次郎は沖雅也よりも十八歳上で、大きく離れていたけれども1971年の映画男の世界で共演してから意気投合したらしい。 沖雅也は1983年に自殺した。数年前から躁鬱病(双極性障害)だったといわれる。不遇な家庭環境から中学時代に家出して見ず知らずのホモの日景忠男に拾われたように芸能界へデビューすると瞬く間に人気者になった。 過密なスケジュールが悩ましい生い立ちに追い打ちをかけるように心身の不調を病的に加速させたか。1981年に自殺未遂の交通事故を起こした。そのときに躁鬱病と診断されたようだけど、さらに肝炎を発症したり、災難が重なった。 1982年に心身の不調で太陽にほえろ!も予定より早く降板した。石原裕次郎の最終回の台詞でいわれるけれども滝刑事/スコッチは追跡する犯人から銃撃された傷によって病気を抱えるようになり、別の事件の捜査で解決後に喀血して死ぬという結末を迎えた。 沖雅也がホテルの屋上から飛び降り自殺を遂げたのが翌年の1983年で、当時、養子縁組で養父になっていた日景忠男に向けて「おやじ、涅槃でまっている」という遺書の言葉(封筒の宛名代わり)が報道されたのを今でも本当に良く覚えている。 石原裕次郎は相当なショックを受けたようだ。已むに已まれない思いで自殺した沖雅也の事情をスコッチの死に重ね合わせて伝えるところは本当に良いと思う。 人の死を心から悼むというのはこういうことかと良く教えられるようだ。つまり彼の気持ちについては何一つ語らず、自分にとってどんな存在だったかが詳らかに示されて行く。スコッチがボスにとって「部下の命は俺の命」だから一心同体だったのはきっと沖雅也が石原裕次郎にとって何だったかと変わらないと思う。さもなければ太陽にほえろ!の長年の記念すべき最終回の要所に取り上げるに足りなかっただろう。 石原裕次郎が命の尊さをそれ自体の大事さと共に愛を込めて捉えられたときの重大さを含めて考えたのは人間として本当に偉大だと認める。 参考サイト「5年前にさぁ…心臓を切った大手術をしたんですよ」石原裕次郎のアドリブが光る“あの刑事ドラマ”の最終回石原裕次郎さん『太陽にほえろ!』ラストシーンで吸った闘病中のタバコ太陽にほえろ! 第718話「そして又、ボスと共に」 コメント 新しい投稿 前の投稿
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