生島浩の5:55の心の目に光り輝く尊さ 結城永人 - 2023年1月23日 (月) 日本のホキ美術館は日本人の画家の写真のように細密に描かれた写実絵画を中心的に所蔵している。その中で、絵を印刷したポストカードの売り上げがホキ美術館の設立当初から一位で、常に最高の人気を誇るのが生島浩の5:55(五時五十五分)といわれる。僕も一見して忽ち引き付けられる物凄い魅力を感じた。 生島浩の5:55の魅力とは何だろう 生島浩の5:55|ホキ美術館 モデルの女性が美人ギタリストの村治佳織と美人俳優の北川景子を足して二で割ったような正真正銘の美人で、若々しく澄ました雰囲気が素晴らしく可愛いから注目せざるを得ないと真っ先に感じる。 絵の内容は画家の生島浩が女性にモデルを頼んで断られて知人に説得して貰って午後六時までの約束でやって貰ったけど、題名の5:55に示されたように終わりの時間が近付くと落ち着きがなくなってもはや気持ちが帰り始めてそわそわした様子を描いたとされる。 知ると確かにその通りの絵だと認めるし、改めて見ながら色んな思いが湧いて来る。 意外と面白い絵だから特別な気持ちで目が釘付けになる モデルの女性がそわそわしているのは本当はあってはならないことだと思う。基本的に動いては行けないという画家との約束事を破っているのが最も面白い。現実味が迸るほどの今この瞬間の絵になってしまっているように見える。 あり得ないからこそありえる世界というか、いつもの意識からはみ出した新しさを感じるし、慣れた気持ちでは忘れそうな何かに触れさせてくれるんだ。 画家との約束事を破ったという状況から考えるとモデルの内面も味わい深いものに変わって来る 表情や仕草の描かれ方が絶妙で、見ながらモデルが何を思っているかはいい当てることが難しい。落ち着きを失ってしまって悪いと悔いるのか、最初から乗り気ではないきからそのくらい許して欲しいのか、または次の予定で頭が一杯で何も思ってないのか。生島浩の表現が決定不可能な印象を与えていて5:55を味わい深い絵に変えている。 それこそ謎めいた微笑みを浮かべるといわれるレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザに通じる優れた肖像画の奥深い魅力を受け取る。 たぶん事前に絵の内容を知らなくてもモデルの女性の横目遣いで、ちょっと悩んだような不穏な様子が何だろうと思わせることがなかったら正真正銘の美人を目にするものの絵としての驚きは少なくて記憶には残り難かったかも知れない。 生島浩は海外でフェルメールを学んだ The Art of Painting by Johannes Vermeer / Public domain 初めて5:55を見て美しさと謎めきで言葉に詰まらせる非常に優れた肖像画なので、描いた生島浩は極めて素晴らしい画家だと思う。 調べると1958年生まれで、若い頃に海外で修行していてアメリカのメトロポリタン美術館で色んな画家の作品を模写してその後はオーストリアのウィーン美術史美術館でフェルメールの絵画芸術を集中的に模写したんだ。 フェルメール「絵画芸術」 生島浩 ウィーン美術史美術館にて模写 Copy of Vermeer-The Art of Painting : Hiroshi IkushimaNew/フェルメール「絵画芸術」 生島浩 ウィーン美術史美術館にて模写 Copy of Vermeer-The Art of Painting : Hiroshi Ikushima フェルメールの作風で何よりも特徴的なのは絵が光を放って見えるところだけど、生島浩の5:55に共通点があると感じる。影の力強さもあってフェルメールと対照的な同時代の画家のレンブラントに近いかも知れない。しかし光が差した部分は目に染みるほどの明るさではないか。普通よりもインパクトが大きくてはっと息を飲まされる。 そして構図も似ている。部屋の中に人物がいて窓から差し込んだ光を受けて輝いているというのはフェルメールで良くある構図だ。生島浩の5:55は全く同じといって良い。意図的かどうかは分からないけれどもフェルメールの時間が止まったような趣きとは対照的に扱われた。女性の落ち着かない様子が一瞬の空白を揺がして絵全体を動きのあるものに思わせている。 青みがかった灰色がモデルの美貌を引き立たせ捲っている 個人的に好きなのが色味で、特に女性の衣服の青みがかった灰色がブログのテーマカラーとも近い。同系色の上が白っぽくて下が黒っぽいグラデーションになった組み合わせがファッションとして素敵だ。僕自身もそんな色の服を持っていて――成人式のスーツも揃えたagnes b.のポロシャツで見付けて白と灰色と青みがかった灰色の三枚を買った――青春期に気に入って良く着ていた。今でももちろん好きだからブログのテーマカラーにしたくなるし、女性の衣服はシックで、とても良い色だと感じて止まない。 生島浩は5:55について色調も地味なこの絵が思っていたより評判が悪くないようなので、ちょっと驚いてしまいました。おそらくは、この絵に対してというよりは、この絵に登場している彼女の魅力に反応しているようにも思えます(画家とモデル)と捉えていたようだ。 確かに壁も机も衣服も暗くて地味といえば地味な絵だけれども光が当たったモデルの顔が余りに華やか過ぎてその他が全て吹き飛ばされてしまうのが凄い。 逆にいうと地味な色味が女性の引き立て役として完璧に機能しているわけで、見惚れるまでの美貌を受け取らせることに結実している。 本当に目を閉じて5:55を思い浮かべてみるとモデルの女性の美貌だけが光り輝いている 生島浩はフェルメールと同一視されることを必ずしも喜ばなかったようだけれども肉眼で見て感動するかどうかが大きな違いだろう。 僕はどちらの絵も実物を見たことはなくて写真から想像するだけにせよ、心眼で見て感動するのが5:55ではないか。たとえ肉眼で見ても心に入って来るものの尊さを教えてくれるようだ。絵を前にした経験よりも忘れられなくて記憶に残される世界が愛おしい。 参考サイト5:55ホキ美術館 ギャラリートーク 生島浩さん コメント 新しい投稿 前の投稿
コメント