鳴かないホトトギスの織田信長と豊臣秀吉と徳川家康の句は詠み人知らずだった 結城永人 - 2017年9月15日 (金) 日本史の取り分け戦国時代を代表する武将の織田信長と豊臣秀吉と徳川家康を非常に分かり易く伝える言葉として三者三様のホトトギスの句が良く知られている。 何れも本人が詠んだわけではなくて江戸時代の大名の一人で、肥前国平戸藩の第九代藩主だった松浦清が作家として静山の号で書き残した随筆集の甲子夜話(かっしやわ)に詠み人知らずで取り上げて世の中に広まったらしい。 松浦静山が伝えた鳴かないホトトギスの五つの句 Kiyoshi Matsuura by Unknown / Public domain 松浦静山はどこかの誰かが織田信長と豊臣秀吉と徳川家康の三つの句とさらに匿名で二つの句を詠んでいたのを人伝てに聞いて自作の随筆集の甲子夜話に載せた。 夜話のとき或人の云けるは、人の仮托に出る者ならんが、其人の情実に能く恊へりとなん。 郭公を贈り参せし人あり。されども鳴かざりければ、 なかぬなら殺してしまへ時鳥 織田右府 鳴かずともなかして見せふ杜鵑 豊太閤 なかぬなら鳴まで待よ郭公 大權現様 このあとに二首を添ふ。これ憚る所あるが上へ、固より仮托のことなれば、作家を記せず。 なかぬなら鳥屋へやれよほとゝぎす なかぬなら貰て置けよほとゝぎす 訳文 夜話のときにある人がいったことで、人の仮託に出る者だろうが、その人の情実に良く適っているそうだ。 郭公を贈って参った人がある。ところが鳴かなかったら、 鳴かぬなら殺してしまえ時鳥 織田信長 鳴かずとも鳴かしてみせる杜鵑 豊臣秀吉 鳴かぬなら鳴くまで待つよ郭公 徳川家康 この後に二首を添える。これは憚るところがある上に、元より仮託のことだから、作家を記せない。 鳴かぬなら鳥屋へやれよほとゝぎす 鳴かぬなら貰っておけよほとゝぎす 松浦静山の甲子夜話(訳文は筆者) 次第に世の中に広まって戦国時代の三英傑とも称される織田信長と豊臣秀吉と徳川家康の気になる句を巡り巡って僕も覚えてしまったわけだ。 松浦静山は「情実」と呼んでいるけれども三人の気持ちが手に取るように分かる詠み方が感心させられる。 ホトトギスの漢字の表記には様々なものがある ホトトギス(1)さえずり(舳倉島) - Lesser Cuckoo|野鳥動画図鑑 Wild Bird Japan ホトトギスは漢字で様々な表記がある。甲子夜話では細かく使い分けられていて「時鳥」と「杜鵑」と「郭公」で三者三様の句に表情を与えている。詩的な感性を反映していると思う。 注意すると「郭公」はカッコウだから本来はホトトギスではない。ところが日本ではかつてホトトギスとカッコウが同一視されていたためにどちらでも通用してしまうんだ。 ホトトギスは他にも「子規」や「不如帰」などの漢字があるけど、何れも古来から風雅な鳥として扱われて和歌で詠み継がれてもいたので、鳴かないと親身なまでに詰まらないと考えられる。 織田信長と豊臣秀吉と徳川家康の句は上手く行かない人生で人はどのような態度を取るかと鳴かないホトトギスをお題のように捉えると気持ちは気持ちでも作者として本音がはっきり出ているように味わわれてしまうのが面白い。 かりにホトトギスが生きる喜びならば鳴かなくて詰まらない現実は何もかも酷いだけで死んだ方が益しだろうから世界で《最終的に引けない思い》に真っ先に触れさせるとも過言ではない。 織田信長は恐ろしいほどに勇敢な武将だった Nobunaga Oda by Unknown / Public domain 鳴かぬなら殺してしまえ時鳥 戦国時代の巨星で、乱世の象徴とも見做され得る人物像が浮き彫りにされている。如何にも攻撃的らしく、絶えず、血で血を洗う生き方を示しているんだ。酷薄だし、不満なものは全て木っ端微塵に吹き飛ばすべきだと荒々しい気持ちだったからこそ武力が最優先される社会には相応しいばかりだったように受け留めずにはいない。 豊臣秀吉は甚だしいほどに屈強な武将だった Hideyoshi Toyotomi by Kano Mitsunobu / Public domain 鳴かずとも鳴かせてみせる杜鵑 目の前の困難に立ち向かう、すなわち負けない気持ちが非常に大きかったのではないか。天下統一の道半ばで本能寺の変に倒れた主君の織田信長の遺志を家臣として引き継きながらついには自分こそ天下人として名を上げると共に実現してしまった。人柄は義理固くて聡明だったとしても諦めずに頑張り抜いた生き方が印象に残る。 徳川家康は凄まじいほどに冷静な武将だった Ieyasu Tokugawa by Kano Tanyu / Public domain 鳴かぬなら鳴くまで待つよ郭公 耐え忍んで夢を叶えるから努力家だと感じるけれども先行きが見通せないと時間だけが無駄に過ぎてしまう。何がどうなると物事を弁えながら進めて行くから良いのかも知れない。同時代で有力視された織田信長や豊臣秀吉とは取り立てて争わず、二人が世を去ってから初めて動き出すように天下統一を果たして江戸幕府まで開いた。 松浦静山が誰かの「仮託」ながら甲子夜話に取り上げた織田信長と豊臣秀吉と徳川家康という戦国時代を代表する三人の句は本当にそれぞれの気持ちを本音から捉えたように個性を克明に打ち出して教えてくれるから凄い。 参考サイト甲子夜話時鳥 コメント 新しい投稿 前の投稿
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