マリアナ海溝の超深海のマリアナスネイルフィッシュは圧倒的なTMAOで水に適した魚の中の魚だった 結城永人 - 2017年8月28日 (月) 地球上で最も深い海を持つとされる太平洋の西側に位置する水深10000m以上のマリアナ海溝の8000m付近にマリアナスネイルフィッシュ(シンカイクサウオの一種のシュードリパリススワイヤーアイ)がいるらしい。水深6000m以上は超深海と呼ばれて大変な水圧がかかるせいか――深さ10m毎に、一気圧、増える――生物自体が殆ど生息し得ない。魚類で確認された中ではマリアナスネイルフィッシュが、唯一、並外れた潜水能力を備えながら超深海の8000m付近まで易々と泳いでいたわけだった。 マリアナスネイルフィッシュとその他の超深海の生物たち マリアナ海溝の水深8,178mにおいて魚類の撮影に成功|jamstecchannel NHKスペシャルの【超深海 地球最深への挑戦】を観て知った。鯰のような雰囲気で泳いでる。白っぽくてずんぐりむっくりした風体が可愛いらしい。 マリアナスネイルフィッシュは口の周りの幾つもの穴で感覚を受け取る シリーズ ディープ・オーシャン 「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」|NHKスペシャル|NHK 口の周りに穴が幾つも開いて並んでいるのが特徴なんだ。水の流れを感知するためかも知れないといわれる。本当に太陽の光は微塵も届かない深過ぎる余りの海の底で生きて行くためにはどんな生物にとっても目はおよそ役に立たないはずだ。マリアナスネイルフィッシュは口の周りの幾つもの穴で、世界を主に感じ取りながら暮らしも初めて成り立つと想像する。 マリアナスネイルフィッシュはダイダラボッチを食べて暮らしている ダイダラボッチ (Alicella gigantea) by Alan Jamieson, Oceanlab, University of Aberdeen, UK / CC BY-SA 大きな蟷螂型のヨコエビのダイダラボッチが餌なんだ。近くに現れると水の流れが変わるからマリアナスネイルフィッシュは何も見えなくても感じ取って食い付くのに良いとしたら口の周りの幾つもの穴が生命線のはずだろう。 ダイダラボッチは大変な水圧に耐えるために殻が非常に固いから食べるのも難しいし、とてもではないけれども歯が立たないと考えてしまう。マリアナスネイルフィッシュはしかし鋭くて頑丈な歯を、百本以上、持っていて的確に食い付くと共に口の奥のもう一つの顎で強烈に噛み潰すらしい。非常に固い殻に覆われているダイダラボッチでも捕まれば一溜まりもなく、食べられるしかない運命を余儀なくされている。 ダイダラボッチはカイコウオオソコエビを食べて暮らしている カイコウオオソコエビ (Hirondellea gigas) by Daiju Azuma / CC BY-SA マリアナ海溝の8000m付近にはマリアナスネイルフィッシュとダイダラボッチの他に小さなヨコエビのカイコウオオソコエビもいると分かっている。ダイダラボッチはカイコウオオソコエビを、そしてカイコウオオソコエビは他の生物の死骸や木の破片を食べながら暮らしているようなんだ。 するとたった三種類の生物だけで成り立っている世界が超深海の広い場所に極めてシンプルに成り立っていると驚かされる。 美しさが分かり易く溢れているせいだ。神の手がマリアナスネイルフィッシュとダイダラボッチとカイコウオオソコエビを完全無欠に配置したのではないか。三種類と覚え易いからこそ生命の神秘がいつになく速やかに理解されるし、超深海で色々と惑わされる要素が少ない環境なのも大きいに違いない。 Pseudoliparis swirei by Gerringer M. E., Linley T. D., Jamieson A. J., Goetze E., Drazen J. C / CC BY / trimmed from original マリアナ海溝の水深8000m付近のマリアナスネイルフィッシュとダイダラボッチとカイコウオオソコエビはそれ自体が素晴らしい詩に匹敵する印象を与えるんだ。 何れも大変な水圧なので――NHKスペシャルでは指先にかかる水圧は800kgみたいな表現を多用していた――押し潰されずに生き延びているのが不思議で堪らなくなる。 重要なのは何よりもTMAOではないかと考えられていた Pseudoliparis swirei by Gerringer M. E., Linley T. D., Jamieson A. J., Goetze E., Drazen J. C. / CC BY / trimmed from original 超深海だと細胞を構成する蛋白質が水に押し潰されるから生物は死滅する他はないのが普通だけど、しかしながらTMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)が増えるほどに水を蛋白質から引き離して細胞が全て維持される。 面白いのはTMAOは魚介類の特有の匂いの元になっているらしい Pseudoliparis swirei by Gerringer M. E., Linley T. D., Jamieson A. J., Goetze E., Drazen J. C / CC BY / trimmed from original どんな動物でも持っている代謝中間体(体内の代謝経路の途中で産生されて機能する成分)だけれども取り分け海洋生物にとってはオスモライト/浸透圧調節物質として塩水の影響から上がってしまう細胞の塩分濃度を下げるために欠かせないみたいだ。加えて水圧に耐えるためにも役立つとすると深海に生息するほどにそれだけ多く必要だろうと察せられずにいない。 魚類ではマリアナスネイルフィッシュが圧倒的にTMAOを持っていて超深海の800kgの水圧でも撥ね除けてしまうから如何にも魚らしい、すなわち魚の中の魚という水に適した生き方を実現すると同時に象徴している存在とも過言ではないと感心する。 マリアナ海溝の底は10000m以上の深さを誇っているといわれる Map of collection locations of Pseudoliparis swirei within the Mariana Trench by Gerringer et al. / CC BY マリアナスネイルフィッシュは5000〜9000mの水深にいるけれどもマリアナ海溝の最深部はもっと先で、10000mでさえも越えてしまう。 そこまで行くとカイコウオオソコエビやナマコのような生物しか殆ど見付からないみたいだ。指先にかかる水圧としては1t(1000kg)以上になって細胞がTMAOでも持ち堪えられない可能性が高い。水を撥ね除けても蛋白質同士が打かり合うように押し潰されずにいなくなるせいだ。 カイコウオオソコエビの場合には特有の成分のシロイノシトールが蛋白質同士を引き離して細胞を維持しているのかも知れないといわれる。 飛んでもない能力を身に付けながら暮らしている生物たちによって個性が大事だと本当に良く分かる。学んで過酷な状況でも突破口を探し出さなくてはならないと認めるし、または頑張る気持ちを死に物狂いなまでに応援してくれるようだからマリアナ海溝の超深海は知るほどに嬉しい。 参考サイトマリアナ海溝の水深8,178mにおいて魚類の撮影に成功~魚類の世界最深映像記録を更新~ コメント 新しい投稿 前の投稿
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