モニーク・クレマンのI'm Not in Love(10cc)|恋愛歌
2019年に発表されたモニーク・クレマンのI'm Not in Loveが恋愛歌として胸に響いた。
作詞作曲はエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンで、オリジナルの歌手は二人とも所属するバンドの10cc(テンシーシー)になる。
- 10cc(1975/オリジナル)
エリック・スチュワートが結婚して八年の妻からいつも愛しているといわないと尋ねられて、毎日、いっても意味を失う言葉だといって聞かせているうちに別のいい方として「I'm not in with you」(僕は君に恋してない)と逆心理を突くように思い付いたのが制作の発端になった。
I'm Not in Loveの作詞作曲の大部分はエリック・スチュワートが手がけてグレアム・グールドマンがメロディのコードや冒頭や中間のアイデアを出した。
二三日で完成して最初はギターが中心のボサノヴァのアレンジで、仕上げたけれども演奏を聴いた10ccの残りの二人のメンバーのケヴィン・ゴドレーとロル・クレームが詰まらないと難色を示したために作品として採用されず、捨てられてしまった。
ところが、1974年のある日、イギリスのストックポートのストロベリースタジオで、10ccがアルバムのThe Original Soundtrackの収録曲のUne Nuit A Parisの録音を行っていた頃にスタッフが以前のI'm Not in Loveのメロディを覚えていて歌っているのをエリック・スチュワートが気付いたんだ。やはり良い曲だと思い直して、もう一度、作品として採用したいと他のメンバーに訴えた。するとケヴィン・ゴドレーが訝りつつも誰もやったことがないような作品ならば納得するといって声を楽器代わりにする手法を提案した。驚かされたもののエリック・スチュワートと他の二人のメンバーも乗り気になって制作が改めて開始された。
声のエンジニアを務めたエリック・スチュワートを除く三人のメンバーが「あー」という声を半音階毎に十六回(16トラック分)を録音して各音階に四十八声(三人の十六倍)のコーラスを作り上げた。一人当たり、同じ音を歌うのが十六回というのは同じ人でも微妙にずれていたり、声の出し方が僅かに違うために重ねると複数の合奏のような豪華な効果が得られたわけだった。曲に必要な十三音について全て合わせて合計で六百二十四人に相当する声を三週間で集めた。
録音されたコーラスを長く再生するためにテープループという方法が取られた。録音テープの両端を繋いで循環的に再生できるようにする。繋ぎ目に雑音が入るのが難点で、エリック・スチュワートはテープループを12フィート/約3.7mまで伸ばして使って雑音の出現回数を降らすように努めたらしい。
十三の音階のテープループはミキシングコンソールのフェーダーで曲に合わせてメンバーがまるで演奏するように音量を出し入れして一つのバックトラックとして纏められた。
フェーダーは最も下げても少しだけ余って雑音が出るように工夫されていてコーラスに独特の雰囲気を与えている。
その後、中間部にベースのソロを入れようとするもケヴィン・ゴドレーが納得せず、エリック・スチュワートが悩んでいるとロル・クレームが「Be quiet, big boys don't cry」(静かに、大物は泣かない)といったのが面白くて中間部に語りとしてベースのソロと一緒に入れることになった。
相応しい声の持ち主を探しているとストロベリースタジオの受付をやっていたキャシー・レッドファーンが現れてエリック・スチュワートに「Eric, sorry to bother you. There's a telephone call for you」(エリックさん、お邪魔して済みません。貴方に電話があります)といったのをロル・クレームが聞くや否や惚れ込んで他のメンバーも納得して参加して貰うとついにI'm Not in Loveは完成された。
1975年にアルバムのThe Original Soundtrackに収録されて発表されて同年中にシングルカットされた。
モニーク・クレマンのI'm Not in Loveのカヴァーはオリジナルの良さに一層と磨きをかけたような仕上がりが抜群だ。この曲の特徴は何といっても幾重にも取り込まれたコーラスのどうにも名状し難い雰囲気、味わって夢見心地そのものだけれどもその中に溶け込んで行くような歌声と穏やかに寄り添う楽音のアレンジが絶品ではないか。透明感に満ち溢れてオリジナルの良さを再確認すると共に素晴らしい音の世界を個性的に受け取る。
歌詞の内容
出だしの部分;
恋してない
忘れないで
それは只の軽口さ
要するに只
電話する
誤解せず、真に受けないで恋してない、否々、何故って……
原文
I'm not in love
So don't forget it
It's just a silly phase I'm going through
And just because
I call you up
Don't get me wrong, don't think you've got it madeI'm not in love, no no, it's because..
恋愛歌だけれども「恋してない」(I'm not in love)というのが裏腹の気持ちを表している。そうした言葉を口にしながら決して離れない、歌い続けられるところに妙用の絆というか、惹かれ合う二人の世界がまるで硝子細工のように儚くも美しく転がっている感じがする。深読みせず、むしろ受け流すように意味に固執しないで聴くと本当に素敵だ。
その他のカヴァー
十五組の楽曲;
- リッチー・ヘヴンス(1976)
- ブラザーフッドオヴマン(1977)
- デニス・イングルウッド(1987)
- デニ・ハインズ(1996)
- ファンラヴィンクリミナルズ(1999)
- オリーヴ(2000)
- トーリー・エイモス(2001)
- ダニー・オズモンド(2002)
- クイーンラティファ(2007)
- スーザン・ウォン(2009)
- ヒラー&ヒッグス(2010)
- マーク・コゼレック(2016)
- カレン・ソウサ(2017)
- ハラルド・ガベル(2017)
- ケルシー・ルー(2019)
世界でカヴァーが続々と生まれているI'm Not in Loveは恋愛歌のスタンダードな名曲に他ならない。
参考:アイム・ノット・イン・ラヴ I'm Not in Love I'm Not In Love by 10cc 10cc – I'm Not in Love Lyrics Cover versions of I'm Not in Love by 10cc
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