ベラスケスのラスメニーナスの受け留め切れなかった芸術的な衝撃へ 結城永人 - 2017年2月28日 (火) 謎多い絵として真っ先に思い浮かぶベラスケスのラスメニーナス(女官たち)は画面全体が不思議な構成に覆われている。描かれた主要な人物たちが部屋の天井から押し潰されたように感じさせるとしたらゴッホの烏のいる麦畑の大変な空の様子と同じくらい悩ましくも美しいかぎりだから作風は天才的だとも過言ではないだろう。 ただし比べてみればベラスケスのラスメニーナスが翻って愛するほどに優しく味わわれてしまうのも構図というスタイルだけに止まりそうなので、絵よりは芸術として概略的に捉えるべき認識が正しいのではないか、考え出すと印象はちょっと薄いようだし、デザインこそ特徴的に個性的に認められる。 分かり易いはずだし、ヴァン・ゴッホの烏のいる麦畑のように全ての対象が《圧縮された詩情》と共に展開された正に自然な構図ではないから理解するために例えばランボーのイルミナシオンを参照しながら超言語的に解読するような手間は省かれてしまうらしい、なるほど普遍的には謎多いわけでもなかったといい直しては可笑しいにせよ、ベラスケスのラスメニーナスは人間そのものにとって。 心に描き出されるラスメニーナスの不思議な魅力 Las Meninas by Diego Velázquez / Public domain ベラスケスは十七世紀のスペインの画家で、バロック様式を代表するような絵を描いていた。ヨーロッパに近代科学が芽吹き始めたのと呼応してか――ガリレオが「真理はすべてひとたび発見されれば容易く理解される。問題はそれを発見するという事にある」と諸々の自然現象を実験的な手法で観測した頃だった――人々は理論から事実を初めて捉え直したともいってみたくなる知覚の新しさならば精緻なイメージが溢れているのは確かだろう。反対に精神の外側へも同時に恐ろしく気付いたかも知れないし――レンブラントの夜警こそ何もかもぴったりに味わわれるようだ――精緻なイメージだけではなくて厳重なイメージも切り放しては理解できなさそうに思われる、バロック様式については。王室に仕えていたベラスケスは宮廷芸術を体現する存在だったけれども当時のスペイン国王のフェリペ四世に厚遇されてよもや他の誰にも自分の肖像は描かせないと心底に惚れ込まれながら悠々自適に暮らしていたらしい。 どこか楽観的で、息苦しさを持たない様子に見受けられる絵なのが自己表現としてはユニークな所以ではないか。 ラスメニーナスはベラスケスの五十七歳の作品で――後から追加された画面左の画家/自画像の胸の赤い十字の紋章(サンティアゴ騎士団へベラスケスが加入した栄誉のために新しく描かれたらしい)は除く――フェリペ四世に纏わる宮廷での日常生活の場面を取り上げている。 何が凄いのかは構図だけれども絵を超越している。部屋の奥に鏡かけられていてフェリペ四世の夫妻が写っているために画家の裏向きのキャンバスのモチーフになっているのではないか。つまり絵には全く描かれてない《フェリペ四世の夫妻の存在》が人々に画家の裏向きのキャンバスを通じてイメージとして純然と想像されずにいなくなっている。 ベラスケスはラスメニーナスで《フェリペ四世の夫妻の存在》を絵からイメージへとまるで昇華したように実際には描かないで、見ている人々の心だけに具現化される構図を作り出しているから凄いと唸り出したわけだ。 作品との出会いが芸術的な衝撃ならば目の前には経験されないから受け留め切れない もはやどれだけ魅力的な絵なのかも計り知れない境地に送り込まれてしまうしかなくなるかぎりだった。 誰でもできそうだし、夢想家にとっては当たり前のイメージの世界だけれども絵から辿り着いてみると重みが、全然、違ってリアルだし、ベラスケスの自分を応援してくれるフェリペ四世の夫妻への思いが余りにも素晴らし過ぎると良く分かる。 日頃、口には出せない感謝そのものがそれこそヴァン・ゴッホの《圧縮された詩情》と同じくらい伝わって来るというか――僕の永遠の詩(心そのものでしか完全には見聞され得ない言葉遣い)にも匹敵する味わいだろう――ベラスケスは《フェリペ四世の夫妻の存在》によって心にイメージとして純然に描き出したので、本当に感動するし、掴まれた一つの優しさとしては人間的にも見習わざるを得なくて教えてくれて有り難いかぎり、もはや尊敬するべきだと速やかに頷かれもする。 不思議なので、ベラスケスはどうして描かずに描けたのか、ラスメニーナスが絵を超越してイメージを心の目に見詰めさせた思考を知っておきたいとカフカの迷宮的な作品世界もさながらに彷彿いながら追求しないまま、黙っていても詰まらないと本質的に感じる。 ベラスケスの以前の鏡のヴィーナスが切欠を与える The Rokeby Venus by Diego Velázquez / Public domain これもラスメニーナスと同様に鏡がトリッキーに使われている絵で、見ていて面白い。思考としてはヴィーナスの思いが鏡に反映しつつもぼかされていて画家の自己表現が可能性を失っている。 ヴィーナスは自分で自分の顔を見られなくて鏡で見るしかない。それは厳密には見たわけではないとベラスケスは真実を捉えているために鏡のヴィーナスで鏡の中をぼかしているようなんだ。 明らかに見たわけではないならば背中も同じだろうから全てを暗示するように画面に大きく横たわっていると考えて良いと思う。 ベラスケスにとって鏡のヴィーナスは見えない世界をモチーフとして取り上げていて意味深なのは鏡を持っている天使だれけれども又別に眼差しが可能なかぎりは何もかも清らかでなければならないと詩的にも告げているのではないか。 もしも見るべき真実が思想として画家に問われるならば天使が介した何かという仕方でのみ確実に捉えようという芸術上の宣言にも受け取られてしまう。 独特なのは全てが客観化されている。ヴィーナスの眼差しが鏡に向いていてその顔がぼやけているから見えない気持ちそのものが背中で象徴されるように完璧に表現されている。または背中がヴィーナスの見えない世界を物語るならば眼差しの先のぼやけた鏡が抱える気持ちを必要十分に示しているわけだ。 ベラスケスは鏡のヴィーナスで自己表現のブロセスを方法論的に経験したかも知れない 作品の効果がどう得られるかを絵の実作によって芸術的に見付け出した。全てを客観化してイメージの整合性を高めるというのは学問の理論ならば認識として当然にせよ、バロック様式にも相応しく、極めて重視されていたのではないかと推測される。 だから天使も非常に可愛い、装飾的で。筆使いは必ずしも生気的ではないにも拘わらず、風合いが良いのは鏡のヴィーナスは見えない世界というモチーフから的確に外れているせいだ。画家として清らかな眼差しを求める思想という個人的なテーマに沿ってのみ描かれているために却って現代的な趣きを指摘したくなる。 造形上、人間の子供に鳥の羽根が付いているわけだから見た目は不自然なはずなのに相当に上手く纏められてないか。違和感がとても少ないと僕の知るかぎりでは断トツの出来映えだと感心させられるし、好みのデザインが採られている。個人が主観的に表現しないとそれぞれのイメージが根本的に統合されないはずならばそうした印象派の画家が目立って出て来る二十世紀以前のヨーロッパで奇跡だった。 ベラスケスは印象派の画家に大きな影響を与えたというか、死後、後世に再発見されて重視された歴史もある。絵が近くで見ると崩れているのに遠くで見ると纏まっているらしくて芸術的に効果的に描かれていたと高く評価された。物事の見方が印象派の画家とベラスケスは同じだった。 突き詰めるときっとバロック様式が表現者として生きられていたせいなんだ 精緻なイメージと厳重なイメージ、いい換えれば安らぎと恐ろしさの中間地点によって絵を底上げしている。レンブラントの光と影の明快な対照性と比べればおよそ神妙な平板性かも知れない。様々の対象が打つかり合わずに混ざり合うような仕方で絵を捉えていたために印象的な描き方になったのではないか、結果として。イメージまでは変化してないし、極端にいえばヴァン・ゴッホが烏のいる麦畑に赤い丸だけで雛罌粟を描いたような印象派の画家の独自のスタイルには全く向いてない。 ラスメニーナスは鏡のヴィーナスでの方法論が如実に認められるし、激烈に打ち出されたのではないか。見えない気持ちが知られたせいで、ついに《フェリペ四世の夫妻の存在》として、文字通り、絵には描かれず、見えないままに仕上げられてしまった――。 元々は題名も「ラファミリア」(家族)だったといわれる。なのでベラスケスは宮廷での日常生活の場面を取り上げながらフェリペ四世の夫妻の愛に包まれていると何よりも表現したかったのではないか。気持ちは感謝としかいえないけれども皆と共に自分も画家として描き込みながら微笑ましいかぎりの愛の恩返しを構想していたのは間違いない。 ラスメニーナスが心に描き得るもう一つの真実 Self-portrait by Diego Velázquez / Public domain 僕が最も驚くのは見えない絵の心のイメージもさることながらラスメニーナスの画面全体がその中の画家のキャンバスのモチーフになっていると察せられるんだ。 思考が矛盾するから順序立てて示すとラスメニーナスの第一段階では見えない絵の心のイメージが大事なんだ。しかし第二段階では画家の裏向きのキャンバスにはフェリペ四世の夫妻よりもラスメニーナスこそ対象化されていると想像できるようになっている。 あり得ないのに成り立つのはラスメニーナスが絵を超越しているためで、心のイメージを絵として改めて概念的に認め直した能力から来ている。 ベラスケスは絵とは何かを問いかけとして今正に触れ合う作品から引き離したんだ、ラスメニーナスを芸術的な衝撃を受け留め切れないまでに完成しながら。 人間の心に絵はあるという立場から、もう一度、目を向けてみるとラスメニーナスの画面左の画家、すなわちベラスケスが密かにも描いているのはラスメニーナスそのものに他ならないのではないか。 一言では巻き込まれながら見るしかない。キャンバスに何かを描いている画家のそばにいるのと変わらないし、自己表現のプロセスに社会的に立ち会っているに等しいわけなので、ベラスケスの人生こそ知覚されてしまうという絵がラスメニーナスだった。 構図の妙によって二段階目の鑑賞から訪れる世界だからよもや疑い得ないはずだ 人間の心に絵はあるという立場を振り切るように逆しまならば無理に必死に見なくて済むのが非常に嬉しい。 人々のせいとも決してかぎらない。目の前の絵しか本物ではないと仮定しても心のイメージからイメージの絵に見方が造作なく切り替えられるんだ。むしろベラスケスのせいならば狙ってのラスメニーナスなのかどうかが本当に本当に気になって仕様かなくなる。 素晴らし過ぎる余りの世界こそ繰り広げられていると今此処では味わわれるからベラスケスの人間性から把握するしかないだろう。天使のようにまるで清らかな性格が功を奏した。画家としての弛みない努力がそして自分らしさとして掴んだ手によってラスメニーナスには結実したように感じられる。すれば芸術を愛しながら同じように全てを受け取って贔屓にせざるを得なかったフェリペ四世との出会いこそ大きかったはずだし、人生の賜物だったのではないか。 参考サイトディエゴ・ベラスケスラス・メニーナス鏡のヴィーナス コメント 新しい投稿 前の投稿
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